E2191 – IFLA“The 10-Minute Library Advocate”の紹介

カレントアウェアネス-E

No.379 2019.11.07

 

 E2191

IFLA“The 10-Minute Library Advocate”の紹介

関西館総務課・伊藤響(いとうひびき)

 

 図書館業界における広報活動の世界的な潮流において,昨今中心的な地位を占めている取組みがアドヴォカシーである(CA1646CA1769参照)。図書館の果たす役割やその意義を理解し,図書館のために行動してもらえる賛同者を得ることは,長期的かつ安定的な図書館運営の根幹を成す重要な目標である。本稿では,国際図書館連盟(IFLA)が実施するアドヴォカシーの取組み“The 10-Minute Library Advocate”を紹介する。

 2019年1月10日,IFLAはLibrary Policy and Advocacy Blog上の記事“Introducing… the 10-Minute Library Advocate”の公開を皮切りに,この企画を始動した。“The 10-Minute Library Advocate”をタイトルの一部に掲げたブログ記事を,たいていは金曜日に,およそ週に一度のペースで,2019年10月末時点まで継続して投稿している。1つの投稿につき1つ,司書が図書館アドヴォカシーに貢献するためのアイデアを提案する形態を取っている。

 本企画の主たる目的は,個々の司書によるアドヴォカシー活動への主体的な参画を促進することにある。一般に,アドヴォカシーは一部の管理職や外向的な職員が担う活動と見なされることが多い。しかし,市長と接触したり,テレビに出たりといった大々的な活動のみがアドヴォカシーとして機能するわけではなく,また,アドヴォカシーに取り組むために,必ずしも特別な研修を受ける必要はないとIFLAは指摘する。まずは10分という短時間で,各司書がIFLAの提示するテーマに則って行動を起こしたり,考えを発信したりすることを推奨し,すべての司書がそれぞれの性質に合ったアドヴォカシーに取り組むきっかけを提供するのがこの企画である。

 したがって,提案されるアイデアは直接的な渉外に関するものにはとらわれない内容となっている。以下にいくつか例示するように,特別な環境は不要で,すぐさま実行できる内容が提案されている。

  • #3 自館がオンライン上でどのように見えているか確認しよう
    (検索エンジンによって頻繁に閲覧される自館情報を確認し,検索者の印象向上に繋げる)
  • #5 コミュニティの関心事を3つ考えよう
    (コミュニティの抱える問題を把握し,人々の支持を得る)
  • #8 協力できるパートナーを考えよう
    (図書館活動の支援者を想定し,彼らがどのような支援を行うことができるかを認識する)
  • #21 あなたの主張を友人に対して試してみよう
    (友人からのフィードバックによって,自身のアドヴォカシーのための弁論を改善する)
  • #31 自撮りを忘れずに
    (政治家や決定権者に会った事実を残し,自らのアドヴォカシー活動について話す際の材料とする)
  • #37 人の名前と顔を覚えよう
    (主要な決定権者やインフルエンサーに会った際に,即座に話しかけられるようにする)

 また,投稿は上記のようにナンバリングされており,2019年10月末現在において,最新の投稿は「#41」である。継続的にコンテンツを充実させることで,閲覧者が小さな一歩を積み重ねていくことを下支えし,アドヴォカシー活動の定着を図っているものと思われる。また,上記のブログやTwitterをはじめとするSNSでの投稿にはハッシュタグ“#EveryLibrarianAnAdvocate”を付与し,広く議論の発展を促すとともに,利用者を含む他者との交流を誘発することを企図している。

 なお,IFLAの活動において,アドヴォカシーの推進は徐々に重要性を増している。2019年8月26日に公表された「戦略2019-2024(IFLA STRATEGY 2019 – 2024)」の「1.図書館のグローバルな声を強化する(Strengthen the Global Voice of Libraries)」においては,図書館によるアドヴォカシーへの支援を掲げており,今後更なる取組みも期待される。

 元米国図書館協会会長・フォード(Barbara J. Ford)氏が『2006年度国立国会図書館調査研究報告書:米国の図書館事情2007』で主張したように,アドヴォカシー活動は図書館の内外問わず,誰でも行うことが可能であり,活動者の属性によって影響を与える範囲が異なる。本稿で取り上げた“The 10-Minute Library Advocate”においては,ターゲットを司書に絞り,アドヴォカシーに取り組むうえでの心理的ハードルを段階的に引き下げることに重点が置かれている。図書館の意義や可能性を最も理解している立場の司書が,主体的な発信者としての役割を負うことは,図書館への理解を獲得するうえで大きな力となる。個としての司書がアドヴォカシーに取り組むための,具体的かつ手軽な道筋を示している点で優れており,各館の地力の底上げに貢献し得る取組みといえるだろう。今後の展開を注視したい。

Ref:
https://blogs.ifla.org/lpa/2019/01/10/introducing-the-10-minute-library-advocate/
https://blogs.ifla.org/lpa/tag/everylibrariananadvocate/
https://www.ifla.org/node/92364
https://current.ndl.go.jp/node/14439
CA1646
CA1769