E1281 – 北米大学図書館における学術出版サービスの現状と課題,提言

カレントアウェアネス-E

No.214 2012.04.12

 

 E1281

北米大学図書館における学術出版サービスの現状と課題,提言

 

 近年,北米の大学図書館では自学の研究成果等を刊行する学術出版サービスが広まりつつある。SPARCがこのほど刊行した“Library Publishing Services: Strategies for Success”(2012年3月付)は,そのような学術出版サービスの現状と課題等についてまとめた調査報告書である。調査は,米国のパデュー大学,ジョージア工科大学,ユタ大学の3つの大学図書館が中心となって,2010年10月から2011年9月まで実施された。

 報告書では,まず,大学図書館の学術出版サービスの現状調査の結果が示されている。この現状調査には,北米研究図書館協会(ARL)や米国のリベラルアーツカレッジの図書館コンソーシアムOberlin Group等の加盟館144館が協力した(そのうち43館が学術出版サービスを実施していると回答)。主な調査結果は次のとおりである。

  • 144の回答館の約55%が,学術出版サービスの実施に関心がある/実施していると答えた。また,大規模な図書館ほど実施に関心がある/実施している傾向が認められた。
  • 学術出版サービス実施館43館の約4分の3が1~6タイトルのジャーナルを刊行しており,そのうち電子媒体でのみ刊行,かつ創刊3年未満と答えた館が大半であった。また,サービス実施館の約半数が,学術会議録,テクニカルペーパー,単行書を刊行していた。
  • 学術出版サービス実施館の約90%が学術出版サービス導入の理由を学術出版システムの変革への貢献としていた。
  • 学術出版サービス実施館のうち,長期計画を策定している館は15%であった。また,学術出版サービスの価値や有用性に対する評価を行っているのはわずか5分の1に留まっていた。

次に報告書では,調査実施主体のパデュー大学図書館等3館におけるサービスが紹介され,学術出版サービスの長期計画において検討すべきポイントが挙げられている。続いて,上述の現状調査やケーススタディを基に2011年5月に3大学で開催されたワークショップでの論点――図書館が学術出版サービスを実施する際の中心課題となる,「技術インフラ」「ポリシーや実施手順」「担当者のスキルや研修」「長期計画の策定」「協同と組織化」の5項目――がまとめられている。

 最後に報告書では,これらの現状調査や論点等を踏まえ,学術出版サービス導入に関する提言を示している。

●図書館による学術出版サービスのためのベストプラクティス構築に向けて

  • 学術出版サービスのインパクト指標を策定すること
  • 学術出版サービスの編集クオリティとパフォーマンスの基準を策定すること
  • サービスの持続と安定運営のために,持続可能性についてのベストプラクティスを推進すること
  • 予算獲得のため,サービス実施による投資回収の面での正当性を主張すること

●コミュニティベースの情報資源の協同創出に向けて

  • ベストプラクティスの順守等の促進のため,ポリシーやツール,テンプレートを共有できるリポジトリを構築すること
  • コスト抑制とシステムの安定性等のため,共同利用できる出版プラットフォームのためのソフトウェア開発等のサービス提供を行うこと
  • 学術出版サービスの財政基盤の強化等のため,サービスモデルや財源確保の方法について共有すること
  • 情報資源共有のため大学内外との協同を推進すること

●スキルや研修の公式化に向けて

  • 研修やコミュニティ形成の情報資源を提供するため,公式・非公式の研修機会を設けること
  • 学術出版サービスの果たす役割等を定義づけるため,図書館が学術出版サービスを実施することの意義を表明すること
  • 学術出版サービスに携わる専任のポジションを置くこと

 なお,報告書はPDF版とHTML版の2種類が存在し,HTML版では報告書へのコメントの付与・閲覧機能があるほか,現状調査や参考文献の詳細なデータが掲載されている。

(関西館図書館協力課・菊池信彦)

Ref:
http://docs.lib.purdue.edu/purduepress_ebooks/24/
http://docs.lib.purdue.edu/cgi/viewcontent.cgi?article=1023&context=purduepress_ebooks
http://wp.sparc.arl.org/lps/