E1393 – ディスカバリサービスへのデータ提供で関係者が抱える課題

カレントアウェアネス-E

No.231 2013.02.07

 

 E1393

ディスカバリサービスへのデータ提供で関係者が抱える課題

 

 国内でも広がりを見せているディスカバリサービス(CA1727CA1772参照)の特徴は,紙媒体と電子媒体という形態の差,さらには,論文や雑誌,一連のコレクションといった単位の違いをも超えて,図書館の扱う多様な資料を一括して検索できることにある。その一括検索用の膨大なインデックスの構築を目指し,ディスカバリサービスのベンダは競って,出版社やアグリゲータといったコンテンツプロバイダから大量にデータを集めている。

 このように,ディスカバリサービスでは従来のOPACと比べて関係者が増えた分,事情が複雑化しており(E1266参照),標準の策定や推奨指針の作成が求められている。そこで米国情報標準化機構(NISO)は,2011年10月にOpen Discovery Initiative(ODI)というワーキンググループの設置へと動いた。ODIは,2011年9~10月に,ディスカバリサービスの関係者―図書館,コンテンツプロバイダ,ベンダ―を対象としたアンケート調査を実施し,2013年1月には,その結果を“ODI Survey Report: Reflections and Perspectives on Discovery Services”というレポートにまとめた。

 調査に対し,英米を中心に871の回答が集まった。回答者の所属は,図書館が782,コンテンツプロバイダが74,ベンダが15という内訳であった(コンテンツプロバイダについては回答数が少なかったという認識が示されている)。質問内容は所属によって基本的に分かれており,設問数にも差がある。そこで本稿では,レポートの全体像を紹介するのではなく,関係者三者の考えが特に交差する,ディスカバリサービスに対するデータの提供という領域に注目する。

 まず,図書館については,回答者の所属館におけるディスカバリサービスの導入率は74%であった。図書館はディスカバリサービスの利用者であるとともに,機関リポジトリなどからデータを提供する存在でもある。512の回答者のうち49%がディスカバリサービスにメタデータを提供しており,さらにその48%が複数のフォーマットでデータを提供できるようにしている。そのデータ提供における課題(回答数225)については,25%が「課題はない」とした一方で,「データの転送」が18%,「人員不足」が18%,「その他」が15%,「作業が自動化されていない」が13%,「要求されるフォーマットが複雑」が11%という結果だった。

 続いてコンテンツプロバイダである。全回答者の44%が「全て」,48%が「一部」のデータをディスカバリサービスに提供している。データを全て提供するに当たっての障壁として最も多く挙がったのは知的財産権に関する懸念であった。自らの保有する付加価値のあるデータを提供することのリスクや,提供するコンテンツを分別する必要性を問題と感じている。次に,提供データの種類(回答数34)を尋ねると,タイトル,著者名,出版日,標準識別子をはじめとするほとんどの種類は回答者の半分以上から挙げられたが,オープンアクセスか否か,統制語彙,著者所属は相対的に少数であった。続いて提供における課題(回答数29)については,「人員不足」が23%,「課題はない」が20%,「データ転送の問題」が18%,「要求されるフォーマットが複雑」が15%,「作業が自動化されていない」が12%,「その他」が12%であった。また,メタデータフォーマットなどに関する情報について,回答 のうち36%がベンダから提供されてない,27%が分からないと答えており,両者のコミュニケーション不足の可能性が指摘されている。

 最後に,二者からデータを収集しているベンダについてはどうだろうか。全回答の46.7%がコンテンツプロバイダからのデータの受取に関して「現在大きな苦労はない」と回答した。これはコンテンツプロバイダの見解とは対照的であると指摘されている。他方,メタデータフォーマットや転送方法,作業の自動化について技術的な課題を抱えているというコメントも寄せられた。また,53%が,図書館やコンテンツプロバイダのための手引の作成に障害があるとした一方で,80%が,コンテンツプロバイダから提供されるメタデータの質がディスカバリサービスの検索結果に大きな影響を与えると答えている。ODIはここに標準化推進の可能性を見ている。

 ODIは,今回の調査により,図書館,コンテンツプロバイダ,ベンダの込み入った関係が改めて示されると共に,新たな疑問が生まれ,今後継続して調査すべき領域も明らかになったとしている。2013年中に最終報告書と推奨指針を発表する予定である。その内容に期待したい。

(関西館図書館協力課・林豊)

Ref:
http://www.niso.org/workrooms/odi/
http://www.niso.org/lists/opendscovery/
http://www.niso.org/apps/group_public/document.php?document_id=9977
CA1727
CA1772
E1266