E2193 – 子どものための図書館サービス専門職養成の国際動向<報告>

カレントアウェアネス-E

No.379 2019.11.07

 

 E2193

子どものための図書館サービス専門職養成の国際動向<報告>

藤女子大学図書館情報学課程・下田尊久(しもだたかひさ)

 

   2019年8月4日,モエレ沼公園(札幌市東区)「ガラスのピラミッド」で国際シンポジウム「子どものための図書館サービス専門職養成の国際動向」(主催:子どものための図書館サービス専門職養成研究会 代表:立教大学・中村百合子)を開催した。海外では,学校図書館や児童サービスの専門職養成プログラムのオンライン提供が始まっている。本シンポジウムでは,日本の司書教諭や学校司書に相当するSchool Librarian, Teacher Librarian, Children’s Librarianの養成教育の現状についてカナダ・米国・スペインの大学教員からの発表が行われた。本稿では,当日の内容を,教育内容,学習管理システム(LMS)の利用状況,質疑応答で出された論点に焦点を絞って報告する。シンポジウムは,立教大学・ハモンド(Ellen Hammond)氏の進行で進められた。

●日本の事例

   中村百合子氏から日本の専門職養成について立教大学,大阪教育大学及び藤女子大学を比較した説明があった。3大学とも司書及び司書教諭の養成コースがあり全学に開かれている。立教大学では,受講3年目の図書館実習は必修である。課程修了に必要な履修科目は,司書コースが必修14科目28単位,司書教諭コースが必修8科目16単位,選択科目はいずれも2科目4単位となっている。但し,図書館実習を履修しない場合は司書資格・司書教諭資格に必要と定められた省令科目(各々13科目・5科目)の単位修得による資格取得となる。大阪教育大学は,司書教諭講習の省令5科目を2キャンパスで毎年2クラスずつ開講,また主として現職教員対象の夏期講習も開講している。藤女子大学図書館情報学課程は,学校図書館法一部改正に伴う学校司書モデルカリキュラム実施校で,2018年度から新規1科目を含め11科目を学校司書科目としている。司書および司書教諭コース受講生の4割が登録している。

   在学中利用可能なLMSについては立教大学の例としてウェブ教育支援システムBlackboardやeポートフォリオRikkyo JIKANを挙げた。

●カナダの事例

   ブランチ(Jennifer Branch)氏から,総合大学であるアルバータ州立大学のTeacher Librarian Programに関する報告が行われた。図書館専門職の養成教育は,教育学部の大学院で行われており,米国図書館協会(ALA)が北米で実施している図書館情報学修士課程(MLIS)の認定校である同大学大学院 School of Library and Information Science (SLIS)でその科目が認められている。入学は教育学士で学校現場の授業経験を持つことが前提である。現在は20人が在籍し,これまでの学位取得者は50人である。とくに探求心や新技術に焦点を当てた教育に力を入れている。科目として図書館実習はないが多くの学生が在籍中に学校や学校図書館,インターナショナルスクールで働いている。SLISを含む同大学の教育学部の修士課程はMOOCs(CA1811参照)による完全オンライン授業で,テキスト教材のない科目もある。

●米国の事例

   まずハーシュ(Sandra Hirsh)氏が,カリフォルニア州・サンノゼ州立大学のiSchoolを紹介した。学生はどこからでもアクセス可能な対話型オンライン環境のもとで,今後の実務で必要となる最新技術で学習体験をする。一方,LMSには,Chatrooms/Discussion BoardsやVoiceThread等を利用している。学生はパートタイム履修が多く,Teacher Librarian Programは,一般的に2年から2年半で修了する。修了年限は7年である。

