CA1721 – 動向レビュー:OCLCの最近の動向:OCLCのウェブ戦略とその展開 / 中元 誠

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カレントアウェアネス
No.304 2010年6月20日

 

CA1721

動向レビュー

 

OCLCの最近の動向:OCLCのウェブ戦略とその展開

 

 最近のOCLC年報(2007/2008年(1)および2008/2009年(2))において、WorldCatに収録されているレコードの急激な増加が報告されている。2007/2008年報では、1971年~2002年の30年余りの間の書誌レコードの件数が5,000万件であったことに対し、2002年~2008年のわずか7年間で5,000万件がWorldCatに搭載されたことが報告されている。また、2008/2009年報では、単年度で2億4,200万件のバッチロードが実行され、所蔵レコード件数は14億5,000万件に達したとされる。同年報には、当該年度の主なバッチロードの対象となった機関が一覧されているが、この中には、北米の主な研究図書館にとどまらず、米国議会図書館(LC)や主なドイツの州立図書館、中国国家図書館など各国の主要な図書館が散見される。2010年4月7日付けのOCLCのプレスリリース(3)によると、フランス国立図書館などのフランス国内の主要図書館とOCLCとの2009年の合意にもとづき、フランス語のレコードがバッチロードによりWorldCatに搭載されたとのことである。これらのバッチロードによるおびただしい数の書誌レコードの搭載を始めとした、OCLCのサービスの基盤であるWorldCatの近年の著しい成長は驚異的ですらある。2009年のWorldCat搭載書誌レコード数は、1億3,900万件におよび、言語は50言語以上とのことである。搭載書誌レコード数の1998年から2009年までの推移が2008/2009の年報に掲載されているが、1998年の3,900万件から2009年の1億3,900万件までの伸び率をみるとResearch Libraries Group(RLG)がOCLCに統合された2006年を境に急速な拡大が図られつつあることがみてとれる。2005年のWorldCat搭載件数が6,100万件であったのに対し2009年ではおよそ2倍以上の1億3,900万件とわずか4年で急速に拡大したことがわかる。この巨大なデータベースを有する世界最大の図書館共同体(Library Cooperative)であるOCLCは、今どこへ行こうとしているのだろうか。

 

Open WorldCat

 OCLCは、2004年、2005年に2つの調査レポートを発表した。2004年に出された“2003 OCLC Environmental Scan : Pattern Recognition”(E177参照)では、100人の情報専門家に対するインタビューと文献のレビューが行われ、主に以下の知見が示された(4)

  • 伝統的な手法(図書館目録やそれに基づく図書館レファレンス等)による情報へのアクセスの減少とインターネットによる情報入手の拡大
  • 伝統的な情報の集積物(図書や雑誌)へのアクセスの減少と、求める情報そのものへのアクセスの拡大
  • 新たなテクノロジー(つまりインターネット)による情報社会の変容
  • 情報のグローバル化

 さらに、2005年に出された“Perceptions of Libraries and Information Resources”(E422参照)では、6か国における情報利用者の調査にもとづき、主に以下の知見が報告された(5)

  • 回答者の84%が情報探索の最初に検索エンジンを利用する。
  • 情報探索の最初に図書館のウェブサイトを利用するのは1%にすぎない。
  • 90%が検索エンジンに満足している。
  • 人々は図書館を図書に関わるところだと考えている。
  • 大多数が図書館を確実・迅速に情報(とりわけデジタル情報)を得られるところだとは考えていない。

