カレントアウェアネス-E
No.343 2018.03.08
E2007
国立図書館におけるジャンル・形式用語の実務に関する調査
ジャンル・形式用語とは,その資料が「何であるか」を表す統制語彙である(CA1869参照)。2017年2月,国際図書館連盟(IFLA)の主題分析及びアクセス分科会が管轄するジャンル・形式用語ワーキンググループ(以下「ワーキンググループ」)は,各国の国立図書館のジャンル・形式用語の実務に関する調査“IFLA Survey on Genre Form Practices in National Libraries”を実施し,国立国会図書館(NDL)もこれに回答した。本稿では,2017年11月に公開された調査結果報告書の概要を紹介する。
●調査の概要
2017年2月,ワーキンググループは国立図書館長会議(CDNL)に参加している179の国立図書館等を対象に,アンケートへの回答を主に電子メールで依頼した。調査はインターネット上に用意された英語あるいはアラビア語の調査票に,各館がアクセスして回答する方式で行われ,2017年4月までに77館から回答を得た(英語による回答66館,アラビア語による回答11館)。欧州と北米,南米からは多くの回答を得た一方,アフリカと旧ソビエト連邦共和国の構成国からの回答が少なく,アジアからの回答率は地域により差があった。
●使用状況と計画状況
回答があった77館のうち65%(50館)は既にジャンル・形式用語を使用しており,10%(8館)は使用する計画があると回答した。
使用するジャンル・形式用語体系(以下「用語体系」)は1つのみであると回答したのは,既に使用している館では半数以上,使用を計画中の館では3分の2以上であり,その用語を自館で開発している館が多い。
複数の用語体系を使用している館の場合,主な理由として,様々な分野をカバーする必要があること,複数の言語で目録作成を行っていることが挙げられ,自館で開発したものと他機関で開発されたもの(米国議会図書館(LC)のLibrary of Congress Genre/Form Terms for Library and Archival Materials(LCGFT),米・ゲティ研究所のArt & Architecture Thesaurus(AAT)等)とを併用している館が多い。
●多言語対応
既にジャンル・形式用語を使用している館の72%は1言語で対応しているが,使用を計画中の館の75%は多言語対応を予定しており,多言語対応の場合,そのうちの1つは必ず英語である。
●ジャンル用語と形式用語
例えば「ホラー映画」を例にとると,「ホラー」はジャンルを表し,「映画」は形式を表すと言える。このようにジャンル用語と形式用語を区別している用語体系もある一方で,「ホラー映画」は1つのジャンル用語とも形式用語とも捉えられるので,両者を区別していない用語体系もある。単一の用語体系を使用している館のほぼすべてがジャンルと形式の両方の用語を使用しており,用語体系を開発中の図書館もほぼすべてが同様にジャンルと形式の両方を含めることを計画している。用語体系の使用において両者を区別する・しないの比率はほぼ同数であった。
●付与対象
各館とも可能な限り多くの分野で使用することを目指しており,分野を特定しない「一般用語」と「文学」分野の用語が最も広く使われている。またジャンル・形式用語を使用しているか,使用の計画がある館のうちの80%以上が,用語を適用する資料の種別を限定せずに,可能な限り網羅的に使用している。資料の種別を限定している館の場合は,図書,視聴覚資料,電子資料及びグラフィック資料への適用が多い。
●人物の属性
ジャンル・形式用語を使用している館の約3分の2が,資料の著者,対象者といった人物の属性をジャンル・形式用語で表現している。また,Library of Congress Demographic Group Terms(LCDGT)のような,ジャンル・形式用語とは別の用語体系で人物の属性を表現している館もある。
●維持管理
単一の用語体系を使用している館は,複数の用語体系を使用する館よりも頻繁に用語を更新している。必要に応じて適宜更新しているという回答が一般的だが,毎日のように更新する館も5館ある。一方,複数の用語体系を使用する館のほとんどは,稀に更新する程度か,全く更新していない。
●公開状況とドキュメントの作成
ジャンル・形式用語を使用しているか使用の計画がある館の3分の2以上が,その用語体系を公開しているか,公開を検討中である。また回答した館の約半数が,既にLinked Dataとしてその用語体系を公開しているか,公開する計画があると回答している。
ジャンル・形式用語を使用しているか,開発中の館のうち,約3分の2はマニュアル等のドキュメントを公開しているか,調査時点から1年以内に作成予定である。
●利点と課題
ジャンル・形式用語を使用する利点と課題について自由記述による回答を求めたところ,52の回答があった。それらを分析すると,利点として挙げられたのは,まず何よりも「利用者にとって」の利点であった。すなわち,ジャンル・形式というファセットによる絞込み機能やアクセスポイント拡充による検索の強化,資料の識別の改善,資料へのより効率的なアクセスの実現などである。
一方,課題として挙げられたのは,ジャンル・形式用語それ自体に関することはわずかで,主に,専門家の不足(用語に熟練したスタッフや適切な研修の不足),資金と時間の不足といった外的な状況に関することであった。
ワーキンググループでは,今回得られた回答は様々な問題を提起し,ジャンル・形式用語の使用実態についての更なる分析や調査のための材料になると考えている。今後は大学図書館等の異なる館種の図書館や,特定地域の図書館等に対する調査,国立図書館への多言語での再調査等も実施し,より広く実態を把握していくことが期待されるとしている。
なおNDLでは,件名標目(国立国会図書館件名標目表(NDLSH))によってジャンル・形式に相当するものを表現することはあるが,独立した用語体系は使用しておらず,その使用は今後の課題である。
収集書誌部国内資料課・鎌倉知美
Ref:
https://www.ifla.org/subject-analysis-and-access
https://www.ifla.org/node/8526
https://www.ifla.org/files/assets/classification-and-indexing/ifla_genre_form_survey_report_20171110.pdf
https://www.ifla.org/files/assets/classification-and-indexing/ifla_genre_form_survey_gizmo_results_20171110.pdf
https://www.loc.gov/catdir/cpso/genreformgeneral.html
https://www.loc.gov/aba/publications/FreeLCDGT/freelcdgt.html
CA1869