カレントアウェアネス-E
No.241 2013.07.25
E1457
図書館員,自転車で快走:Cycling for Libraries
この夏も,図書館員が,各地で自転車を使った様々なイベントを開催している。例えば米国のシアトル公共図書館では地域のイベントに本やサービスを届ける“Books on Bikes”というプログラムを実施している。6月に新しい中央図書館のデザインを発表したフィンランドのヘルシンキ公共図書館では,専用のトレーラーを付けた自転車6台が,街を走る企画を行っている。新しい時代の図書館を市民に印象づけるものとなったようだ。またポーランドでも,“バイシクールライブラリー(Bicycool Library)”というイベントが国内各地で開催されている。これは図書館利用者の参加するサイクリングを企画し,読書振興のプログラムなどを提供するもので,2010年以来実施されている。昨年は延べ100回ほど開催され参加者は3,500人にのぼったという。
そんな中,2013年6月に“Cycling for Libraries”(C4L)というイベントが開催された。今年で3度目の開催となる図書館員による大規模なサイクリングツアーである。C4Lでは,10日ほどの期間で500キロもの距離を走る。500キロは日本でいえば,東京-大阪間にも相当する長距離である。サイクリングとしてもかなり気合が入っているイベントだ。
最初の開催となった2011年には,デンマークのコペンハーゲンからドイツのベルリンまで650キロを走り,続く2012年には,リトアニアのヴィリニュスからエストニアのタリンまで620キロを走った。そして2013年は,オランダのアムステルダムから,ベルギーのブリュッセルまでのコースを走った。その距離は約400キロで,例年に比べるとやや短い距離となるが,雨天や向かい風の日もあり,なかなかタフな行程となったようだ。
C4Lは,フィンランドの図書館員のグループが中心となって開催している。中心人物の1人,オジャラ(Mace Ojala)氏は,2010年のIFLA年次大会の際にも小規模ながら“Cycling for Libraries”イベントを開催した人物だ。今回のツアーは約20人の図書館員が,計画立案からウェブサイトのメンテナンス,道中のイベントのコーディネートまで,ボランティアで担った。また道中の食事担当の料理人が1人,動画の撮影担当のクルーメンバーが4人,このイベントを支えた。ちなみに,年間の活動予算は7万ユーロほどで,フィンランドの教育文化省からも大きな資金提供を受けているという。
今回の参加枠100人は早々に一杯となった。参加者の顔ぶれは実に多彩であり,20か国以上の国から参加があった。もちろん欧州が中心であるが,それ以外にも,米国やカナダ,カタールやペルーからの参加者もいた。また現役の図書館員ばかりでなく,図書館情報学の大学院を卒業したばかりの若者もいた。例えば米国からはるばる参加したシュワルツ(Molly Schwartz)氏は,米国議会図書館が今年初めて実施する研修プログラム“National Digital Stewardship Residents”に内定している人物だ。
単純に自転車と図書館を愛してやまない人たちのイベントといえばそうかもしれない。しかし少なくとも名目は,図書館員の国際的アンカンファレンスを謳っている。そしてその目的には,図書館の壁の外で図書館に対する認知を高めることを掲げている。道中では地元の図書館や関連施設を訪問し,地元の図書館員と交流し,また図書館について参加者が語り合う場も設けている。今年はハーグにあるオランダ議会でのミーティングも行い,またゴールのブリュッセルでは,欧州議会議員の出迎えを受け,アドヴォカシー活動を行った。
欧州議会議員の出迎えに関するプレスリリースには次のようなことが書かれている。「今年のサイクリングキャンペーンの背後にあるメッセージは,EUの6万5,000館の公共図書館が,本を貸し出す以上のサービスをやっていること,EU域内のコミュニティにおける社会的・経済的ニーズに応える力があるのだということです」。これは調査会社TNSが2013年3月に公表した,図書館の公共コンピュータの提供状況に関する調査を踏まえたもので,その内容を伝えることが今回のC4Lの1つのメッセージだということである。プレスリリースには,出迎えをした議員の1人であるタクラ(Hannu Takkula)氏が,このことを追認して述べた「欧州の地域コミュニティにおける公共図書館の重要な役割はしばしば見落とされています」という言葉も紹介されている。C4Lのアドヴォカシー活動は少なからず効果があった様子がうかがえる。
動画クルーによって撮影されたビデオは35分にまとめられ,ウェブサイトに掲載されている。動画では,参加者の1人が,自分の大好きな“library”と“cycling”をGoogleで検索し,たまたまこのイベントを知り,このイベントに参加したいと思ったと語っている。また,そんな彼らの雨に濡れた姿や向かい風に疲れた表情,「夜はビールを飲むわ」と語る姿,そしてゴールの広場で晴れやかに笑い讃えあう様子が収められている。
(関西館図書館協力課・依田紀久)
Ref:
http://www.cyclingforlibraries.org/
http://www.bookpatrol.net/2013/05/library-catering-on-wheels.html
http://www.spl.org/using-the-library/library-on-the-go/books-on-bikes
http://keskustakirjasto.fi/en/2013/05/28/library-bikes-entice-people-to-the-plot-party/
http://www.marketwire.com/press-release/helsinki-central-library-competition-winner-announced-1801955.htm
http://bicycoollibrary.org/about/
http://www.loc.gov/today/pr/2013/13-120.html
http://www.minedu.fi/OPM/Verkkouutiset/2013/04/eu_library_survey.html?lang=en