 こうした調査と並行して、2003年よりOpen WorldCatと呼ばれるプロジェクトが開始された(6)。このプロジェクトは、上で述べた調査結果を踏まえて、GoogleやYahoo!などの一般的な検索エンジンの検索対象としてWorldCatに搭載された目録レコードと所在情報を加えることにより、ウェブ環境下における図書館の視認性を向上させることを目的として開始された。このスキームでは、一般的な検索エンジンの検索結果として表示されたWorldCatのレコードは、ワンクリックで該当する資料を所蔵する直近の図書館サイトへと利用者を導く。公開する目録レコードを限定する形でいくつかのウェブサイトで試行がすすめられた。正式なOCLCによるプログラムとなった2005年には、Open WorldCatのサイトには5,960万のアクセスがあり、そこから170万アクセスが図書館のサイトへと導かれた。2008年には、1億3,450万アクセスのうち、890万アクセスが図書館のサイトへと導かれた。なお、同様の試行は、当時のRLGによってRedLightGreen(CA1503参照)というプロジェクト名で知られていたが、2006年のOCLCへの統合によって姿を消し、Open WorldCatが唯一のプログラムとなった。

 

WorldCat.org

 2006年8月、OCLCは、WorldCat.orgというウェブサイトを立ち上げた。このサイトに設けられた検索ボックスから利用者は、WorldCatに搭載されたレコードの全てについて検索、ダウンロードが可能となり、それにより、検索されたレコードに該当する情報資源を所蔵する直近の図書館を認識することが可能となった。このことは、視点をかえてみるとOCLCという巨大な図書館共同体が拠って立つWorldCatがウェブ環境に織り込まれる結果となり、文字どおり、グローバルな情報基盤の一翼をOCLCが、つまり図書館が新たな形で担うことを意味する。

 WorldCat.orgでは、さらに単なる目録レコードの提供にとどまらないサービスの展開をすすめた。2,500万件以上の著者レコードの公開(WorldCat Identities)につづき、横断検索サービスFirstSearchで提供されていた雑誌記事に関わる索引情報とフルテキストへのリンク情報などが段階的に拡充された。2008年の段階でこうしたフルテキストへのリンク情報をもったレコード数は5,800万件におよぶ。ウェブ環境下でのOCLCのコンテンツ戦略の展開をここから読み解くことも可能かもしれない。

 

書誌ユーティリティの整備と統合図書館システムの展開

 OCLCの創立者として知られるフレデリック・キルゴア(Frederic G. Kilgour)は、1965年にOCLCの設立に向けて、その達成すべき新たなサービスについて以下の項目を掲げていた(7)

  • 1. 迅速で網羅的な目録情報の検索
  • 2. LCからのオンラインによる機械可読目録(MARC)レコードの入手
  • 3. MEDLARSやCheminal Abstractsと同様の機械可読索引の検索
  • 4. 受入手続きにおける目録情報の提供
  • 5. シリアル処理と貸出・返却記録のためのリアルタイムコンピュータサービスの提供

 これらのサービスを実現するために1967年、OCLC(当時はOhio Computer Library Center)が設立された。キルゴアは1971年、コンピュータネットワークによるオンライン総合目録と分散目録システムをオハイオ州立大学に立ち上げ、1979年には、ネットワークによる相互貸借(ILL)システムを立ち上げた。この間、ネットワーク参加図書館は確実に数をふやし、その広がりは全米50州におよんだ。OCLCの当初の目的であった、コンピュータネットワークによる目録にかかる図書館運営経費の節減とそれを基盤としたILLシステムの構築は、新たな時代の図書館協力の形として実を結ぶこととなった。後に書誌ユーティリティとよばれる図書館ネットワークの構築は、1974年のRLGなど北米を中心にいくつか試みられることとなった。その後、1990年代の後半から2000年代の前半にかけて、いくつかのネットワークが、OCLCによる図書館協力の外延を広げる形でOCLCの提供するサービスに吸収され、さきに述べたように2006年のRLGの統合によって現在の形を見ることになる。北米における最大規模のネットワークの基盤であったRLG総合目録のWorldCatへの統合により、約780万レコードがWorldCatに追加された。

