E1997 – デジタルアーカイブ学会,その趣旨と展望

カレントアウェアネス-E

No.342 2018.02.22

 

 E1997

デジタルアーカイブ学会,その趣旨と展望

 

 デジタルアーカイブ学会は,2017年5月に誕生した。いまだ1歳に満たないが,短い期間に会員数は300名を超え,2018年3月9日と10日の両日には,東京大学本郷キャンパスで第2回研究大会を開催する運びとなった。

 いったいデジタルアーカイブ学会は何を目指し,また,この学会には何が求められているのだろうか。以下では,デジタルアーカイブ学会の設立背景や趣旨,および今後の活動について記すことにしたい。

●設立背景

 近年,日本では,書籍や雑誌,新聞,放送など,ありとあらゆる分野でデジタル化が急激に進み,ついには,小中高等学校でのデジタル教科書の導入や都立高校全校の授業における個人所有のスマートフォンの活用などが検討されるようになった。生まれた時からデジタル環境に慣れ親しんだ「デジタル・ネイティブ」と呼ばれる新世代は,デジタル教科書やスマートフォンによる授業などによって,今後ますますアナログの領域から離れていくであろう。デジタル化の大波は,人々の生活様式のみならず,さまざまな知識の習得方法,思考法や感情表現,親子関係を含む他者とのコミュニケーションのしかた,いうなれば人間の生き方の基盤自体を,抜本的に変容させていく。21世紀の日本が,デジタル知識基盤社会といわれる所以である。デジタル化への対応,ひいてはデジタル知識基盤の構築は,家庭や学校,職場,地域でも,喫緊かつ不可避のことがらとして問われ始めているのである。

 このような時代状況の中で求められているのは,個々のアナログ情報のデジタル化に加えて,各所に分散したデジタル情報を,短時間のうちに安全にアクセスできるようなシステムに作り上げることである。その達成には政策的な観点が必須であり,政府や地方公共団体,関連諸機関,教育現場,企業等,あらゆる分野からの協力が不可欠である。

 しかし,現代の日本において,デジタル知識基盤社会を支える政策的な観点からのデジタル環境の整備は,不十分なままとなっている。

●趣旨

 こうした認識のもと,デジタルアーカイブ学会は,21世紀日本のデジタル知識基盤の構築のため,デジタルアーカイブの関係者が交流し,その経験と技術の共有を図ることによって,デジタル環境の整備にかかわる政策形成と提言を行うことを目的として設立された。各種資料のデジタル化に関する個別研究はもちろんのこと,技術研究の促進,メタデータなどの標準化,デジタル化にかかわる人材の育成,法制度の整備などの検討を行うことが,デジタルアーカイブ学会の大きな特徴である。

 デジタルアーカイブ学会の事務局は,2015年11月に大日本印刷株式会社の寄付によって東京大学大学院情報学環に設置された,DNP学術電子コンテンツ研究寄付講座である(E1786参照)。企業と大学が結びついた講座のメンバーが事務局を務めているため,デジタルアーカイブ学会は,企業との連携も重視している。

●今後の活動

 現在,デジタルアーカイブ学会には,法制度部会,技術部会,人材養成部会,コミュニティーアーカイブ部会という4つの部会と,1つの支部(関西支部)が存在し,それぞれがすでに活発な活動を開始している。法制度部会ではデジタルアーカイブの諸問題を解決し,それを推進できる法制度や制度の使い方・かかわり方を考える。技術部会では,デジタルアーカイブに共通する技術的課題についての議論を深めていく。人材養成部会では,デジタルアーカイブの開発・運用・活用を担う人材の育成を考え,コミュニティーアーカイブ部会では,地域や地方公共団体,図書館等によるデジタルアーカイブの構築推進と方法の開発を検討する。関西支部は,文字通り,デジタルアーカイブ学会事務局の置かれた首都圏以外の地域,とりわけ関西の地域性が反映されたデジタルアーカイブ研究を推進する目的を持つ。

 デジタルアーカイブ学会会員の研究成果は,部会や支部での活動のほか,2か月に1回程度おこなっている定例研究会,公開シンポジウム,年に1,2回開催される研究大会などでの議論を経て,年4回発行予定の『デジタルアーカイブ学会誌』に掲載できるようになっている。同誌はJ-STAGEに搭載され,デジタルでも閲覧可能である。1巻1号には各部会長,および関西支部長による各部会の紹介記事なども掲載されているので,是非一度ご覧いただきたい。

 冒頭でも述べた第2回研究大会のテーマは「産業化するアーカイブ」である。大会初日の3月9日には,株式会社KADOKAWA取締役会長の角川歴彦氏による基調講演「コンテンツ産業とデジタルアーカイブ(仮題)」の後,「デジタルアーカイブ産業の未来を拓く」というパネルディスカッションが開催される。2日めの3月10日には,さまざまな分野でデジタルアーカイブに携わっている会員による研究発表が行われる。本稿を通じてデジタルアーカイブ学会に関心を持ち,研究大会に来場いただければ幸いである。

東京大学大学院情報学環・東由美子

Ref:
http://digitalarchivejapan.org
http://digitalarchivejapan.org/kenkyutaikai
https://www.jstage.jst.go.jp/browse/jsda/list/-char/ja
E1786