E1527 – 数字を武器に図書館を変えた米国の図書館アナリスト<報告>

カレントアウェアネス-E

No.253 2014.02.06

 

 E1527

数字を武器に図書館を変えた米国の図書館アナリスト<報告>

 

 2013年12月13日,千代田区立日比谷図書文化館でアメリカンシェルフ講演会「アメリカの公共図書館におけるトレンド分析とマーケティング」が開催された。講師は,米国の大学や公共図書館で,トレンド分析,ビジネス・キャリア支援などの専門家として30年近くの勤務経験があるアルカ・バトゥナガー米国大使館情報資料担当官である。以下,講演内容の概要を紹介する。

 バトゥナガー氏によれば,図書館の役割において不変なのは「公共機関としての責任を果たすこと」である。しかし2008年に起きたリーマンショック後の経済不況により,米国でも図書館の予算や人件費削減が行われ,さらには廃館に追い込まれる図書館すらあった。図書館を存続させる予算を確保するためには,外部に支援者を作り,また市民に「図書館は必要な場所であり予算も確保すべきである」という認識を持たせなければならない。そのためには,「具体的な数字に基づく分析」が不可欠である。バトゥナガー氏も,図書館分野に限らず多様な機関からデータを採取し,分析を行ってきたという。

 米国国内のトレンド分析機関としては,全米レベルの機関として博物館・図書館サービス機構(IMLS),米国図書館協会(ALA),都市図書館協議会(ULC),OCLC,Pew Research Centerなどがある。また各州の図書館協会やデータセンター,中小企業局,商工会議所,経済産業局などからも,様々な統計情報やリソースを得ることができる。例えばPew Research Centerは2013年1月の調査報告「デジタル化時代の図書館サービス」において,16歳以上の米国人の91%は「地域のコミュニティに図書館は必要」と回答し,一方78%は「図書館には行くが実際に図書館で何ができるのか把握しきれていない」などのトレンドを示している。

 このような調査報告を受けつつ,米国の図書館では,それを踏まえたサービスが創造されている。例えばシアトル公共図書館は,「自分のいるところまでサービスを届けてほしい」というニーズに応えることが必要だとして,自転車の荷台に本を積んで利用者のところまで宅配するBooks on Bikesというサービスを開始している(E1457参照)。

 図書館の認知度を上げるため,バトゥナガー氏が勤務したニュージャージー州立図書館では,まずは,セレブリティーたちに協力を依頼してキャンペーンを行った。ニュージャージー出身の作家や州議会議員,サーカス団団長,ミス・コンテスト優勝者,アスリート等の著名人たちを「ライブラリー・チャンピオン」として図書館の広告塔になってもらい,図書館や本の魅力を発信してもらうというものだった。幅広いジャンルの著名人たちを起用することで利用者の裾野を広げる効果があったという。

 また,利用者が一番苦しんでいることは何か?という問題に対しての取り組みとして,失業者支援を実施した。図書館の就職支援サイトを立ち上げ,履歴書の書き方セミナーやジョブフェアの開催を,地元の企業から協力を得て行った。さらに,2010年にジョン・コットン・ディーナ賞(E1291参照)を受賞した際の賞金を資金として,ニュージャージー州内の図書館を対象とする“マーケティング・ベストプラクティス賞”を設けた。就職支援・中小企業支援マーケティングを積極的に行った図書館に賞金を1,000ドルずつ与えるなどの支援を行うものである。

 利用者にアピールするだけでなく図書館員も変わっていかなければならないとの認識に基づいた活動も行った。図書館員がマーケティングや統計学を業務に使いこなすことができるよう,マーケティング関連書籍のベストセラー作家セス・ゴーディンを講師に招き,彼の著書にもある『部族(tribe)』から引用して,図書館部族として団結を促すマーケティングキャンペーンを行った。また,スーパーマンさながらの格好をした「スーパーライブラリアン」をイメージキャラクターとして,「限界を知らない,そして図書館のすべてを知っている」というキャッチコピーのもと,図書館員自身がプロモーターになった。この他「図書館の価値の換算」というサービスも提供している。蔵書数や貸出冊数などを入力していくと,自身の図書館がどのくらいの価値を有するか計算できるものである。

 バトゥナガー氏は,以上のような事例を紹介しつつ,このように図書館がマーケティングに真剣に取り組み,前向きにまた生産的に具体的な取り組みを諦めずに行ったのは,まず最初に図書館の内面を変化させ,外側にも影響を与える「インサイドアウト図書館」を目指したからにほかならない,と述べた。

 講演会は,今後の図書館の在り方や図書館の存在意義はどこにあるのかという示唆に富むものであった。図書館関係者の方は,図書館マーケティング分析の一環としてまず一度ご自身の図書館の価値の換算をすることから始めてみるのはいかがだろうか?

千代田区立日比谷図書文化館・川崎亜利沙

Ref:
http://japanese.japan.usembassy.gov/j/irc/ircj-spaces.html
http://hibiyal.jp/data/card.html?s=1&cno=1969
http://japanese.japan.usembassy.gov/j/irc/ircj-amspace-event-ref.html
http://japanese.japan.usembassy.gov/j/irc/ircj-amspace-tokyo1.html
http://libraries.pewinternet.org/2013/01/22/library-services/
http://www.spl.org/using-the-library/library-on-the-go/books-on-bikes
http://njlibrarychampions.org/celebrity_nj_library_champions
http://njworks.org/
http://www.ebscohost.com/academic/john-cotton-dana
http://www.njstatelib.org/news/2011/oct/11/nj_state_library_presents_best_practices_in_marketing_awards
http://www.njstatelib.org/news/2008/oct/29/seth_godin_marketing_and_library_tribes
http://www.superlibrarian.org/index.php
http://www.camdencountylibrary.org/
http://lll.njstatelib.org/library_value_calculator
http://blog.calil.jp/2013/12/marketing.html
E1291
E1457