E2194 – 議論の深化を目指して:肖像権ガイドライン円卓会議<報告>

カレントアウェアネス-E

No.379 2019.11.07

 

 E2194

議論の深化を目指して:肖像権ガイドライン円卓会議<報告>

デジタルアーカイブ学会法制度部会・川野智弘(かわのともひろ)

 

   2019年9月26日,御茶ノ水ワテラスコモンホール(東京都千代田区)において,デジタルアーカイブ学会(以下「学会」;E1997参照)の主催,デジタルアーカイブ推進コンソーシアム(DAPCON)の後援にて,「肖像権ガイドライン円卓会議-デジタルアーカイブの未来をつくる」(以下「本フォーラム」)が開催された。

   デジタルアーカイブの構築と利用に際し,従前より様々な「権利の壁」に関する議論がなされていたが,このうち,肖像権に関わる問題についても大きな課題となっていることを背景として,学会内の法制度部会(以下「部会」)では,肖像権処理のための「民間ガイドライン」の検討に取り組んできた。本フォーラムは,当該ガイドラインの素案を早期に公開し,各種関係者による多様な観点からの検討を進めていくための場として設けられたもので,当日は登壇者らも含めて様々な立場から約165人の参加があった。登壇者から会場への呼びかけに対して,参加者の大半が「肖像権で判断に困った経験がある」と答えるなど,肖像権問題の課題の大きさや各当事者の関心の高さがうかがえた。

   本フォーラムでは,吉見俊哉氏(学会会長代行)からの開会の挨拶の後,まず瀬尾太一氏(部会メンバー)より,「デジタルアーカイブにおける肖像権の諸問題」と題して,肖像権を取り巻く環境を踏まえ,法令等のハードローだけでなく,ガイドライン等によるソフトローやテクノロジーの組み合わせによる問題解決の重要性が語られた。

   続いて,数藤雅彦氏(部会メンバー)より,議論の叩き台としてのガイドライン案が示され,その概要説明がなされた(なお,当該ガイドライン案の詳細については,本フォーラム時に提示された案が学会のウェブサイトで公開されているので,ぜひご参照いただきたい)。ガイドライン案は大きく3つのステップに分かれており,特定の個人を判別可能な写真で,公開について当該個人の同意を得ていないものに関して,公開による影響の大きさ等を様々な要素(被撮影者の社会的地位や活動内容,撮影の場所や態様,時期など)ごとにポイント化し,ポイントの合計に応じて,そのままの公開が可能か否か,あるいは一定の対応(公開範囲の限定や,厳重なアクセス管理,マスキングなど)が必要か否かを判断する,との形式がとられている(なお,肖像パブリシティ権の問題は除外し,また対象としては映像などは含まず写真に限定した上でのものであり,また,各ポイントは今後のオープンな議論のための仮置きのものである)。

   これらを踏まえ,本フォーラムの後半ではラウンドテーブルでの議論(登壇者は,上記発表者2人のほか,福井健策氏,生貝直人氏,足立昌聰氏(以上3人は部会メンバー),坂井知志氏(国士舘大学スポーツアドミニストレーター),長坂俊成氏(立教大学教授),宮本聖二氏(立教大学特任教授),渡邉英徳氏(東京大学教授)の9人),そしてフロアからの質疑や意見とこれに対する応答が行われた。その中では,個々の要素に関して,選択の適否(例えば,「撮影後30年経過」との年数を明示することが,逆に「30年経過するまでは非公開」といった運用につながりうるのではないか,との指摘)や,外延の不明確性(例えば,「プライベート」の要素の範囲),主観的な評価が入り得る要素(例えば「歴史的事件」など)に関する捉え方,点数の設定の適否(「『屋外,公共の場』に15点の加点は多すぎではないか」など,点数が高すぎるとの意見もあれば,同一の項目に関して,逆に点数が低すぎるとの意見もあり,意見が大きく割れる項目があった)などを巡り,多様な視点から活発な議論がなされた。また,各要素に関する議論だけでなく,個人の特定可能性や本人からの同意取得に関しても,テクノロジーの進歩に伴う個人特定の精度の向上や新たな同意取得方法の可能性等に関する指摘などがあり,その他にも公開方法に関する論点(マスキング手法やオプトアウト等の仕組みなど)などについて多くの指摘があった。その上で,ポイント制をとって公開可否を判断するというガイドライン案の方向性については,会場の意見は「有効」でほぼ一致した。

   学会及び部会では,本フォーラムでの議論内容を踏まえ,今後も様々なステークホルダーの参加を得てオープンな議論を続けたいと考えており,2019年度中にも関西圏での開催を含めて複数回のフォーラムの開催を計画中である。また,2020年4月に開催予定であるデジタルアーカイブ学会第4回研究大会など,次年度以降も様々な場において議論を深めていきたいと考えている。ご関心のある皆様には,ぜひ積極的に議論にご参加いただきたい。

Ref:
http://digitalarchivejapan.org/symposium/shozoken
http://digitalarchivejapan.org/bukai/legal/shozoken-guideline
E1997