カレントアウェアネス-E
No.370 2019.06.13
E2142
須賀川市民交流センター内に中央図書館が移転オープン
●開館までの経緯
2019年1月11日に開館した福島県の須賀川市民交流センター(tette:テッテ)は,東日本大震災からの創造的復興を目指して整備された。市中心部にあって被災し,使用不能になった総合福祉センターに代わる新たな複合施設である。総合福祉センターが担っていた市民交流や子育て支援,市民活動支援の機能を継承するとともに,1970年代に建てられ老朽化した中央公民館と須賀川市図書館(移転と同時に須賀川市中央図書館へ名称変更)を移転させ,これらを合わせて多機能化することで,まちなかに賑わいを生み出すことを目指した。基本コンセプトは「人を結び,まちをつなぎ,情報を発信する場の創造」である。2013年,市が実施した設計者選定プロポーザル競技において選定された建築設計事務所の担当者(以下「設計側」)から提示されたのは,tette内の図書館以外の場所にも相当数の本を置くという斬新な案であった。歴史ある図書館の単なる移転にとどまらない,新しい魅力の創出が必要とされていた。
●開館準備
前例のない施設を作るため,設計側がコンサルタントを招き,図書館側へ助言するスタイルで事業が進められた。隔週で設定された打ち合わせのほか,多くの市民が参加したワークショップを35回実施し,出された様々な意見を検討していった。図書館にとって最大の課題はテーマ配架への転換であった。図書館としては日本十進分類法(NDC)に基づく分類による配架を保ちたい。設計側はNDCにこだわらない配架を実現したい。両者の度重なる協議の末,どちらも生かす道を選択し,NDCを生かしつつ新たな分類を付加することにした。テーマを決定するまでには,仮のテーマ配架棚を作って利用者の反応を見るなどして試行錯誤を重ねてきた。
tette内の図書館エリア外にある子どもの遊び場や円谷英二ミュージアムなどの中にも本を置くこととし,それぞれにテーマを設定し蔵書を拡充しながら準備を進めていった。新たに購入した本も1冊ずつテーマに振り分ける作業が必要だったが,作業場所が館内にも近辺にも用意できなかった。10km離れた場所まで通い,エアコンもない部屋で汗を流しながら作業したのは忘れられない思い出のひとつである。
●開館後の状況
3年以上かけて作り上げた案を基に配架を行い,オープンにこぎつけた。だが,これで理想とする配架が完成したわけではない。書架を眺めて歩くことで新たな発見をしてもらいたいのと同時に,少しでも使いやすく・分かりやすくしたい一心で,利用者の声を聞きながら改良を続けている。館内にはテーマ配架に合わせて作られた書架があり,企画展示がしやすくなった。旬の話題やまちなかのイベント,行政のお知らせ等々のチラシを置き,ポスターを掲示し,あるいはPOPを作り,関連する資料を展示している。ここにはアイデアや素材が多くあり,得意分野を持つ職員もいる。展示した棚の前で利用者が足をとめている光景があちこちで見られるようになった。多機能融合施設であるtette内で実施するイベントに合わせて関連資料を展示するのはもちろん行っているが,ほかにも公立病院主催のウォーキングイベントや産婦人科病棟情報を病気と健康の本の近くに掲示したり,改元に合わせた展示を複数個所で同時に行ったりしている。今年1月,当市出身の相澤晃選手がアンカーを務めた全国都道府県対抗男子駅伝福島県チームが初優勝した際も,大喜びで早速資料を展示した。
展示品を他から借りてガラスケースに飾ることも可能なため,いずれ企画内容に合わせて市立博物館所蔵品なども展示したいと考えている。
オープンして4か月経ち,多くの利用者はどこに置いてある本でも使いこなしている様子が見受けられる。管理する職員側にとっては広範囲をカバーしなくてはならず大変なのは事実であるが,実際に使う側である利用者のメリットに気付くたびに,これもひとつのやり方であったと改めて感じている。
●今後の活動
例えば趣味の活動で来館した人や,特に目的を持たずに来館した人が,ふと目に入った本に興味を持って手に取り借りてみた。あるいは図書館に来たら,思いがけずイベントが行われていて参加した。そういう,開館前に描いていたイメージと同じことが今,実際に目の前で展開されているのを見て,人と本,人と人が出会い,つながり,そしてまちなかに活気が生まれていくことを目指す市民交流センターの目標が,いっそう明確になった思いを抱いている。今後も,利用者とともに成長する図書館であり続けたい。
須賀川市中央図書館・岡崎朋子
Ref:
https://s-tette.jp/
https://s-tette.jp/library/index.html
https://s-tette.jp/about/Files/2019/05/2baf318a60910e314d905ea718f302ee.pdf
http://www.city.sukagawa.fukushima.jp/1863.htm