カレントアウェアネス-E
No.213 2012.04.12
E1282
2012年の図書館システム市場動向は?(米国)
米国のLibrary Journal誌によるニュースサイトThe Digital Shiftが,2012年3月29日付けで,米国の図書館システム市場の動向分析レポート(E1169参照)を掲載している。このレポートは,図書館システム等に関するLibrary Technology Guidesというサイトを運営する,ヴァンタービルト大学図書館のブリーディング(Marshall Breeding)氏が毎年4月頃に発表しており,統合図書館システム(ILS)を含めた図書館業務自動化に関する様々なシステムが対象となっている。2012年のレポートはクラウドベースの新しいタイプの製品の話題から始まっており,本稿ではこのテーマを中心に内容を紹介したい。
このようなクラウドベースの新製品はいわば現在多くの図書館で使用されているILSの後継に当たるものである。しかし,これらは,ローカルデータベースではなくグローバルなナレッジベースを基盤として紙資料と電子リソースの管理を行う等,ILSに限らずリンクリゾルバや電子情報資源管理システム(ERMS)を含めた様々な製品をも置き換える可能性があるという。ブリーディング氏は,このカテゴリの製品は旧来のILSとは本質的に異なるものであるとして“library services platform”と呼び表している。
レポートの記述によると,現在この市場に参入している各社の状況は以下のとおりである。世界最大の書誌ユーティリティであるOCLCが2010年に発表したWorldShare Management Services(旧Web-scale Management Services)(CA1721,E1250参照)は,2011年末時点で38館が運用中で,更に184館が導入予定である。2013年にはデラウェア大学図書館という大規模事例も登場する。ILSベンダの3強とされているEx Libris社が2009年から開発中のAlmaは,2012年半ばに一般向けリリースが予定されており,55機関と契約済みである。同じく3強の一角を占めるInnovative Interfaces社が2011年4月に発表したSierra Services Platformは,2012年内に最初のリリースが予定されており,700の図書館及び1616の機関と契約を結んでいる。電子リソース関連サービスからこの市場に飛び込んできたSerials Solutions社のIntotaは,2012年後半から段階的にリリースが始まり,2013年末には完成版が登場する予定である。また,オープンソースソフトウェアを開発中のKuali OLEプロジェクト(E1003参照)も進行中である。こうして正式なリリースが近づくなか,各ベンダは収益化に向けて全力を出し始めており競争が激しくなっていると分析されている。
これらのサービスに見られるような,システムをローカルで運用することからの離脱は全く新しい傾向というわけではないと指摘されている。2002年頃に多くのベンダからASP型の製品が登場し,このモデルが現在はSaaSと呼ばれて大きな流れの一つになっているという。library services platformは,この延長線上にあり,より現代的なクラウドコンピューティングという考え方に沿ったものであるということである。現在の状況は,10年程前にメインフレームによるシステムからクライアント・サーバ型システムへの移行が起こった頃の状況と類似しており,今回も時が進むにつれてlibrary services platformへの移行が進むであろうとされている。
今後数年間は,比率を高めるSaaS製品が,オープンソースソフトウェアを上回る導入を見せることで売上が増加し,図書館システムの市場全体が穏やかに成長していくという予測でレポートは締めくくられている。
(関西館図書館協力課・林豊)
Ref:
http://www.thedigitalshift.com/2012/03/ils/automation-marketplace-2012-agents-of-change/
http://www.thedigitalshift.com/2012/03/ils/automation-marketplace-2012-the-complete-survey-data/
CA1721
E1003
E1169
E1250