カレントアウェアネス-E
No.231 2013.02.07
E1394
米国情報標準化機構ISQ誌の「未来の図書館システム」特集
米国情報標準化機構(NISO)の季刊誌“Information Standards Quarterly”の2012年秋号が「未来の図書館システム(Future of Library Systems)」という特集を組んでいる。本特集の編集を務めたブリーディング(Marshall Breeding)氏の緒言に続き,次世代型図書館業務システム(E1282,E1307参照)に関する計6本の記事が掲載されている。以下,各記事の概要を紹介したい(6本目のCOREプロトコルに関する記事は割愛する)。
特集は,CARE Affiliates社代表のグラント(Carl Grant)氏による総論“The Future of Library Systems: Library Services Platforms”から始まる。同氏は,本業のコンサルティングの傍ら,ヴァージニア工科大学図書館長の相談役や,Ex Libris社,Innovative Interfaces社などの図書館システムベンダの要職にも就いている人物で,自身のブログでも積極的に自身の考察を発表している。
総論では,OCLCのWorldShare Management Services(WMS;E1250参照),Ex Libris社のAlma,Innovative Interfaces社のSierra,Serials Solutions社のIntota,オープンソースのKuali OLE(E1003参照),VTLS社のOpen Skiesの6種類の製品が登場する。グラント氏はこれらを,まったく一から設計したもの(WMS,Alma,Intota),既存の製品を進化させたもの(Sierra,Open Skies),オープンソースのもの(OLE)の3つに分け,それぞれの特性に由来する長所・短所を解説している。続いて,各製品の概要や開発の現状をまとめたうえで,その特徴や対象館種,機能のサポート状況をコンパクトな表に整理している。各社のデータセンターのセキュリティ状況についても言及している。この表は必見であろう。
総論を受けて,IntotaとOpen Skiesを除いた4製品に関し,多様な観点からの具体的な報告が続く。
その1本目では,パデュー大学図書館のブラッケ(Paul Bracke)氏が,Almaの開発パートナーとしての経験を語っている。同館は,開発の初期段階から,システムの設計やデータ移行を含めたテストに関ってきた。パートナーになった理由は,Almaが同館の戦略を実現し,変革を進めてくれるものだと感じたからである。Ex Libris社との設計の際には,要望する機能を具体的なシナリオとして記述するユースケースという手法を用い,自分たちの思い込みを疑う機会になった。また,システム開発の初期段階からパブリックサービスの担当者を巻き込むことの重要さにも気付いたという。同館では,2013年5月にAlmaの実稼働を開始する予定である。
続く2本目では,スプリングヒルカレッジ図書館のホルバート(Gentry Holbert)氏が,WMSの導入事例を報告している。同館はライブラリアンが5人という小規模館である。2010年12月にWMSの初期導入館となり,タイトなスケジュールの末,2011年4月にSirsiDynix社のSymphonyからWMSに移行した。データ移行時の苦労,閲覧・図書受入・目録・雑誌業務という各システムの設定内容,併せて導入したWorldCat Localの利用者向け広報や講習の様子について記されている。システム移行でコスト削減が達成できたものの,WMSのものとは別の電子リソースリストの契約を続ける必要があるなど,単一のシステムで全てを担うことはできないことが分かったとしている。
3本目では,オレンジ郡図書館システム(OCLS)のアトキンソン(William Eric Atkinson)氏が,Sierraの導入事例を紹介している。OCLSは中央館と14の分館から構成される。2011年に開発パートナーとなり,2012年10月にSierraに移行した。元々同じInnovative Interface社のMillenniumを導入し,それと連携した諸システムを自作して運用していた。例として,コールセンター,WiFi接続サービス,SMS通知サービス,オンラインデータベースへのリモートアクセス,モバイルアプリケーションなどのシステムが挙げられている。記事では,Sierraの機能そのものよりも,これら自作システムの改修の経緯が中心となっている。
最後4本目では,ペンシルバニア大学図書館のウィンクラー(Michael Winkler)氏とインディアナ大学のマクドナルド(Robert H. McDonald)氏が,Kuali OLEについて述べている。ここでは,技術的な事柄やプロジェクトの状況よりも,むしろこれまで触れられることの少なかった複数機関のコミュニティによる共同開発というモデルに光を当てている。例えば,ベンダの統合による寡占化やクラウドへの移行が進行する図書館システム市場において,システムの選択肢を増やすために協働する意義について述べている。Kuali OLEは,2013年中にバージョン1.0をリリースすることを目指して開発が進められている。
この次世代型図書館業務システムというテーマについて日本語で読める文献はまだ少ないが,ユサコ株式会社の伊藤裕之氏が『薬学図書館』57巻4号(2012年)にAlmaの解説記事を寄せている。本特集と併せてご覧いただくことをお勧めしたい。
(関西館図書館協力課・林豊)
Ref:
http://www.niso.org/publications/isq/2012/v24no4/
http://www.care-affiliates.com/
http://thoughts.care-affiliates.com/
http://www.yakutokyo.jp/kikanshi/search/57/4/2012
E1003
E1250
E1282
E1307