カレントアウェアネス-E
No.308 2016.07.28
E1824
多摩デポとカーリルの共同研究成果:TAMALASの公開
NPO法人共同保存図書館・多摩(通称「多摩デポ」)は,東京都の多摩地域に共同保存図書館を作ることで,多摩地域で最後の2冊以下となる資料を共同で保存し,各図書館の利用に供することを目指して活動している。その準備作業として多摩デポと株式会社カーリルは2014年度から多摩地域の各図書館の所蔵情報を仮想空間で共有し,除籍と保存の判断を効率的に行う「バーチャル共同保存図書館」に関する共同研究を進めてきた(E1673参照)。その中で2016年5月に多摩地域(29自治体が対象)にあるすべての図書館の蔵書を横断して検索できるシステム「多摩地域公共図書館蔵書確認システム」(通称:TAMALAS,Tama(多摩)地域でLast(最後)の本という意味)を多摩デポのウェブサイトで公開した。検索対象はISBNが付与されている資料に限られるが,カーリルが提供するAPIとReact(Facebook社が提供するオープンソースのフレームワーク)を組み合わせることにより,従来と比べて検索にストレスを感じないシステムを実現した。ISBNによって検索を行うシステムのため,バーコードリーダーによる連続作業を想定して,ラスト1冊あるいは2冊となったタイトルについてはアラート音を出すことで所蔵状況のフィードバックが得られるなど,作業負荷を軽減する仕組みを取り入れた。
このシステムによって,多摩地域の公共図書館全体で所蔵冊数が2冊以下となっている資料の検索が容易になった。このことにより,現実の共同保存図書館の実現に向けた足がかりになると考えている。瞬時に多摩地域の図書館における資料の所蔵状況を確認できるようになったことのメリットは大きい。また,ある図書館で除籍候補となった実際の資料をこのシステムにかけて連続処理作業を行い,多摩地域の公共図書館で2冊以下の資料を選び出すシミュレーションを行ったところ,この作業においても動作は良好であった。これらのシミュレーションもふまえ,図書館が除籍を行うにあたって,1,000冊以上になるような大量の除籍候補について,一括で所蔵を確認できるツールの開発を進めている。
多摩デポは,TAMALASの精度を東京都立図書館が運営する「東京都立図書館統合検索」や各図書館のWeb-OPACの検索結果と照合することによって検証した。一部のテストデータについては,ISBNだけではなく書名等を使って検証したが,これによって検索結果の精度に関する課題が3点見つかった。(1)ISBNの10桁と13桁の違いによるチェックデジットの扱いが図書館システムによって異なる(図書館によっては13桁のISBNの下10桁をISBNとしてそのまま格納しているケースがあり,これをそのまま検索した場合に誤った結果となってしまう)こと,(2)各図書館の所蔵検索システムがシステムメンテナンス等でシステムが停止していることもあるので,完全な検索結果が担保されないこと(3)各自治体の図書館が格納しているISBNの不備である。(1)は,チェックデジットの扱いによる検索結果の違いをTAMALAS側で吸収し,チェックデジットの扱いに違いがあっても同じ検索結果を表示する仕組みを付加することで解決できた。(2)は,図書館のシステムが稼働していない場合には,その旨を表示することで一定の解決を見た。(3)に関しては,検索結果の正確性を高めるためには各図書館のデータ精度を高める必要があり,ISBNの不備やISBNを取り込むときの各図書館システムとISBNの相性について継続的に検証されていく必要があるだろう。
現在,共同研究ではISBNの付与されていない資料について検索する仕組みの研究に入っている。ISBNによる所蔵確認では,ISBNをキーにした同定処理を高速に実行することで所蔵確認を自動化することを目指してきたが,ISBNが付与されていない資料について自動化による確実な同定は困難である。このため,同定作業の効率化を指向したツールを試作する予定である。除籍候補の資料に対して,各図書館や国立国会図書館の書誌情報から類似する書誌を提示することで,同定作業を効率化できるであろう。これらの書誌データを蓄積することにより,「バーチャル共同保存図書館」実現に向けてさらに一歩前進することができると考えている。
特定非営利活動法人共同保存図書館・多摩・齊藤誠一
株式会社カーリル・吉本龍司
Ref:
http://www.tamadepo.org/calil.html
http://lab.calil.jp/tamadepo/
E1673