カレントアウェアネス-E
No.253 2014.02.06
E1528
図書館とウィキペディアのこれからの関係は?
よく知られているように,ウィキペディアの記事を編集するにあたっては,中立的な観点に基づくことが求められている。そしてそのために,信頼できる出典を明記することで記事の検証を可能にし,また信頼できる媒体においてまだ発表されていない独自研究は載せないことが求められている。これら「中立的な観点」,「検証可能性」,「独自研究は載せない」は,ウィキペディアの内容に関する三大方針として位置づけられている。ウィキペディアの編集者が記事を書くにあたっては,信頼できる情報源へのアクセスは不可欠である。
信頼できる情報源を多く所蔵し,多くの人にアクセス環境を提供する機関といえば,まずは図書館があげられるだろう。図書館は全体として,貴重書,高額な学術書,有料のデータベースに掲載された学術論文など,様々な情報源へのアクセスを提供している。ウィキペディアに関連するプロジェクトとして,これら図書館の情報源に,編集者がよりアクセスしやすくすることを目指した活動が進められている。その推進の一端を担っているのが,2013年にウィキペディアの小額助成金制度“Individual Engagement Grants”から資金提供を受けたプロジェクト“The Wikipedia Library”である。
The Wikipedia Libraryは,編集者が調査を行うためのハブとなるべく,以下の五つの目標を掲げている。すなわち,(1)編集者を地域の図書館,及び自由にアクセスできる情報源につなぐ,(2)ペイウォールの向こう側にある有料の出版物への自由なアクセスを提供するため,データベース,大学,図書館と提携する,(3)編集者,図書館,図書館員のコミュニティ間の関係を構築する,(4)ウィキペディアの編集者のための調査を促進し,編集者が情報源を探し,利用する手助けをする,(5)出版及び調査における,より広範なオープンアクセスを促進する。
そのためにまず実施しているのが,調査に役立つデータベース提供者へのアプローチである。編集者がデータベースに自由にアクセスできるようアカウントの寄付を求め,HighBeam,Questia,Credo,JSTOR,Cochraneから,これまで4,500アカウント以上を得たという。この仕組みは,元々はCredoが2010年に500アカウントを寄付したことから始まったものである。2013年末時点で1,500人の編集者が合計3,700の無料アカウント(50万ドル相当)を利用している。HighBeamやQuestaのコンテンツを出典とするケースは,大幅に増加しているようである。利用者には,今後利用を望むデータベースについての調査も行われ,一方で,EBSCO,ProQuest,New York Times,LexisNexisとも関係構築が進められている。
The Wikipedia Libraryの活動はこれだけにとどまらない。大学図書館がウィキペディアの編集者を客員研究員として受け入れる制度“Wikipedia Visiting Scholars”についても試行開始の段階にある。この客員研究員制度の最初の事例となるのは,ジョージメイソン大学のロイ・ローゼンツヴァイク・歴史・ニューメディアセンターと,カリフォルニア大学リバーサイド校である。“Wikipedia Visiting Scholars”は基本的に無給のボランティアであり,すでに各地の機関で採用されている“Wikipedian In Residence”(ウィキペディアン・イン・レジデンス)とはその点で異なるという。また,“Wikipedian In Residence”のように,所属機関の職員とともに資料のデジタル化や組織化や,エディッタソンなどのイベントに関わるといった活動の実施は,特に求められるものではないようだ。
The Wikipedia Libraryではその活動状況の広報にも取り組んでいる。編集者と図書館をつなぐためのポータルサイトを開設し,また2013年10月には,月刊のニュースレター“Books and Bytes”も創刊している。ニュースレターでは,各地で行われている“Wikipedia Loves Libraries”のイベント情報や,編集に役立つような図書館やアーカイブのデジタル資料公開等の情報なども掲載している。
2014年1月には,Library Journal誌(The Digital Shift)において,The Wikipedia Libraryの提案者でありコーディネーターであるJake Orlowitz(ユーザネーム:Ocaasi)氏が“Librarypedia: The Future of Libraries and Wikipedia”と題する記事を寄せている。図書館がWikipediaの使用を避けるように推奨していた状況は変わり,今や図書館は,学生たちが調査の糸口としてインターネットやウィキペディアを頻繁に利用しているという事実を踏まえ,ウィキペディアと協同するようになっていると指摘する。そして,ウィキペディアに示された書誌からフルテキストの参考文献にたどる学生に,図書館は始点でないとしても終点ではあると気付いてもらえるよう取組んでいると指摘する。その上で,上述のThe Wikipedia Libraryや,Wikipediaと図書館の書誌を結びつけるOCLCの取組み“WorldCat KnowledgeBase API”を紹介している。
The Wikipedia Libraryの活動は第1フェーズを終えたところであり,第2フェーズへと入る。第2フェーズでは,これまでの活動の拡張や,5つの目標に沿った新たな活動が展開されていくようである。図書館とウィキペディアのこれからの関係について考える際,VIAF bot(E1517参照),“GLAM-Wiki”(E1345参照)等とともに,注目しておきたい動きである。
関西館図書館協力課・依田紀久
Ref:
http://en.wikipedia.org/wiki/Wikipedia:Neutral_point_of_view
http://en.wikipedia.org/wiki/Wikipedia:Verifiability
http://en.wikipedia.org/wiki/Wikipedia:No_original_research
https://meta.wikimedia.org/wiki/Grants:IEG#ieg-engaging
https://meta.wikimedia.org/wiki/Grants:IEG/The_Wikipedia_Library
https://meta.wikimedia.org/wiki/Grants:IEG/The_Wikipedia_Library/Timeline
http://meta.wikimedia.org/wiki/Grants:IEG/The_Wikipedia_Library/Final
http://en.wikipedia.org/wiki/Wikipedia:The_Wikipedia_Library
http://www.thedigitalshift.com/2014/01/discovery/librarypedia-future-libraries-wikipedia/
E1345
E1517