E1607 – IFLA,電子書籍の貸出をめぐる各国の動向を紹介

カレントアウェアネス-E

No.266 2014.09.11

 

 E1607

IFLA,電子書籍の貸出をめぐる各国の動向を紹介

 

 図書館における電子書籍の貸出サービスに関して,国際図書館連盟(IFLA)は2014年7月30日,“IFLA 2014 eLending Background Paper”を公表した。これは2012年に出されたバックグラウンドペーパー(背景資料)(E1293CA1816参照)の改訂版であり,改めて電子書籍とその貸出サービス(eLending)の定義を示すとともに,過去2年間の電子書籍貸出をめぐる各国の図書館,出版社,図書館関係団体,あるいは政府の動向について要点をまとめたものである。本稿では,その概要を紹介する。

 

1. 電子書籍と電子書籍貸出サービスの再定義

 IFLAは,背景資料を公表した2012年以降に行われた議論や,図書館が保持(hold)する電子書籍の統計を分析する中で,「電子書籍」という言葉の定義について,図書館界における共通の認識が存在しないことが明らかになったと述べている。今後も技術的進歩により電子書籍の定義が変化する可能性を認めた上で,電子書籍とは「文字を基とした作品の電子版で,かつ個別の作品として入手が可能なもの」であると定義を行った。可読性を有するテキストとしての電子書籍の性質に焦点を当て,図書館が購入したものか否か,商業出版物か否か等の違いに関わらず,それらすべてを含みうるものとなっている。

 また,電子書籍貸出サービスに関しては,「図書館が登録利用者の希望に応じて,電子書籍を図書館の建物の内外における利用のために,一時的に提供すること」であると定義している。

 

2. 電子書籍貸出にまつわる動向紹介

 電子書籍に関する統計数値の国際比較は,「電子書籍」の定義や出版産業の成熟度が国・地域によって異なるため困難を極める。そのためこのペーパーにおいてIFLAは,国・地域ごとに採取された数値を列挙するにとどめ,一方で,電子書籍の契約・提供や,政府・図書館団体等による活動について個別の事例を紹介している。その概要は以下のとおりである。

<契約・提供の事例>

 電子書籍のライセンス契約は出版社主導で進められることが多く,図書館での提供可能コンテンツ数は米国を中心に増えているものの,条件等も様々で不安定な状況が続いている。また,有料の電子コンテンツ提供サービスが普及し,出版社がこれを収益源として重視した場合,図書館の役割は変化せざるを得ないだろう。

 こうした状況にあって,政府が出版社との契約主体となる例がある。デンマークでは2011年に政府が主導となり電子書籍データベース“eReolen”を構築し,公共図書館での利用に供している。オランダ政府も2014年にこれに似たサービスを開始している。

 そのほか,ドイツではDiViBib社が電子書籍貸出プラットフォーム“Onleihe”を図書館に提供しており,また,米国の一部の自治体では,図書館コンソーシアムが独自のプラットフォームを構築することで電子書籍の提供を容易にし,小規模な出版社や個人出版への柔軟な対応ができる点が評価されている(E1363参照)。

<政府による分析・評価>

 図書館が電子書籍を貸し出す意義について政府が分析を行った事例がある。英国では2013年に文化・メディア・スポーツ省により公共図書館における電子書籍貸出に関する有識者レポートが公表され,公共貸与権の適用や館外貸出の容認等が提言された。オーストラリアでは,政府が2012年に書籍産業に関する委員会(BICC)を立ち上げ,図書館の電子書籍利用の原則を提唱する等,図書館・著作者・出版社が合意点を模索する機会を設けることとなった。

<図書館・図書館団体による取組>

 一部の図書館や関係団体では,電子書籍貸出の実現を目標に据えたアドヴォカシー活動(CA1646CA1769参照)が行われている。欧州の図書館を擁するEBLIDAは,2012年より図書館の電子書籍利用について一連の活動を行っており,2014年に“The Right to eRead”キャンペーンを開始した。21の言語で請願書が作成され,1か月弱の間に数千もの署名を集めた。スウェーデン図書館協会は2012年に“Say Hello to Your New Librarian”キャンペーンを開始し,図書館の電子書籍提供を妨げることは人権侵害にあたるとした。どちらの活動も大衆や政治家に向けて図書館が抱える問題を発信した点で共通している。

 北米,欧州,オーストラリアの図書館が加盟するReadersFirstは,電子書籍の配給業者に対し利用者にとってより使いやすいプラットフォームや,媒体によって限定されない電子書籍の提供等を要求している(E1529参照)。

<法的枠組みの新しい動き>

 現在,図書館による電子書籍の提供について具体的に扱った判例は存在しない。複製後の電子データについて,利用者による頒布を防止するために,権利消尽等の制限措置がどのように適用されるべきかについて議論が交わされている段階である。

 カナダ最高裁判所は2012年に,電子的コンテンツに関する権利消尽とは直接関係のない判決においてではあるが,技術的中立の観点から,紙の複製品も電子データの複製品も本質的には同じであるため,後者だけに制限をかけることは不当としている。

 

 IFLAによれば,世界的に見て図書館における電子書籍の提供を取り巻く状況はまだ理想からは遠いという。図書館が果たすべき役割,すなわち地域・社会の文書記録の保存と,個人の情報へのアクセス保障を実現するためには,図書館における電子書籍の利用が妨げられてはならず,またそのためには出版社やその他権利保持者との交渉・連携,政府・司法の理解と協力が必要であると改めて強調している。また,このペーパーの最後にIFLAは「図書館は,自らの役割を果たすべく一層声を上げていかねばならない」と図書館・図書館員に向けて言葉を送っている。

総務部支部図書館・協力課・横田志帆子

Ref:
http://www.ifla.org/node/8851?og=7351
https://ereolen.dk/
http://www.onleihe.net/
https://www.gov.uk/government/publications/an-independent-review-of-e-lending-in-public-libraries-in-england
http://www.eblida.org/e-read/home-campaign/
http://readersfirst.org/
E1293
E1363
E1529
CA1646
CA1769
CA1816