E1529 – 読者を第一に考えて:図書館電子書籍ベンダーガイド,公開

カレントアウェアネス-E

No.253 2014.02.06

 

 E1529

読者を第一に考えて:図書館電子書籍ベンダーガイド,公開

 

 米国やカナダの公共図書館等,約300機関が参加するイニシアティブ“ReadersFirst”が,2014年1月,図書館の電子書籍サービスのシステムを提供するベンダーを評価するドキュメント“ReadersFirst Guide to Library E-Book Vendors”を公開した。これから電子書籍サービスを開始することを考えている図書館をメインターゲットとして,各ベンダーの評価を提示するものである。その結果自体もさることながら,“読者のことを第一に考える”ことをコンセプトに,ベンダーの理解を仰ぎながら評価指標を作成している点は興味深い。以下,経緯から順に紹介する。

 ReadersFirstは,2012年6月,米国及びカナダの約70の図書館の連名で,共同声明を発表した。この共同声明では,図書館には,利用者が電子書籍についても印刷資料と同様に,オープンかつ容易で,無料のアクセスを享受できるよう,取組む責務があるとした。そして,電子書籍を巡る問題点を踏まえつつ,利用者ができるようになるべき事項について,以下の4つの原則を示した。

  • 利用者が,図書館の提供する全てのもの(電子書籍・印刷図書・ブログ・寄贈図書等)を一括して検索できること。
  • 利用者が,個々の図書館の目録,もしくは図書館が望ましいと考えるウェブサイトで,予約・貸出・中身の確認・延滞料の管理・連絡の受付ができること。
  • 利用者が,電子コンテンツをシームレスに利用できるようにすること。
  • 利用者が,どのような電子書籍端末にも電子書籍をダウンロードできるようにすること。

 2012年には,この4原則に従い,ReadersFirstは,電子書籍サービスに必要な技術的事項を示したコンテンツアクセス要件“Content Access Requirements”を作成した。続く2013年1月の米国図書館協会の冬季大会では,ラウンドテーブルを開催し,ベンダー等にこれを示した。ここでのベンダーからの要望をうけ,ReadersFirstの参加館は,要件の優先順位付けを行い,さらにこの要件をより的確に伝えるために,なぜその要件が必要なのかを具体的に説明できるようにするような“ユーザーストーリー”の共有を図った。

 これらの経緯を経て2013年4月,ReadersFirstは,ベンダーが自主的に製品評価を行うための記録票“Vendor Product Evaluation Form”を作成し,翌月にはベンダーに送付した。ベンダーはReadersFirstのワーキンググループとコミュニケーションをとりつつ,記録票に必要事項を記述し,返送した。今回公表されたドキュメントは,この記録票に基づくベンダーの評価と,上記の経緯等をまとめ示したものである。

 評価記録票は,7分野37項目からなる。内訳は,A.諸条件(7項目),B.メタデータ(8項目),C.貸出管理機能(7項目),D.利用者アカウント情報取得機能(4項目),E.利用者へのお知らせ機能(2項目),F.電子コンテンツのフォーマット(2項目),G.サービス支援機能(7項目)である。各項目について重要度の高いものはスコア3,他のものはスコア2.5とし,項目ごとに要件を満たすか否かによりスコアを与える。合計スコア100が最良の評価ということになる。

 今回公表されたガイドでは,7つのベンダーについて,それぞれのスコアと講評,またそれを補足する製品の特徴や,スコアを上昇させるような機能のリリース予定があればその情報が示されている。当然新規機能の提供によりスコアは随時変動していくものであるが,ガイドに示されたスコアは上位から次のとおりである。OverDrive(85点),3M Cloud Library(84点),Baker & Taylor Axis 360(80点),Ingram MyiLibrary(49点),Gale Virtual Reference Library(39点),EBSCO eBooks(38点),ProQuest ebrary(30点)。スコアの上位3つについては,いずれも検索等のAPIを備えており,相互貸借やディスカバリー製品との互換性を備えているものである。Ingram MyiLibraryとEBSCO eBooksは,いずれも2014年の上半期中にAPIを提供するとの情報が付されており,スコアの上昇が期待される。

 図書館が提供する資料媒体が多様化するなか,4原則の一番目に示されているように,図書館利用者の中には,その図書館で提供される様々なコンテンツを,一か所でわかりやすく見つけられるようにして欲しいという期待は確かに存在するものだろう。そのような“読者”のニーズに応えるような将来像を実現するにあたり,このガイド作成の試みは,電子書籍サービスを提供しようとする図書館とベンダーにとって,重要なプロセスとなっていると思われる。

関西館図書館協力課・依田紀久

Ref:
http://readersfirst.org/ReadersFirst-Guide–Library-E-Book-Vendors.pdf
http://www.americanlibrariesmagazine.org/blog/guide-library-ebook-vendors
http://readersfirst.org/
http://www.thedigitalshift.com/2012/06/ebooks/top-libraries-in-u-s-and-canada-issue-statement-demanding-better-ebook-services/