E2352 – 米国国立公文書館(NARA)のソーシャルメディア新戦略

カレントアウェアネス-E

No.407 2021.01.28

 

 E2352

米国国立公文書館(NARA)のソーシャルメディア新戦略

国際子ども図書館企画協力課・舟口永恭(ふなぐちながやす)

 

   2020年9月,米国国立公文書館(NARA)は2021年度から2025年度までのソーシャルメディア戦略を公表した。この戦略はNARAの使命「高い価値をもつ政府記録への市民のアクセスを通じ,開放性を向上させ,市民参加を促進し,国の民主主義を強化する」を達成する鍵として位置づけられており,同館が館全体で定める以下4つの戦略目標とも密接に関連している。

  1. アクセスを生じさせる(Make Access Happen)
  2. 利用者とつながる(Connect with Customers)
  3. 国民にとってのNARAの価値を最大化する(Maximize NARA’s Value to the Nation)
  4. 人々を通じ未来を築く(Build Our Future Through our People)

   NARAは2010年に最初のソーシャルメディア戦略を公表後(E1313参照),2017年度から2020年度を対象とする改訂版を経て今回の戦略を打ち出した。過去の戦略に基づき,同館では既に130人以上の担当職員が,14の異なるソーシャルメディアのプラットフォームで139のアカウントを運用している。新戦略を発表するプレスリリースにおいて同館は,新型コロナウイルス感染症が拡大し,多くの文化施設においてオンラインが唯一の窓口となる中,ソーシャルメディア活用を推し進めてきた自館のオンライン上での存在感の大きさを強調する。さらに,戦略において,感染症拡大によってデジタル環境に大きな変化が生じ,この変化が利用者と組織の関わり方に永続的な影響をもたらすことを認めつつも,「我々の使命は揺らがない」と表明している。

   NARAは今回の戦略を通じて,利用者と所蔵資料を結びつけ,オンラインリソースを提供し,使命達成のために取り組む同館の活動を紹介するとしている。そしてソーシャルメディアを利用する目的意識を職員の間で共有するとともに,職員同士のつながりやNARAの使命との結びつきを感じられる枠組を示していくと述べている。この枠組は具体的に以下3つの柱からなり,いずれも上述したNARAの4つの戦略目標の達成に貢献するとされる。

  • 歴史を共有する:私達は何を所蔵しているのか(Share our history: What we hold)
  •    NARAはオンラインを通じ,所蔵資料をより容易に世界中の利用者に提供することを目指す。加えて,資料自体の情報のみに留まらず,その資料が作成された経緯といった専門的な情報を含む「ストーリー」もまた,ソーシャルメディアを通じ発信する。こうしたストーリーにより,利用者による歴史の理解を助けることができるほか,同館への市民からの認知や信頼を獲得できる。
  • ストーリーを共有する:私達は何者か(Share our stories: Who we are)
  •    ここでのストーリーとは職員の専門知識や技能を指しており,各職員が業務について発信し,利用者との共有を図る。政府機関として文書を管理するNARAは,顔のない官僚組織,あるいは,棚の上が埃をかぶった箱であふれた場所,といった印象を持たれやすい。これに対しソーシャルメディアでは,顔の見える職員が普段利用者の目の届かない「裏方」の業務について語ることができる。こうした個人による経験の発信は時間と組織的な努力を要する一方で,利用者の強い関心を呼び,NARAをより親しみやすくすることが期待される。同館は業務フローにソーシャルメディアを組み込むなどして,この実現を目指すとしている。
  • 使命を共有する:私達は何を行っているか(Share our mission: What we do)
  •    NARAは使命や業務を,ソーシャルメディアを通じてより広く利用者に周知する。同館は憲法や独立宣言を保存するだけでなく,利用者層に応じて様々な資料提供も行っている。ソーシャルメディアは多様な業務を個人レベルで紹介することで,幅広い資料が利用可能な状態で保たれていることを市民に示すことができる。こうした情報発信,またソーシャルメディアを通じた利用者からの声の収集とそれらへの対応,および,NARAの使命への理解促進は,同館の戦略目標「利用者とつながる(Connect with Customers)」とも関わるものである。

   以上がNARAの新たなソーシャルメディア戦略を構成する3つの柱である。この戦略にも見られる通り,ソーシャルメディアは市民と公的組織をより緊密に結びつける可能性をもつ一方で,その双方向性の強さには特有のリスクも存在する。米国図書館協会(ALA)は公共図書館,大学図書館におけるソーシャルメディア運用ポリシーに関するガイドラインを公開しているが(E2089参照),組織として情報発信を行う以上,日本の図書館でも適切な運用規定や,NARAのようなビジョンの明確化は必要となる。こうした整備には負担が伴うが,新型コロナウイルス感染症の感染が拡大する中,ソーシャルメディアが組織にとって必須のツールとなることは避けられない。先行事例を参照した,効果的な運用体制の構築が課題となる。

Ref:
“Social Media Strategy Fiscal Years 2021-2025”. NARA.
https://www.archives.gov/social-media/strategies
“Five-Year Social Media Strategy Released”. NARA. 2020-09-30.
https://www.archives.gov/news/articles/social-media-strategy-2020
“2010 Social Media Strategy”. NARA. 2010-12-08.
https://www.archives.gov/social-media/strategies/2010
“Social Media Strategy 2017-2020”. NARA.
https://usnationalarchives.github.io/social-media-strategy/introduction/
依田紀久. 米国国立公文書館,開かれた政府の実現へ向けて活動継続. 2012, (218), E1313.
https://current.ndl.go.jp/e1313
佐藤翔. ソーシャルメディアの運用ポリシーに関するALAガイドライン. 2018, (360), E2089.
https://current.ndl.go.jp/e2089