カレントアウェアネス-E
No.287 2015.08.27
E1701
「ウィキペディア・タウン in 関西館」
1.はじめに
2015年6月30日に閣議決定された政府の「世界最先端IT国家創造宣言」では,目指すべき社会・姿を実現するための取組として,オープンデータの活用推進が筆頭にあげられている。また,図書館関係者の間では,公共図書館には地域の情報拠点としての新たな役割の必要性が指摘されていて,さらに文部科学省の調査研究報告書では,公共図書館が優先して取り組むことが望ましい課題として,地域文化のデジタルアーカイブやインターネット等を使った情報発信が挙げられている。
近年,市民参加型で地域の文化資源をデジタルアーカイブする手法として,ウィキペディア・タウンという活動が始まりつつある。ウィキペディア・タウンは,いわば市民参加型オープンデータプラットフォームであるWikipediaに,町をまるごとデジタルアーカイブしてしまおうという取組である。2012年に英国で始まったこの取組は,国内でも広がりを見せつつある(CA1847参照)。京都府南部では2015年3月8日に,Code for 山城が「精華町ウィキペディア・タウン」を行った。
2.ウィキペディア・タウン in 関西館
この「精華町ウィキペディア・タウン」では,国立国会図書館(NDL)関西館,京都府立図書館,精華町立図書館の職員に参加,登壇いただいた。これをきっかけに,より広域の地域活動団体を対象としたウィキペディア・タウンの開催が検討された。これを受け,2015年7月3日,Code for 山城は,精華町に立地するNDL関西館で,同館の利用ガイダンスとして「ウィキペディア・タウン in 関西館」を行った。
これは,国立図書館においてウィキペディア・タウンを行うという日本初の試みで,NDL関西館としても,同館の利用ガイダンスを外部団体と協力して行う新しい試みであった。当日は,精華町の精華ふるさと案内人の会,相楽木綿伝承館,お茶の大学,財団法人和束町活性化センター,京都府立山城郷土資料館,伊丹市立図書館ことば蔵の地域活動関係者,伊丹市立図書館の行政関係者,個人の参加者など,計37名が集まった。
「ウィキペディア・タウン in 関西館」の趣旨は,大きく次の3点である。
(1)地域活動に関わる人々が自らの手で地域の文化情報をWikipediaに記述し,市民参加型オープンデータとして地域情報をインターネットを通じて発信してもらう
(2)Wikipediaは,文献に基づく検証可能な情報を記述する必要があるため,参考文献の調べ方を同館の職員に説明してもらい,同館の豊富な所蔵資料を活用する
(3)ベテランWikipedia編集者の方に直接,Wikipediaの書き方を指導してもらう
午前中はWikipediaによる地域文化情報の発信の意義について筆者から説明した後,参加団体から,その活動内容を紹介してもらった。その後,NDL関西館の職員より,館の説明や文献検索・利用方法の説明があり,その中でもWikipediaと文献資料の関係についての,「Wikipediaはより信頼できる文献への入り口である」という説明には納得させられるところがあった。
午後は,ベテランのWikipedia編集者の方から,Wikipediaの概要と記事を作成・編集する際の注意点について説明を受け,その後参加者は,『京都大辞典』(淡交社)や『角川日本地名大辞典』(角川書店),「国立国会図書館デジタルコレクション」に掲載された様々な資料などを利用して,Wikipediaを作成・編集した。2時間半の作業時間だったが,各自が各地域の記事を作成・編集することができた。最後に成果を発表してもらい,「ウィキペディア・タウン in 関西館」は終了した。
作成または編集された記事項目は以下のとおりである。
●新規項目
京都府関連:「常念寺 (精華町)」,「いごもり祭」,「相楽木綿」,「京都市立安朱小学校」
伊丹市関連:「伊丹公論」,「鳴く虫と郷町」
奈良県関連:「蛙股池」,「椚神社」(イベント終了後に作成)
●加筆項目
京都府関連:「和束町」
※産業と写真などについて加筆,菊池大麓著書のうち教科書2冊について「国立国会図書館デジタルコレクション」へのリンクを行った。
3.おわりに
今回の「ウィキペディア・タウン in 関西館」では,Wikipediaを編集するのは初めてという参加者の方ばかりだったが,イベント終了後に記事を作成された方も含めると参加者全員がWikipediaを編集することができた。また,これを機会にNDL関西館をこれからも利用したいという声,自ら地域情報を発信できたことへの喜びの声,文献の検索や記述についてのレクチャーを評価する感想が寄せられた。
今回のイベントの意義は,地域活動者自身の力で,Wikipediaという多くの人に知られているオープンデータプラットフォームで地域文化情報の発信ができるのだということを知ってもらい,体験してもらったことにある。地域住民自らの力で市民参加型のオープンデータである,Wikipediaによる地域文化情報の発信を進めていくきっかけになることを期待している。さらには,これらのオープンデータがインターネット上に流通することで,地域自らの力によって地域活性化が進展していく,その一助となると考えている。
今後は,このような取り組みを京都山城地域の各市町村の公共図書館をはじめ,様々な地域で進めていく予定である。
Code for 山城・青木和人
Ref:
http://opendatahandbook.org/ja/what-is-open-data/index.html
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/it2/kettei/pdf/20150630/siryou1.pdf
http://www.mext.go.jp/a_menu/shougai/tosho/houkoku/05091401/all.pdf
https://opendatakyoto.wordpress.com/2015/04/20/wikipedia-arts-parasophia/
https://ujigis.wordpress.com/2015/04/07/01seika-wikipediatown/
https://ujigis.wordpress.com/2015/07/12/wikipediatown-in-kansaikan/
http://www.kyoto-np.co.jp/local/article/20150717000046
https://ja.wikipedia.org/wiki/プロジェクト:アウトリーチ/GLAM
https://b8cabba65bcf97631ab2ef81fd.doorkeeper.jp/events/26560
http://www.ndl.go.jp/jp/service/kansai/events/guidance.html#theme_guidance
https://ja.wikipedia.org/wiki/常念寺_(精華町)
https://ja.wikipedia.org/wiki/いごもり祭
https://ja.wikipedia.org/wiki/相楽木綿
https://ja.wikipedia.org/wiki/京都市立安朱小学校
https://ja.wikipedia.org/wiki/伊丹公論
https://ja.wikipedia.org/wiki/鳴く虫と郷町
https://ja.wikipedia.org/wiki/蛙股池
https://ja.wikipedia.org/wiki/椚神社
https://ja.wikipedia.org/wiki/和束町
CA1847
塩見昇. 地域の情報拠点としての公立図書館. 市政. 2010, 49(10), p.10-15.
糸賀雅児. 「地域の情報拠点」への脱却が意味するもの. 図書館界. 2004, 56(3), p.188-193.
青木和人. 地域情報拠点としての公共図書館へ市民参加型オープンデータイベントが果たす意義. 第62回日本図書館情報学会研究大会論文集. 2014, p.375-380.