E1673 – 共同保存図書館実現に向けた多摩デポとカーリルの共同研究

カレントアウェアネス-E

No.281 2015.05.21

 

 E1673

共同保存図書館実現に向けた多摩デポとカーリルの共同研究

 

 東京都多摩地域の市町村立図書館は,住民に積極的な資料提供を行い,暮らしに役立つ図書館をめざしてきた。それぞれの図書館では魅力ある蔵書を構築するため,新しい本を購入するたびに古い本を書庫に移してきたが,書庫に収容しきれない本は除籍せざるをえない。いまやほとんどの図書館の書庫は満架をむかえ,個々の図書館の力だけでは本が日々消え行くという流れを止めることはできない。

 この問題を解決するには,図書館資料を保存し,長く活用するためのセーフティネットを地域全体で張る必要がある。地域共同で確実に効率的に収集した資料を保存し,インターネット上の所蔵情報の活用と図書館間の物流の整備を図ることで,蔵書をいつまでも活かすことができる。

 本来,東京都内の広域的な資料保存のリーダシップは,都立図書館が担うことになると考えるが,2002年1月に都立図書館が資料保存の限定的な方針を出した。そのことが発端となって,多摩地域で独自に資料保存を考える組織ができあがった。現在は,法人格を持った組織として,2008年4月,特定非営利活動法人共同保存図書館・多摩(通称「多摩デポ」)が発足し,活動している。

 多摩デポは,多摩地域の市町村立図書館が所蔵する資料を地域内で長きにわたって利用し続けられるよう,同じタイトルの資料は地域内で最低2冊は残すことを提案してきた。そのために各図書館が保存しきれない希少な資料を中心に,必要な資料を共同で保存し,いつでも提供できる仕組みとして「共同保存図書館」の設置に向けた運動を行っている。しかし,2015年5月現在,まだ具体的な「共同保存図書館」の設置には至っていない。

 このため,多摩デポでは,2013年度から多摩地域の各図書館の所蔵情報を仮想空間で共有し,除籍と保存の判断を効率的に行う仕組みである「バーチャル共同保存図書館」の可能性を検討してきた。そして2014年度の事業では,バーチャル共同保存図書館構想の調査・研究の一環として,多摩地域全体の図書館で所蔵冊数が残り2冊以下となった資料(「最後の2冊」)のデータベース化に着手した。これは,各図書館で除籍をしようとする資料が「最後の2冊」になっているかを容易に検索できる仕組みをつくり,各図書館が協力をしてこれらの資料を保存し,共同保存図書館を実現する準備を行うことを目的とするものである。

 このデータベースの作成には,データベースの運用に関する専門的な知識と技術が必要であり,多摩デポに対して協力してくれる人材が必要であった。また,資料保存のための手法としては,デジタル情報での保存も考えられるが,多摩デポは,あえて「本」の保存を考えており,また,印刷された資料を共同で保存し,利用に供していくことを考えている。こういった考え方を訴え,他の組織との連携協力を模索してきたが,全国の図書館の蔵書を検索するサイト「カーリル」(E1035参照)を運営する株式会社カーリル(代表:吉本龍司氏)が共同研究という形で協力を申し出てくれた。

 カーリルの吉本氏は,情報技術を活用しながら「本」そのものの利用や保存を思考できる技術者であり,その点で多摩デポの思想と通い合う部分があった。2014年10月29日,多摩デポは,カーリルと共同研究に関する協定を結ぶに至る。協定書の第2条(共同研究の内容と研究成果の活用)では,以下の3点を掲げている。

(1)公共図書館における資料の検索と同定,保存のための新たな技術の開発
(2)その他,新たな図書館サービスに関わる研究
(3)研究の成果を活用して図書館支援を行うこと

 これに基づいて,まず,ISBNが付与された資料の処理から始めた。データベース化にあたっては,各図書館から個別にデータ提供を受けることなく,すでに公開されているデータのみを活用している。具体的には国立国会図書館と国立情報学研究所の書誌データベースを活用し,ISBNが付与されたタイトルの全件数を抽出した上で,多摩地域各図書館のホームページで公開中の所蔵情報をカーリルAPIにより取得し,これらをかけあわせて冊数を判定した。その結果,これまでにデータ取得が完了した分で,多摩地域全体で「最後の2冊」になっている資料は,約32万タイトルとなっている。

 2015年度は,作成しているデータベースの精度の検証と各図書館の除籍業務等で効率的に活用する方法について検討するとともに,効果的な更新頻度等についても考えていく。今後,カーリルとの連携をさらに推進し,この共同研究が,多摩地域の資料保存の実践に実を結び,他地域にも活用されるモデルになっていくことを願っている。

共同保存図書館・多摩
理事・齊藤誠一

Ref:
http://www.tamadepo.org/
http://blog.calil.jp/2014/10/blog-post.html
http://www.tamadepo.org/shiryou/hori201503.pdf
E1035