CA979 – BBCCにおける電子図書館の研究:けいはんな学研都市フェスティバルより / 兼松芳之

カレントアウェアネス
No.184 1994.12.20


CA979

BBCCにおける電子図書館の研究
−けいはんな学研都市フェスティバルより−

1994年9月から1l月の間,関西文化学術研究都市で行われた「けいはんな学研都市フェスティバル'94」において,BBCC(新世代通信網実験協議会)が展示していた各種の研究成果のひとつに,「電子図書館の研究〜マルチメディア電子ファイリングシステム〜」というテーマのものがあった。

この展示を主催するBBCCは,1992年12月に官民167団体が参加して設立された団体で,100Mbps以上のデータ伝送速度を持つ広帯域ISDN (B-ISDN :現行のINS1500は約1.5Mbps)の利用研究・実験を行っており,カバーする分野はビジネスから教育,エンターテインメントまで非常に幅広い(CA949参照)。

今回行われている電子図書館の展示には,関西電力,東芝,日立製作所,NTT,富士通が参加している。内容は,主にB-ISDNを利用した画像の伝送や資料の全文検索に力点を置くものが多いが,中でもNTTと富士通の展示している実験は,電子図書館のひとつの姿を具体的に示すものとして興味深い。

この実験で中心となっているのは,Ariadne(Advanced Retriever for Information and Documents in the Network Environment,ネットワーク環境における情報と文献の利用のための高度検索システム)という名で呼ばれるものである。Ariadneは,長尾真(京都大学教授)を中心に1990年に設立された「電子図書館研究会」(以下研究会)との協力で作られている,電子図書館システムの一種のプロトタイプであり,研究会の提唱する電子図書館を具体化しようとするシステムである。書誌情報,目次,全文検索等の基本的機能はもちろん,ステーショナリ機能(メモ,しおり,辞書),変換機能(検索内容の翻訳,音声による読み上げ),高度検索機能 (意味内容検索)などが提供されている。これらの機能は単一で実現されているわけではなく,機械翻訳,意味内容検索,各種辞書検索,音声による読み上げ等の処理は個々にモジュール化され,分散して処理されており,将来的な拡張性は大きい。また,インターネットの利用を前提として,サーバ側はWWWを,クライアント側はMosaicをそれぞれ採用している。よって,利用者の側から見れば,以上の様々な機能が,Mosaicを通じて一つの画面に統合的に提供される形となる。さらに,ハイパーテキスト化された図書データは,これまでにないような読書形態を生み出すことも考えられる。

しかし,Ariadneとて完全ではない。実験はまだフェーズ1であり,様々な問題を抱えている。特にネックとなるのは,元になる資料データの少なさと通信回線の細さである。この2点は今回のデモンストレーションでも顕著に現れている。まず,現時点で実際に検索できるのは,研究会のメンバーの著書程度だという点である。実際に電子図書館として利用する場合は,さらに膨大な数のデータを検索することになり,機械の処理能力がもっと必要となるであろう。また,Ariadneの利点の一つである「インターネットを利用した世界の図書館との接続」の実験が,ほとんど体験できなかった。実際,国外のサーバに接続するのに,30分以上かかることはしばしばである。

Ariadneの持つこうした問題点は,技術的なものというよりは,むしろ,現行制度の問題点を端的に示していると言えよう。例えば,元となる資料データの少なさは,著作権の問題が未解決であることに由来している。今回の実験で公開使用できた資料が,研究会のメンバーのものに限られたという事実が,それを如実に示している。さらに国外へのアクセスに大変時間がかかるという結果。これは,学研都市から一度に多くのアクセスがあり,トラフィックが混んでしまったためである。学研都市内ではB-ISDNを用いながら,他所への接続に京都大学を経由していたため,途中の回線で交通渋滞を起こしてしまったのである。これも,国内を走る通信のバックボーンがきちんと整備されれば解決される問題である。

つまり,今回のデモンストレーションから読み取るべきことは,電子図書館に関する技術面はある程度のレベルに達しており,電子図書館の実現に必要なのはむしろ法制面と通信環境の整備だということであろう。

兼松芳之(かねまつよしゆき)

Ref: 原田勝ほか 電子図書館Ariadne 電子図書館研究会 富士通株式会社 1994