E1293 – 電子書籍の貸出サービスに関する出版者と図書館の立場は?

カレントアウェアネス-E

No.215 2012.05.24

 

 E1293

電子書籍の貸出サービスに関する出版者と図書館の立場は?

 

 図書館における電子書籍の貸出サービスは,主に米国において急速に広がっており(E1233参照),またそれ以外の国でも出版者と図書館との間で契約やサービスの内容をめぐる議論が続いている(CA1754参照)。ただし,このサービスをめぐっては,出版者と図書館のスタンスは異なっており,さらに言えば学術出版と商業出版のビジネスモデル,あるいは大学・研究図書館と公共図書館の望んでいるものもそれぞれ異なっている。

 図書館及び図書館関係者の国際的な組織である国際図書館連盟(IFLA)は,2012年5月11日,図書館における電子書籍貸出サービスについてのバックグラウンドペーパーを公表した。IFLAでは,図書館利用者の電子コンテンツへのアクセスを,2011年から2012年の5つの重要な取組課題(IFLA Key Initiatives 2011-2012)のひとつと位置付けており,電子書籍貸出サービスについても課題の中に位置づけている。この報告書は,その取組みの一環として,電子書籍貸出サービスをめぐる状況について,出版者,図書館それぞれの立場の違いを整理し,図書館の原則との関係や法律的見地からの分析を提供することを目指したものである。

 出版者の状況として報告書が指摘しているのは,従来の出版とは異なるビジネスモデルを構築するため努力しているという点である。特に価格モデルや反競争的な慣行についての追及の厳しい米国やEUでは現在のやり方には異議も唱えられており,電子書籍のビジネスには最適なモデルがどのようなものかについての市場のコンセンサスが形成されているわけではない。大学図書館を主な市場とする学術出版と小売を主とする商業出版とではビジネスモデルが異なり,図書館の貸出サービスに対するスタンスにも違いがあるが,出版者は,不正利用されることに対する懸念を主張しつつ,経済的に持続可能な手法を模索している。

 また,図書館の状況として指摘されているのは,図書館が長年保持してきた原則について一連の課題に直面しているという点である。図書館は,これまで商業的に出版された著作物を購入し,蔵書に加えることができたわけであるが,米国の大手出版者の多くが図書館への電子書籍の販売に消極的であるなど,図書館の購入が制約されるケースが出てきている。これにより,情報へのアクセスの自由を保障するという図書館の役割が脅かされている。また,図書館の蔵書の利用において利用者のプライバシーを保護するという原則は,電子書籍が出版者のサーバから配信されるものであるという性質のため難しくなっている。大学図書館では電子リザーブ等でのコンテンツの利用を重視し,公共図書館では特に新刊本の利用に力点を置きたいと考えているなど,電子書籍を利用したサービスに対するスタンスに相違はあるが,図書館のこれまでの実践やポリシーが出版者等との交渉事項になっている。

 このように状況を整理したうえで,報告書では,続く図書館の原則の維持についての章において,図書館の中核的な機能のうち,(1)後世のために資料を保存する,(2)図書館カード保持者に資料を貸し出す,(3)研究目的など法律に認められた範囲で資料の複製サービスを提供する,(4)図書館間の相互貸借をする,(5)視覚障害等により印刷物の利用に障害のある者に対し代替的なフォーマットで資料を提供する,の5つについて,電子書籍貸出サービスにおいても維持する必要があることを確認している。そして,図書館の直面する課題は,これらの中核的な機能を堅持しつつ,出版者には,図書館による電子書籍の利用が出版者のビジネスモデルを弱体化させるものではないことを安心してもらう,このような使用許諾契約に到達できるかどうかであるとしている。

 この報告書は,米国の状況が認識の中心にあると思われるが,図書館における電子書籍貸出サービスを検討するうえで,議論の土台になると考えられる。

(関西館図書館協力課・依田紀久)

Ref:
http://www.ifla.org/en/news/ifla-releases-background-paper-on-e-lending
http://www.ifla.org/files/clm/publications/ifla_background_paper_e-lending_0.pdf
http://www.ifla.org/en/news/ifla-key-initiatives-2011-2012-in-action
CA1754
E1233