カレントアウェアネス-E
No.343 2018.03.08
E2006
米国学校図書館員協会による新学校図書館基準<文献紹介>
American Association of School Librarians. National School Library Standards for Learners, School Librarians and School Libraries. ALA Editions, an imprint of the American Library Association, 2018, xiv, 314p.
2017年11月,米国学校図書館員協会(AASL)は,新学校図書館基準,『学習者,学校図書館員,学校図書館のための全国学校図書館基準』(National School Library Standards for Learners, School Librarians and School Libraries)を刊行した。全341頁と大部であり,そのすべてをここで紹介することはかなわないが,概要を簡単に報告したい。
●基準の変遷
AASLは1920年以降,ほぼ10年おきに学校図書館基準を発表してきた。基準は,初期には学校図書館に関する量的目標であったものが,質的目標,ガイドラインといった趣に変わっていき,21世紀に入るころからは児童・生徒の学習の達成に焦点を当てている。1998年の“Information Power: Building Partnerships for Learning”(邦訳あり)では,「情報リテラシー」という概念が学校図書館の活動(school library media programs)の中心を占めるべきことが宣言され,「児童・生徒の学習のための情報リテラシー基準(Information Literacy Standards for Students’ Learning)」(CA1251参照)が第2章に収載された。
そして約10年後の2007年,児童・生徒のための学習の基準“Standards for the 21st-century Learner”(E718参照)がインターネット上で公開され,2009年に学校図書館のガイドライン“Empowering Learners: Guidelines for School Library Media Programs”(邦訳あり)が発表された。このときにははじめて,学習者のための基準が先行して発表された。そして,複数のリテラシー(multiple literacies)を身につけ,学習を達成する者を育てることを学校図書館の活動は目標とするとされた。また,その背景には,9つの共通認識(Common Beliefs)があるとされた。
●新基準の概要
以上のような,過去2つの基準で最も重要な位置を占めた,学習者のための基準を,新基準も同様に中心に据えている。それが「AASL学習者基準フレームワーク(AASL Standards Framework for Learners)」で,新基準(図書の完全版)の第1部第2章として収載されている。これに続いて,第1部第3章に学校図書館員のための基準(School Librarian Standards)が,第1部第4章に学校図書館のための基準(School Library Standards)が示された。前回同様,学習者向けの基準を中心に,新基準を簡潔に整理したものは,別刷りパンフレット「AASL学習者基準フレームワーク(AASL Standards Framework for Learners)」の形でも公表されている。そして,この第2章から第4章までの3つの基準を,統合的なフレームワークで捉えなおしているのが,第2部「基準統合フレームワーク(Standards Integrated Frameworks)」(第5章から第10章)である。それを貫くのは,3つの基準の対象となっている学習者,学校図書館員,学校図書館という三者は,思考(Think),創造(Create),共有(Share),成長(Grow)という4つの学習領域(domains)を通して互いに交わる,つまり思考し,創造し,共有し,成長しながら共に学びあうという考え方である。この4つの学習領域は,思考からはじまる学習の発展段階とも捉えられており,これは全体として探究のプロセス(inquiry process)を反映したものとも考えられるだろうとされている。
では,何について学びあうのかというと,今回,新たにされた6つの共通認識を反映する,三者が共有する基盤(shared foundations)の6要素についてである。これは基本的価値観(core values)でもあるという,探究(Inquire),包摂(Include),協働(Collaborate),整理(Curate),探索(Explore),関与(Engage)である。「探究」とは,探究し,クリティカルに思考し,問題を特定し,問題解決に向けて戦略を練ることを目指すこと,「包摂」とは,包摂的であることに対して理解と責任感を示し,学習コミュニティにおける多様性を尊重すること,「協働」とは,他者と共に効果的に作業をし,視野を広げて共通の目標に向かって動くこと,「整理」とは,自分にとって関連性のある情報資源を収集し,整理し,共有することによって,自身や他者のために意味を構築すること,「探索」とは,経験と省察を通じて開発してきた成長思考(growth mindset)のもとに,発見し革新すること,「関与」とは,実践のコミュニティや相互につながる世界と関わりながら,間違いがなく合法で倫理的な知識生産物を自立して生み出し共有することである。これら6要素について,学校図書館員は専門職として実践をしてみせ,学習者は習得をしていき,学校図書館は関連する支援を行うのである。この三者が共有する基盤の6要素と前述の4つの学習領域がそれぞれに交差するところの能力(competencies)を詳細に,測定可能な形で示したのが,第2部の「基準統合フレームワーク」である。第5章「探究」から順に,6要素が取りあげられ詳述されている。
以上,新基準の第1部と第2部の構成についてごく簡単に説明したが,ここまででは頁数の半分に満たない。第3部「評価(Assessment and Evaluation)」,第4部「専門職の学習のシナリオ(Scenarios for Professional Learning)」,付録と続き,巻末に用語集,引用文献リスト,推薦文献リスト,索引がある。紙幅の関係でこれ以上の紹介はかなわないが,一冊の中で貫かれているのは,教育学,学校図書館学等の研究成果に基づいて提案をするという態度である。新基準は,2015年春に準備がはじまったということなのだが,その年のうちは,近年のニーズに基づいて,理想的な基準を策定するべく,調査会社に委託し,AASLの会員やさまざまな利害関係者から意見聴取を行ったという。その結果も,例えば用語の選択で,新基準に反映されている。ちなみに,1998年には情報リテラシーが,2007年には複数のリテラシーが,学習者のスキルとして重要であるとされたが,今回はリテラシーが前面に出されてはいない。おそらくキーワードは,学習者,学校図書館員,学校図書館の三者が関わりあう4つの学習領域と,共有する基盤の6要素の両方の説明において使われている「探究」と理解されよう。
AASLは新基準についての情報を,前述の図書,パンフレットのほか,ウェブサイト,動画,スマートフォンのアプリ(AAST Stnds)と,多種のメディアを駆使して公開している。参照されたい。
立教大学文学部・中村百合子
Ref:
http://www.ala.org/news/member-news/2017/11/aasl-announces-new-national-school-library-standards-learners-school-librarians
http://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I000003272357-00
http://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I000002966367-00
http://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I000011187975-00
http://standards.aasl.org/wp-content/uploads/2017/11/AASL-Standards-Framework-for-Learners-pamphlet.pdf
http://standards.aasl.org/
http://standards.aasl.org/implementation
https://www.youtube.com/watch?v=JFMCRxGPOgY
http://current.ndl.go.jp/node/14416
E718
CA1251