E2351 – 透明で公正なディスカバリーサービスのために

カレントアウェアネス-E

No.407 2021.01.28

 

 E2351

透明で公正なディスカバリーサービスのために

筑波大学学術情報部・松野渉(まつのわたる)

 

   学術情報の統合的な検索を可能とするウェブスケールディスカバリーサービス(CA1772参照)が登場してから既に10年以上が経過している。日本においても,文部科学省が実施した2019年度の学術情報基盤実態調査によれば,国内の約20%の大学図書館がディスカバリーサービスを導入している。

   通常,ディスカバリーサービスの導入・運用においては,コンテンツプロバイダー,ディスカバリーサービスプロバイダー,図書館等が利害関係者となるが(E1266参照),その間で検索対象となるリソースの全体像が不確か,メタデータの由来が曖昧など「透明性」が問題となることがある。その対応のため,米国情報標準化機構(NISO)が立ち上げたOpen Discovery Initiative(ODI)は,ディスカバリーサービスの透明性向上のための推奨指針“Open Discovery Initiative: Promoting Transparency in Discovery”を策定し,2014年に公表した(E1604参照)。

   指針の公表後も,ODIはこの指針の採用促進のため活動を継続しているが,その一環として指針の改訂作業を実施し,2020年6月にその改訂版が公表された。改訂に際しては利害関係者に対して2019年前半に情報収集のための調査が実施され,2020年1月にはパブリックコメントに向けた草案公表も行われている。

   改訂版ではコンテンツプロバイダーおよびディスカバリーサービスプロバイダーに対する推奨事項が改訂された他,図書館に対する推奨事項が新たに加えられた。改訂版で主に改訂・追加された推奨事項は以下の通りである。

<コンテンツプロバイダーに対する推奨事項>

  • ディスカバリーサービスプロバイダーに対して,KBART(CA1784参照)に基づいたメタデータを提供すること,またそのメタデータには少なくとも同指針で提示するコア要素を含むことを求めている。このコア要素は従来15項目だったものに4項目が加わり19項目となった。新たに加わった項目はORCID(CA1740参照)などの「著者識別子」や,MARC言語コードへの準拠が推奨される「記述言語」などである。また,従来はディスカバリーサービスをより充実させるため可能な限り提供すべきとされていた項目の一部がコア要素に加えられている。
  • コンテンツへの公正なリンキングのため,ディスカバリーサービスにはOpenURL(CA1482参照)に関する規格(ANSI/NISO Z39.88-2004 (R2010))への対応が推奨される。従ってコンテンツプロバイダーはOpenURL解決のために必要な最低限のメタデータを提供しなければならない。なお,図書館によるOpenURL利用を妨げないよう,他の直接リンク機能のためのメタデータによる代替は不可である。

<ディスカバリーサービスプロバイダーに対する推奨事項>

  • 収録コンテンツのメタデータ項目について,従来の版ではタイトルレベル6項目だったが,改訂版ではタイトルレベル,コレクションレベルでそれぞれ11項目を提供することとされた。これらのメタデータは,図書館およびコンテンツプロバイダーの両者に対して提供されなければならない。
  • コンテンツプロバイダーと図書館に対して利用統計を提供すること。前者について,従来の版では提供推奨項目が指定されていたが,改訂版ではCOUNTER(CA1512参照)に準拠した利用統計をすべてのコンテンツプロバイダーに毎月定期的に配信することを求めている。
  • オープンアクセスやパブリックドメインなど,「自由に読める」コンテンツについてエンドユーザーが理解できるように提示しなければならない。これはライセンス情報の記載に関する規格(NISO RP-22-2015)に準拠して提供される。
  • 認証機能を提供し現在の購読者のみが有償コンテンツを利用可能であることをコンテンツプロバイダーに対して保証するべきである。
  • 検索アルゴリズムの中でメタデータがどのように利用されているかを説明しなければならない。

<図書館に対する推奨事項>

  • ディスカバリーサービスおよびその関連ツールに関する責任者を決定しなければならない。また,関連する意思決定やその理由の文書化,ディスカバリーサービスに対する定期的な評価を実施する必要がある。
  • ディスカバリーサービスにおいて利用可能なコンテンツ,ツール,ランキング,オプションなどについて確認・調整し,必要に応じてコンテンツプロバイダーまたはディスカバリーサービスプロバイダーに説明を求めることが出来る。また不完全・不正確なコレクションについて,まずディスカバリーサービスプロバイダー,次にコンテンツプロバイダーに報告しなければならない。
  • ディスカバリーサービスの導入時および導入後にプロバイダーによって提供される支援についての詳細な契約書を作成しなければならない。
  • ディスカバリーサービスおよびその関連ツールについて,職員および利用者を対象とした研修を実施しなければならない。

   今回の改訂によって,ディスカバリーサービスを外部の既存の指標などを通じてその標準を示す,という従来の指針の方向性が踏襲・強調される事となった。加えて,ディスカバリーサービスの運用によってしばしば生じる利害関係者間の利益相反について,各者に公正な観点から具体的な対応を求めている点も今回の改訂の大きな特徴の一つと言えるのではないだろうか。

Ref:
“学術情報基盤実態調査(旧大学図書館実態調査)”. 文部科学省.
https://www.mext.go.jp/b_menu/toukei/chousa01/jouhoukiban/1266792.htm
NISO RP-19-2014 : 2014. Open Discovery Initiative: Promoting Transparency in Discovery. NISO.
https://www.niso.org/publications/rp-19-2014-odi
NISO RP-19-2020 : 2020. Open Discovery Initiative: Promoting Transparency in Discovery. NISO.
https://www.niso.org/publications/rp-19-2020-odi
“MARC Code List for LANGUAGES”. Library of Congress.
https://www.loc.gov/marc/languages/
ANSI/NISO Z39.88-2004 (R2010) : 2010. The OpenURL Framework for Context-Sensitive Services. NISO.
https://www.niso.org/publications/z3988-2004-r2010
“Access and License Indicators”. NISO.
https://www.niso.org/standards-committees/access-and-license-indicators
ディスカバリサービスの様々な関係者の権利と義務を整理する. カレントアウェアネス-E. 2012, (210), E1266.
https://current.ndl.go.jp/e1266
林豊. ディスカバリーサービスの透明性向上のためになすべきこと. カレントアウェアネス-E. 2014, (266), E1604.
https://current.ndl.go.jp/e1604
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https://doi.org/10.11501/3501036
渡邉英理子, 香川朋子. 図書館におけるナレッジベース活用の拡がりとKBARTの役割. カレントアウェアネス. 2012, (314), CA1784, p. 14-17.
https://doi.org/10.11501/6006433
蔵川圭. 著者の名寄せと研究者識別子ORCID. カレントアウェアネス. 2011, (307), CA1740, p. 15-19.
https://doi.org/10.11501/3050829
増田豊. OpenURLとS・F・X. カレントアウェアネス. 2002, (274), p.17-20.
https://current.ndl.go.jp/ca1482
加藤信哉. 電子ジャーナルの出版・契約・利用統計. カレントアウェアネス. 2003, (278), p.9-12.
https://doi.org/10.11501/287146