   次に,ハーラン(Mary Ann Harlan)氏からはiSchool のTeacher Librarian Programについて説明があった。この課程は教員資格の取得が入学条件となっている。コア科目11科目は,教育設計,学校図書館教材,ICT技術やフィールドワークに重点を置く。選択科目13科目は,子どもや若者,多文化コミュニティを対象としたサービスに関するものがある。また情報専門職となるための教室の教師との連携演習などがある。学生は,専門職としてのTeacher Librarianの役割,21世紀の識字率や情報組織化の理解,プログラム管理能力,アドボカシーに従事する意欲などを求められる。2018年の同課程修了者の就職状況は,学校図書館のTeacher Librarian 51%,事務員16%,学校の教室補助員 22%,その他11%であった。養成教育のオンライン学習導入により,Teacher Librarianへの就職が10%増加したと評価していた。

●スペインの事例

   コレロ・イグレシアス(Cristina Correro Iglesias)氏は,バルセロナ自治大学(UAB)の養成教育について報告した。まず,同国の国際読書力調査(PIRLS)や OECD生徒の学習到達度調査(PISA)等のレベルが低いことなどを挙げ,これに対応するために図書館員養成が学士課程での教育では不十分であり,修士課程における児童文学,学校図書館,児童図書館コースの充実が必要とされているとしていた。

   児童,学校に関わる図書館員養成は,教育学部の学士課程として「就学前教育」から「社会教育」にいたる5コースと,修士課程として5コースが設置され,UABの最近の研究開発プロジェクトのテーマには幼児とデジタルに関連するものが多い。また,バルセロナ大学(UB)図書館情報学部の修士課程にも学校図書館に関する1コースが設置されている。

   UABの修士課程はLMSとしてMOOCを導入,コースによってオンライン型と併用型がある。これらのうち,Erasmus Mundus(EM)によるprogramは,2019年に始まった5大学コンソーシアムによるface-to-face を重視した2年間の修士課程で,世界各国の35人の学生が受講する新しい試みである。受講生の多くが女性であり,そのうちアジア出身者を含めた22人が奨学生である。EMは,UABを含む欧州5大学で学期ごとに学修を進め,サマースクールはカナダの大学で実施する。また学習言語は英語を基本とするが,他の言語での講義もある。

   最後の質疑応答の中で,デジタル化,情報教育と関連して日本における司書教諭と学校司書のような役割分担の有無についての質問があった。ハーラン氏は,米国においては,リサーチの仕方を学校図書館で教えるのがTeacher Librarianであり,デジタルリテラシーもそれに含まれること,また,Teacher Librarianの役割は教員との連携であり教室で教科は教えないとの回答があった。今回の発表国には学校図書館員の複数配置はほとんどなく,日本の学校図書館における司書教諭と学校司書の連携や分担のことは理解が難しかったことが質疑で明らかになった。一方で学校図書館員の社会的な位置づけについて,コレロ・イグレシアス氏は,スペインでは,1939年の内戦終了後40年間,学校図書館でフィクションや芸術書の入手が禁じられるなど,官僚的体質,検閲制度,文化的制限による創造性の抑制が続いたことが,1980年代以降の養成教育の発展に繋がったと語った。一方でブランチ氏からは,最近カナダで校長権限の変更による学校図書館経営への影響など,30年前とは環境が変わってきたという話があった。また,カナダや米国で図書館員のいない学校図書館もあるとの報告もあり,学校図書館員の環境についてむしろ世界共通の現実も知ることとなった。今回のゲストがいずれも長年にわたり学校図書館の改善のため努力していることについて改めて共有出来たことは大きいと中村氏がまとめた。

Ref:
https://www.fujijoshi.ac.jp/newstopics/clis/none/4336
https://www.youtube.com/watch?v=fhamyRE7p34
https://www.rikkyo.ac.jp/campuslife/support/certification/librarian/
https://osaka-kyoiku.ac.jp/foreducator/kyomu/shisyo.html
https://www.fujijoshi.ac.jp/dept/program/clis/outline/
https://www.ualberta.ca/education/programs/graduate-programs
https://ischool.sjsu.edu/teacher-librarian
https://ischool.sjsu.edu/online-learning-environment
https://www.uab.cat/
https://www.uab.cat/web/estudiar/official-master-s-degrees/general-information/erasmus-mundus-children-s-literature-media-and-culture-1096480962610.html?param1=1345779548041
CA1811