E1493 – 東海北陸地区県立図書館間の定期宅配便,開始から10年

カレントアウェアネス-E

No.247 2013.10.24

 

 E1493

東海北陸地区県立図書館間の定期宅配便,開始から10年

 

 「国立国会図書館サーチ」(CA1762参照)や「カーリル」(E1035参照)など,全国の図書館の蔵書を容易に検索できるシステムの発達等と前後して,筆者の所属する富山県立図書館においても,利用者から図書館に寄せられる県外への資料の要望は増加傾向にある。また,2012年3月に刊行された全国公共図書館協議会の『公立図書館における協力貸出・相互貸借と他機関との連携に関する報告書』でも相互貸借の改善への期待が示されているところである。県境を越える相互貸借(以下,県外貸借)への要望に対応する事業として,富山県は,東海北陸地区の6県(愛知,岐阜,三重,石川,福井及び富山)で,県立図書館間の相互貸借に関する協定を締結しており,県立図書館間の定期宅配便事業(以下,定期便)を実施してきている。本稿では開始から10年を迎えるこの事業について,その意義や課題を紹介する。

 通常,県外貸借は,リクエストが発生するその都度,図書館間での往復分の送料が発生する。一方,東海北陸地区では通函を用いた定期便の運用により,県立図書館の送料負担が年間定額となることで,予算の目途が立ち,1件当たりの送料も節約できる仕組みとなっている。これに加え,県内の相互貸借においては,県立図書館が運営し,市町村図書館を巡回する連絡車等の流通手段を活用し,県内の市町村図書館から県外の市町村図書館宛の貸出・返却資料も同梱する制度としている。つまり,市町村立図書館間の貸借は,「県内の連絡車(または宅配便)⇒県立間の定期便⇒県内の連絡車(または宅配便)」というルートの相互貸借を実現している。これにより県内の市町村図書館は経費を負担することなく,また利用者に料金を課すことなく,6県内の県外貸借を実施することができている。換言すると,県立図書館による週10函ほどの送料負担だけで,東海北陸地区の市町村立図書館のほぼ全ての相互貸借が,市町村立図書館の負担なく実施される制度となっている。

 この定期便事業のルーツは2001年度より愛知県図書館が東海地区で開始したものにさかのぼる。この情報を得た富山県立図書館が愛知県図書館に依頼し,仕組みをそのまま踏襲する形で2004年1月愛知-富山間の週1便の定期便の試行を開始,同5月には正式な運行協定を締結した。さらに翌年4月には北陸3県(富山,石川,福井)間でも同様の協定を締結した。当初は搭載資料の範囲も限定していたが,その後2005年以降順次市町村図書館間の貸出資料も搭載を可能とするよう制度を発展させていった。2013年は,愛知-富山間の運行開始から10年目にあたる。

 富山県立図書館と愛知県図書館間での同制度を用いた相互貸借の利用統計を『富山県立図書館年報』に基づき紹介すると,県立図書館間では,制度導入前の1995年度には借用・貸出合わせてわずか6冊だったが,導入後の2005年度には64冊,2012年度には101冊にまで増加している。また両県市町村まで含めた総数では,2012年度は756冊となっている。送付にかかる経費の面についてだけでも,仮にその分を購入もしくは個別送付で賄うことを想定すると,相応の経費削減効果があるといえよう。

 メリットは経費削減のみにとどまらない。各図書館が,事業を活用した県外資料の提供も視野に入れた幅広い資料提案を積極的に行うことで,元々あるニーズが掘り起こされ,上記の統計にみられるような利用の増加に結びついているようだ。実際に定期便事業が活用された例をみると,近世越中の鉱山史研究にあたっての,隣国飛騨における高山奉行の記録などの岐阜県側の地域資料が利用されたケースなど,現在の県境の枠組みではとらえきれない歴史的な事象の調査に関するニーズがある。また富山県に寄港するロシア船舶の有効活用を企図する東海地区の企業が,富山県の地域行政資料を調査のために利用したケースなど,新たな地域ビジネスへと活用された事例もある。同事業の存在により,図書館が県外の資料の提供に積極的になり,それがひいては「地域情報の拠り所」としての図書館の存在意義を高めることにもつながっているとも言えるのではないか。

 今後の取組み課題もある。例えば,越県の市町村間においての貸借では,県立図書館を2館中継することによる大幅な時間のロスがあり,この点については運行間隔や頻度などにさらなる検討の余地があるだろう。また,幅広いニーズに応えていくため,館種を超えた連携も重要である。当県内では既に2大学・1専門機関が参加しているが,館種・参加館数をより拡張し,さらなる官学連携の推進をはかりたい。運用が開始してから10年。今後の運用をどのように最適化していくか,検討を進めたい。

(富山県立図書館・竹内洋介)

Ref:
http://www.library.metro.tokyo.jp/zenkoutou/tabid/3551/Default.aspx
http://www.library.metro.tokyo.jp/Portals/0/zenkouto/pdf/2011_chap03.pdf
http://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I000000063094-00
CA1762
E1035