E1395 – 人・社版PLOSを目指す“Open Library of Humanities”が発足

カレントアウェアネス-E

No.231 2013.02.07

 

 E1395

人・社版PLOSを目指す“Open Library of Humanities”が発足

 

 科学・技術・医学系(STM)に比べ人文・社会科学系の研究者が学術成果のオープンアクセス(OA)化にあまり積極的でないことは,これまでも度々指摘されてきた(E1352E1372参照)。しかしこのほど,STM分野のPLOSを手本に(CA1433参照),人文・社会科学系でも類似のOAジャーナルを作ろうという新たな動きが現れた。それが2013年1月18日に誕生した“Open Library of Humanities(OLH)”である。

 OLHは,「厳密な査読による信頼性」「継続性」「永続的かつ安全な電子保存」「非営利」「研究者と図書館員のニーズに応える技術革新」等を標榜した,人文・社会科学系OAメガジャーナルプラットフォームの提供を目指すプロジェクトである。中心メンバーは3人で,英国リンカーン大学の英文学講師であるイヴ(Martin Eve)氏とエドワーズ(Caroline Edwards)氏,そして米国スタンフォード大学の産学連携プログラムMedia Xでコンサルタントを務めるマコーミック(Tim McCormick)氏である。OLH発足直前にイヴ氏は,Library Journal誌のインタビューに対して,当初は大学や研究機関の主導によるOAジャーナルの推進を期待していたが,研究機関等にその“体力”はないと判断し,研究者自らが主導することが必要と考えるに至ったと答えている。

 プロジェクトの背景には,学術雑誌の継続的な高騰とその解決策としてのOA運動の登場,さらに最近の動きとして英国のFinchレポートに基づくゴールドOAの推進が挙げられている(E1360参照)。しかし,ゴールドOAに向かう過渡期にあっては,雑誌を購読しながら,論文出版加工料(APC)として論文1本当たり平均1,000ドルから1,500ドルを支払ってOA化するという(E1381参照),二重払いの現状にあると指摘し,これをOLHは問題視している。ましてやSTMと比べ研究助成の乏しい人文・社会科学系研究者にとっては,なおさら経済的負担は大きい。そのため負担の少ない方法として“PLOSモデル”が志向された。

 OLHはPLOSを範としていることを公言してはばからない。論文の専門分野を限定せずに査読体制を確立し,さらに非営利で運営されているPLOSをOLHは高く評価し,自身のモデルとして紹介している。また,後述するOLHの委員会にはPLOSの創設者の一人でカリフォルニア大学バークレー校のアイゼン(Michael Eisen)氏も名を連ねており,PLOSからのアドバイスを積極的に受けているという。もっとも先ほどのLibrary Journal誌のインタビューに対してイヴ氏は,PLOSとの提携は考えていないこと,PLOSのように専門分野を問わない形でのジャーナルか,あるいは分野を絞ったものにするかは今後の議論次第だと答えている。

 OLHには4つの委員会が設置されている。まずは,プロジェクトの開始段階の現在,イヴ氏が最も重要と考えているAcademic Steering & Advocacy Committeeである。ここには英国の芸術・人文研究協議会(AHRC)や経済社会研究会議(ESRC)等の研究委員会のコンサルタントを経験した英米の研究者が参加し,イヴ氏ら中心メンバーとともにOLHの方針を検討する。LibTech Committeeは,インフラやシステムの知識を持つ図書館員とIT関係者等で構成され,Academic Steering & Advocacy Committeeの意見に対し,問題点の指摘や改善点のアドバイスを行う。Finance, Sustainability & Legal CommitteeはOLHのビジネスモデルを司り,APCの価格方針等の提案を行う委員会として機能する。Editorial Committeeでは専門の研究者らがジャーナルの編集を担当する。そして,上記の委員会に収まらない多くの研究者から関心が寄せられていることから,イヴ氏はそれらの人々をAdvocacy Forumとし,ソーシャルメディア等を通じたOLHの広報を担ってもらうとしている。

 OLHは,今夏に開始するウェブプラットフォームの構築と維持管理,そして人員確保等のために100万~150万ドルの資金調達が必要としている。そのほかにも,前段の委員会の組織化やプロジェクトの広報等を実施していくとしており,目の前の課題は多い。

 OLHは刊行を希望する研究者の登録受付を既に開始しており,研究者等からの注目度は高い。はたしてOLHは人文・社会科学系のOAにとっての“キラープラットフォーム”となりうるのか,今後の展開が注目される。

(関西館図書館協力課・菊池信彦)

Ref:
http://www.openlibhums.org/
http://hastac.org/blogs/ernesto-priego/2013/01/25/announcing-open-library-humanities
http://lj.libraryjournal.com/2013/01/oa/qa-martin-eve-on-why-we-need-a-public-library-of-the-humanities-and-social-sciences/
http://chronicle.com/article/Project-Aims-to-Bring/136889/
CA1433
E1352
E1360
E1372