 書誌ユーティリティの整備と歩調をあわせるかのように整備がすすめられたのが統合図書館システム(Integrated Library System:ILS)である。特に1980年代からOPAC(Online Public Access Catalog)と呼ばれる図書館目録のオンラインによる提供は、その他の図書館業務、キルゴアがかかげた図書館運営経費の節減を図書館単位で進めるものとして脚光を浴びた。OPACは、ネットワーク整備の初期段階でのテルネットによる一般利用から、ウェブ環境下でのGUI(Graphical User Interface)へと進化をとげたことは、当然の成り行きであった。しかし、一方で、これもウェブ環境の進化がしからしめた結果であったが、図書館が利用者に提供するコンテンツそのものの電子化が劇的にすすめられた。ILSの言葉が意味する、統合型システムが対応しきれないコンテンツ環境が図書館システムの市場を混乱させている。こうした状況を端的に指し示すのが、2000年以降のILSベンダーとコンテンツベンダーのおびただしいまでの吸収・合併である。新たなコンテンツ環境に対応するためにILSに加えて近年、図書館市場に登場したサービスとして、OpenURL Link Resolver、Federated search tool、Digital archive、Institutional repository、Electronic Resource Management(ERM)、Next-generation portal and discovery toolsなどがある。

 

WorldCat Local、そしてWeb-scaleへ

 WorldCat Localは、2007年にワシントン大学図書館においてパイロットプロジェクトとして開始された(E643参照)。WorldCat Localでは、図書館が個々に提供していたOPACの検索窓にかわってWorldCatの検索窓をおき、検索結果をその利用者が所属する図書館から順番に直近の図書館の所蔵情報を提供する。検索結果からWorldCat上のILL申し込みまで一連の流れとして処理する、リンクリゾルバによって契約コンテンツのフルテキストに直接リンクするなどシームレスなサービスが提供される。これらの機能によってWorldCat Localの参加図書館は、OPACでの目録提供サービスまでの一連の業務負荷をWorldCatの環境下で軽減することが可能とされる。さらに、上でのべたように、WorldCatに搭載されるほとんどあらゆる種類のサービスがローカルな図書館サービスの環境下で提供されることになり、図書館は必要に応じてWorldCatサービスのポートフォリオを選択すればよいことになる。個々の図書館は、その図書館に特有の情報の管理(たとえば、ユニークなコレクションに関わる業務と図書館資料の貸出・返却管理に必要な情報など)に特化してワークフローを想定すればよくなり、サービスの省力化と効率化が一気に実現することになる。現在、北米の数十の図書館がこのパイロットプロジェクトに参加し、システムの実効性の検証がすすめられている。

 40年前にキルゴアが掲げた目標の実現にむけて、OCLCは2009年4月にWorldCat Localのコンセプトをクラウドコンピューティング環境下でさらにすすめた、Web-scaleによる図書館管理の考え方“Web-scale Management”を公表した(8)。Web-scale Managementでは、WorldCatによる検索サービスと関連する目録業務に加え、蔵書管理と関連する利用者情報の管理、印刷・電子媒体の収集管理、ライセンス管理、サービスのポートフォリオ管理、これら管理業務にかかるワークフロー管理、図書館経営上の管理情報の共同管理など図書館運営にかかわるほとんどの業務がWorldCatというネットワーク上(いいかえればクラウド上)の処理ということになる(9)。開発にあたるOCLCのアンドリュー・ペイス(Andrew K. Pace)によれば、2010年6月からのパイロット図書館として、すでにいくつかの米国の図書館が決まっているとのことである。また、パイロットと並行してLibrary Advisory Councilが組織され必要な助言が行われる運びとなっている(10)

 

 Open WorldCat、WorldCat.orgからはじまり、WorldCat Local、Web-scale Managementまで概観してきたが、1998年にOCLCのCEOに就任したジョーダン(Jay Jordan)は、OCLCによるグローバル戦略展開の必要性を強く訴えてきたことで知られる(11)。これまで見てきたようにジョーダンによるグローバル戦略の展開とは、ウェブ戦略の展開に他ならない。

