E2342 – 須賀川特撮アーカイブセンターについて

カレントアウェアネス-E

No.406 2021.01.14

 

 E2342

須賀川特撮アーカイブセンターについて

須賀川市文化交流部文化振興課・高橋侑大(たかはしゆきひろ)

 

   2020年11月3日・文化の日,福島県須賀川市に「須賀川特撮アーカイブセンター」(以下「本センター」)が開館した。本センターは,特殊撮影(特撮)技術ならびに制作された作品等に関連する貴重な資料等を収集,保存,修復および調査研究し,また,それらを通じて特撮文化を顕彰,推進することを目的としている。

   須賀川市では,東日本大震災以降,地域の新たな魅力を創出するため,郷土の偉人である円谷英二監督(1901年生,1970年没)にスポットをあて,株式会社円谷プロダクションの協力を得ながら,2013年5月5日,ウルトラマンの故郷「M78星雲 光の国」と姉妹都市の提携をした。このユニークな取組をきっかけに,市内にはウルトラヒーローや怪獣のモニュメントなどが並び,多くの家族連れや愛好家が訪れるようになった。さらに2019年1月11日には,円谷監督を顕彰する施設「円谷英二ミュージアム」を須賀川市民交流センターtette(E2142, E2169参照)内に開設した。円谷監督のあゆみや人となりをパネルや映像で紹介するほか,図書館を含む複合施設内にある利点を生かし,映像や造形物などの展示物と関連図書をあわせて配置するなど,特撮と関連分野との効果的な連携を図っており,多くの来場者がみられる。

   円谷監督は,日本の特撮の礎を築き,「特撮の神様」とも称されている。その卓越した技術は現在まで受け継がれ,多くの特撮作品が生み出され続けている。一方で,特撮に関連するミニチュアなどの貴重な資料は,破棄されたり,散逸したりと危機的な状況に置かれてきた。そのような現状を訴え,特撮の魅力を伝えるため,2012年に企画展「館長 庵野秀明 特撮博物館 ミニチュアで見る昭和平成の技」が東京都現代美術館で開催され,その後,国内4箇所で巡回展が行われた。また,文化庁のメディア芸術情報拠点・コンソーシアム構築事業において「日本特撮に関する調査」が2012年度から2014年度までの3か年にわたり実施されるなど,特撮を文化として捉えなおす活動がみられている。2017年には,特撮関係者などで構成する特定非営利活動法人アニメ特撮アーカイブ機構(ATAC)が設立され,アニメや特撮の資料を文化として後世に継承していくアーカイブ活動が本格的に始動した。このような動きの中,特撮資料を恒久的に保存するための場所を検討していたATACと,地域の特色である特撮を日本の誇る文化として保存,後世に継承しようとする須賀川市が連携して,特撮資料をアーカイブするための施設として取り組んできたのが本センターである。

   本センターは,特撮資料等を収集・保存・修復・調査研究するため,また,特撮の魅力や楽しさを感じられるための様々な機能を有している。本センターでは関係者等から寄贈,寄託を受けたミニチュアやプロップ,背景画など1,000点を超える資料を収蔵しているが,その多くは収蔵庫内に収められており,来館者はその保存の様子を通路からガラス越しに見学できるようになっている。多目的スペースには,撮影で使用された建物のミニチュアを使用し,様々な特撮技術が施されたミニチュアセットがある。実物を間近で見られるほか,本物のような風景や,人物が巨大化したような写真も撮ることができるなど,特撮の魅力を実際に体験することができる。その他にも,特撮に関する書籍が閲覧できる図書室や,特撮撮影用背景画が設置されているホールなど,様々な形で特撮資料等を収蔵しており,開館後,県内外から多くの人が来館している。

   本センターの第一義は,貴重な特撮資料を適切な環境で保存することである。特撮文化を後世につなげるためにアーカイブは非常に重要であると考えているが,様々な課題も見えてきている。その一つが資料の保存環境整備である。本センターは他目的で使用されていた公共施設を再活用して整備されたが,博物館のように当初から資料の収蔵を想定した建物ではないため,温湿度管理を含め,資料保存の環境をどう整えていくかは今後の検討課題である。また,資料は材質や形状が多種多様であり,これまで保管されてきた環境も様々であるため,資料毎の適切な保存環境を整える情報や知識,ノウハウが不足している現状がある。関係者と連携して調査研究を続けていくことが必要である。

   須賀川市の特撮文化を推進し,後世に継承していくための取組は緒に就いたばかりである。経験が少ない地方公共団体ではなおさら,制作会社をはじめとする多くの方々のご理解とご協力がなければ進めることはできない。引き続きのご指導ご支援をお願いするところである。結びに,本センターの開館に当たり,特撮文化を守り伝える趣旨をご理解いただき,多大なご協力をいただいた全ての方々に御礼を申し上げたい。

Ref:
“須賀川特撮アーカイブセンター”. 須賀川市.
https://www.city.sukagawa.fukushima.jp/bunka_sports/bunka_geijyutsu/1006499/index.html
“須賀川人物伝 円谷英二”. 須賀川市. 2020-03-12.
https://www.city.sukagawa.fukushima.jp/shisei/rekishi/jinbutsuden/1002511.html
“「須賀川市×M78星雲 光の国」の姉妹都市提携により「すかがわ市M78光の町」誕生!”. すかがわ市M78光の町. 2013-05-05.
https://m78-sukagawa.jp/news/182/
“円谷英二ミュージアム”. 須賀川市民交流センターtette.
https://s-tette.jp/museum/
“館長庵野秀明 特撮博物館 ミニチュアで見る昭和平成の技”. 日本テレビ.
https://www.ntv.co.jp/tokusatsu/
“日本特撮に関する調査報告書”. メディア芸術カレントコンテンツ. 2013-05-21.
https://mediag.bunka.go.jp/article/tokusatsu_report-916/
“日本特撮に関する調査報告 <平成25年度>”. メディア芸術カレントコンテンツ. 2014-06-27.
https://mediag.bunka.go.jp/article/tokusatsu-report-h25-2366/
“日本特撮に関する調査報告 <平成26年度>”. メディア芸術カレントコンテンツ. 2015-04-08.
https://mediag.bunka.go.jp/article/tokusatsu-report-h26-3547/
特定非営利活動法人アニメ特撮アーカイブ機構(ATAC).
https://atac.or.jp/
岡崎朋子. 須賀川市民交流センター内に中央図書館が移転オープン. カレントアウェアネス-E. 2019, (370), E2142.
https://current.ndl.go.jp/e2142
長谷部久美子, 長沖竜二. 図書館総合展2019フォーラムin須賀川<報告>. カレントアウェアネス-E. 2019, (375), E2169.
https://current.ndl.go.jp/e2169