カレントアウェアネス-E
No.379 2019.11.07
E2192
第9次地方分権一括法による図書館法等の改正
調査及び立法考査局文教科学技術課・澤田大祐(さわだだいすけ)
2019年5月31日,地域の自主性及び自立性を高めるための改革の推進を図るための関係法律の整備に関する法律(第9次地方分権一括法,令和元年法律第26号)が成立し,6月7日に公布・施行(一部の条を除く)された。これにより,社会教育法(昭和24年法律第207号),地方教育行政の組織及び運営に関する法律(昭和31年法律第162号)及び図書館法(昭和25年法律第118号)が改められ,各地方公共団体の判断で条例を定めることにより,特例として,公立図書館を教育委員会ではなく地方公共団体の長が所管することができるようになった。議論の発端である,2018年2月9日の中央教育審議会生涯学習分科会における「公立社会教育施設の所管の在り方等に関するワーキンググループ」(WG)の設置決定以後,図書館界のいくつかの団体からは反対の意見が示されていた。限られた字数の中で近年の社会教育関連法改正に係る大きな流れまでを取り上げることは困難であるため,本稿では,国会での法案審議の内容を踏まえ,今回の法改正に係る論点3つに注目することとしたい。
1点目は,図書館が果たすべき役割についてである。WGの設置趣旨には,「公民館,図書館,博物館等の社会教育施設は,これまで地域における学習ニーズに応える拠点として機能してきたところ,近年,地域活性化・まちづくりの拠点,地域の防災拠点などの新たな役割が期待され,地域課題解決に向けた活動の拠点としての役割を果たすことが一層必要となっている」と記されている。これは公共図書館の役割に地域社会の課題解決が上積みされることを意味しており,公共図書館がこれまでに果たしてきた役割が減ることを意味するものではない。WGでの議論の終盤では,観光政策の観点から公立博物館の首長部局への移管の是非を検討することが2017年の閣議決定で定められたことを踏まえた上で,「博物館のみならず公民館,図書館,そして女性教育施設等々」にまで「今回一気に話を広げるのが適当であるかということについては今まで何も議論されていなかったので,もう一度議論すべき」との委員の意見もあったとされる。しかし,その後取りまとめまでの間に議論が行われたかどうかは,確認できない。
2点目は,政治的中立性の確保についてである。資料の整備や提供だけでなく,地域住民の自発的な関与を委縮させないという観点からも,政治的中立性の確保は重要であると指摘される。今回の法改正では,首長部局が図書館を所管する場合,首長に対して教育委員会が意見を述べることができるとされた。一方、有識者や図書館協議会の関与といった制度設計はない。WGではこの点が議論され,中央教育審議会生涯学習分科会の取りまとめでは制度案が例示されたが,法改正には反映されなかったため,具体的な制度設計は地方公共団体に任されることになる。
3点目は,これまでの制度との違いである。地方自治法において事務委任及び補助執行制度が定められており,首長部局が社会教育施設の事務を行うことは従前から可能であった。実際に,これらの制度によって,他部局との連携を図るなど,優れた成果を上げているとされる図書館がある。また,2014年に行われた地方教育行政の組織及び運営に関する法律の改正(施行は2015年)により,教育委員会委員長と教育長は教育長に一本化され,また首長が教育長の任免権を持つこととされた。その上で,今回の法改正により図書館の所管を首長部局に移すことについては,「首長みずからの責任のもと,当該機関における社会教育事業と他の行政分野の事業との一体的推進による行政施策の実現に取り組むことができるようにしようということで行う」とされる。しかし,どれだけの地方公共団体が首長部局の所管に移行するかは把握していない,と文部科学省の参考人は衆議院の地方創生に関する特別委員会で答弁を行っている。
第9次地方分権一括法は,地方公共団体等からの提案等を踏まえ,地方分権に係る法改正を一括で扱うものであり,社会教育関係を含め計13の法律を一斉に改正するものであった。そのため,国会審議において社会教育に係る議論に多くの時間が割かれたわけではない。図書館等の首長部局への移管についても地方公共団体からの要望に沿ったものであるとされているが,今後,首長部局が所管したからこそできたと呼べる図書館はできるのか,図書館は地域社会の課題に限らず個人の課題を解決するためのものであり続けられるかどうか,地域における社会教育の位置づけは今後どう変わるのか,注目される。
Ref:
https://www.cao.go.jp/bunken-suishin/ikkatsu/09ikkatsu/09ikkatsu.html
http://www.mext.go.jp/a_menu/01_l/08052911/1417789.htm
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo2/012/index.htm
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo2/012/attach/1402817.htm
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo2/toushin/1414209.htm
http://www.jla.or.jp/demand/tabid/78/Default.aspx?itemid=3973
http://www.kyoi-ren.gr.jp/_userdata/pdf/youbou/300322kouritusyakaikyouikusisetu.pdf
http://tomonken.sakura.ne.jp/tomonken/statement/shokan/
http://tomonken.sakura.ne.jp/tomonken/statement/shokan20180806/
http://www.mext.go.jp/component/b_menu/shingi/toushin/__icsFiles/afieldfile/2018/12/21/1412080_1_1.pdf
https://iss.ndl.go.jp/books/R000000004-I029016915-00
https://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I029901114-00
http://totomoren.net/blog/?p=832
http://tomonken.sakura.ne.jp/tomonken/statement/chihoubunken/