 一方で、ジョーダンは、OCLCのガバナンスの改革をすすめた。それまでは、北米の図書館中心で構成されていたUsers Councilを北米以外の地域代表を加えたMembers Councilとし、Councilの規模を拡大した。現在では、Global Councilと世界をいくつかの地域にわけたRegional Councilの構成となっている。一連のOCLCによる戦略の展開が図書館共同体というガバナンスのもとですすめられていることは重要である。2008年11月に提案されたWorldCatのレコード利用に関わるガイドラインの改定案がおびただしい批判にさらされたことは記憶に新しい。これらの批判に対応して、現在、新たな提案が公開されているが、OCLCによってとられたこの間の一連の対応は、こうしたガバナンスのもとで理解される必要がある(12)

早稲田大学図書館:中元 誠(なかもと まこと)

 

(1) OCLC Annual Report 2007/2008. Dublin, Ohio, OCLC Online Computer Library Center, 2008, 56p.
http://www.oclc.org/news/publications/annualreports/2008/2008.pdf, (accessed 2010-04-20).

(2) OCLC Annual Report 2008/2009. Dublin, Ohio, OCLC Online Computer Library Center, 2009, 62p.
http://www.oclc.org/news/publications/annualreports/2009/2009.pdf, (accessed 2010-04-20).

(3) “French records further enrich WorldCat as global resource”. OCLC. 2010-04-07.
http://www.oclc.org/news/releases/2010/201020.htm, (accessed 2010-04-20).

(4) De Rosa, Cathy et al. 2003 OCLC Environmental Scan : Pattern Recognition. Dublin, Ohio, OCLC Online Computer Library Center, 2004, x, 150p.
http://www.oclc.org/reports/escan/toc.htm, (accessed 2010-04-20).

(5) De Rosa, Cathy et al. Perceptions of Libraries and Information Resources. Dublin, Ohio, OCLC Online Computer Library Center, 2005.
http://www.oclc.org/reports/pdfs/Percept_all.pdf, (accessed 2010-04-20).

(6) Nilges, Chip. The Online Computer Library Center’s Open WorldCat Program. Library Trends. 2006, 54(3), p. 430-447.

(7) Parker, Ralph H. et al. “Report to the committee of librarians of the Ohio College Association”. Collected Papers of Frederick G. Kilgour: OCLC Years. Becker, Patricia A. et al., eds. Dublin, Ohio, OCLC Online Computer Library Center, 1984, p. 1-7.

(8) “OCLC announces strategy to move library management services to Web scale”. OCLC. 2009-04-23.
http://www.oclc.org/news/releases/200927.htm, (accessed 2010-04-20).

(9) “Web-scale management services”. OCLC.
http://www.oclc.org/productworks/webscale.htm, (accessed 2010-05-15).

(10) Pace, Andrew K. Web scale for libraries : a sea change for the 21st century. NextSpace. 2009, (13), p. 12-13.
http://www.oclc.org/nextspace/013/labs.htm, (accessed 2010-04-20).

(11) Jordan, Jay. OCLC 1998-2008: Weaving libraries into the web. Journal of Library Administration. 2009, 49(7), p. 727-762.

(12) “WorldCat Rights and Responsibilities for the OCLC Cooperative-Draft for Community Review”. OCLC. 2010-04-08.
http://www.oclc.org/worldcat/catalog/policy/default.htm, (accessed 2010-05-15).

 

Ref:

Special Issue, OCLC 1998-2008 : Weaving libraries into web. Journal of Library Administration. 2009, 49(6), p. 559-667.

Special Issue, OCLC 1998-2008 : Weaving libraries into web: part two. Journal of Library Administration. 2009, 49(7), p. 669-775.

Pace, Andrew K. “Web-scale for libraries : a sea change for the 21st century”. vidego.multicastmedia.com.
http://vidego.multicastmedia.com/player.php?p=sn35foya, (accessed 2010-04-20).

 


中元誠. OCLCの最近の動向:OCLCのウェブ戦略とその展開. カレントアウェアネス. 2010, (304), CA1721, p. 21-23.
http://current.ndl.go.jp/ca1721