カレントアウェアネス-E
No.406 2021.01.14
E2341
東京大学アジア研究図書館の開館
東京大学附属図書館・石川一樹(いしかわかずき)
2020年10月1日,東京大学附属図書館は,東京大学本郷キャンパス(東京都文京区)の総合図書館内に東京大学アジア研究図書館を開館し,11月26日には総合図書館のグランドオープンとアジア研究図書館の開館を記念する式典を執り行った。研究機能と図書館機能との有機的結合を目指す新しいタイプの図書館の誕生である。
東京大学では2010年から新図書館構想に関する検討を開始し,2012年には地下書庫とコモンズ空間の新設,総合図書館の耐震・設備改修や図書館機能の高度化などを目標とする新図書館計画として具体化した。その柱の1つがアジア研究図書館構想であり,計画の当初からアジア研究図書館について検討するワーキンググループ(2013年からアジア研究図書館部会と改称)を立ち上げ,東京大学附属図書館アジア研究図書館上廣倫理財団寄付研究部門(U-PARL)や関連する研究科・学部および研究所(以下「部局」)の教員と図書館職員が協働してフロアプランや分類体系,学内の図書館組織の中での位置付け等について検討を行った。2018年度からは開館に先駆けてアジア研究図書館長の下に運営委員会を設置し,移管調査や規則類,利用条件,サブジェクト・ライブラリアンの在り方などについて検討を重ねてきた。
アジア研究図書館では,東京大学に蓄積されてきたアジア関係の研究資料を集約・再構築し,国内外のアジア研究者が集う世界最高水準のアジアに関する研究環境の実現を目指している。集約・再構築という面でいえば,その蔵書がU-PARLの収集資料,退職した教員などから寄贈されたコレクション資料の他に,部局図書館から移管された多くの資料からなっていることがあげられる。10月1日の開館時点で利用可能なのは,総合図書館4階の開架フロア(約5万冊収容可能)に排架された約1万8,000冊に過ぎないが,2018年度に行われた開架図書移管に係る調査では,自然科学系を含む9部局から希望が寄せられ,その結果を基に運営委員会で約3万冊が選定された。これらの資料は,地域・言語・主題からなるアジア研究図書館独自の新たな分類体系による整理が現在進行中であり,日々利用できる資料が増えている状況である。また,2020年度に行われた追加の予備調査では各部局からの移管候補図書が約24万冊との回答も出ており,2018年に運用を開始した総合図書館別館地下の自動書庫(約300万冊収容可能)も併せて活用することを想定し,今後も段階的に調査・移管を実施する計画である。
また,アジア研究図書館は従来の大学図書館が担ってきた教育研究支援だけではなく,学内外のアジア研究組織・研究者との連携による協働型アジア研究や国際的な成果発信・研究交流を行うなど,図書館自体が研究機能を有することを特色としている。研究・連携という面に関連しては,2014年に附属図書館で初めての研究部門であるU-PARLが設立され,設立時より任務の1つとしてアジア研究図書館の構築支援が掲げられてきた。具体的には,フロアプランや新分類体系の策定,移管図書の選定を含む蔵書構築,サブジェクト・ライブラリアン制度の検討などに大きく寄与してきた。また,IIIF(CA1989参照)を用いた所蔵資料のデジタル化による東京大学アジア研究図書館デジタルコレクションの構築,アジアや図書館に関するセミナー・シンポジウムの企画・開催などの活動も行っている。
アジア研究図書館自体としても,学内の研究組織であるヒューマニティーズセンター,東アジア藝文書院,U-PARLとの連携によるプレ開館シンポジウムの開催,台湾の国家図書館との覚書に基づく台湾漢学リソースセンター(TRCCS)コーナーの4階フロアへの設置や,高い専門性に対価を支払って学内業務にいかしてもらうオンキャンパスジョブ活用の枠組みによるカウンター対応などを行う大学院博士課程学生の雇用など,研究図書館としての歩みが始まっている。さらに,2021年度には附属図書館にアジア研究図書館に関する新たな研究部門を立ち上げる予定であり,ここではアジアに関する研究のみならず,サブジェクト・ライブラリアン制度の確立を目指した取り組みが行われることになっている。
附属図書館では,2020年11月から東京大学基金の新プロジェクト「東京大学附属図書館支援プロジェクト」を開始し,寄せられた寄付金の一部はアジア研究図書館の整備にも充てられる予定である。生まれたばかりの東京大学アジア研究図書館に対して,読者の皆様を始めとして温かいご支援を賜れば幸いである。
Ref:
“アジア研究図書館”. 東京大学附属図書館.
https://www.lib.u-tokyo.ac.jp/ja/library/asia
東京大学附属図書館アジア研究図書館上廣倫理財団寄付研究部門(U-PARL).
http://u-parl.lib.u-tokyo.ac.jp/
東京大学アジア研究図書館デジタルコレクション.
https://iiif.dl.itc.u-tokyo.ac.jp/repo/s/asia/page/home
U-PARL編.図書館がつなぐアジアの知:分類法から考える.東京大学出版会,2020,215p.
永崎研宣. IIIFの概要と主要API バージョン3.0の公開. カレントアウェアネス. 2020, (346), CA1989, p. 13-16.
https://doi.org/10.11501/11596735