CA978 – メディア・センターはどこへ行く / 滑川憲一

カレントアウェアネス
No.184 1994.12.20


CA978

メディア・センターはどこへ行く−米国の場合−

アメリカ合衆国において,学校図書館は「スクール・ライブラリー・メディア・センター(以下,メディア・センター)」と呼ばれ,将来を担う世代の教育に重要な役割を果たす。メディア・センターの充実度と生徒の学業達成度との間に密接な相関関係があると指摘するいくつかのレポートはそれを裏づけるものである。そこで働く司書は特にメディア・スペシャリストと呼ばれる。司書としてメディア・センターの運営に携わるのみでなく,ビデオやマイクロリーダーなど多様な機器を使いこなし,実質的に教師の片腕となって授業の計画に関わるなど,幅広い活動を行うゆえの呼称である。

学校の教材センターとしてさまざまな情報機器を備えたメディア・センターは,最近のコンピュータや通信技術の進歩に積極的に対応しようとしている。メディア・スペシャリストたちもこうした動きを歓迎している。しかし,このような最新機器は高価であり,図書費を中心とした図書館経費を圧迫する恐れがある。

School Library Journal誌でメディア・センターの経費に関する調査を行ってきたノースカロライナ大学のミラーたちは,ハイテクの導入に積極的なメディア・センターを対象にした調査を実施した。調査者はそうしたメディア・センターをハイテク・メディア・センターと名づけ,貸出を自動化し,OPACを提供しているところと定義づけしている。1992年に行った調査から,この定義に合致するメディア・センターを取り出して,それ以外の非ハイテク・メディア・センターと比較した。対象館は205と少数であるが,調査者が意図したとおり,ハイテク・メディア・センターの特徴を認めることはできよう。

結果として,まず全体の平均では,ハイテク・メディア・センターはそれ以外の非ハイテク・メディア・センターと比べ,ハイテクに対する予算として三倍を当てていることが分かった。またメディア・スペシャリストの給料も総じて高いことが明らかとなった。情報機器への対応の点でみると,ハイテク・メディア・センターで児童生徒が利用できる電子メディアは多様化している。CATVを備え,CD-ROMやオンラインによってデータベースが利用可能であり,ネットワークに加入しているハイテク・メディア・センターは半数を超える。一方,非ハイテク・メディア・センターでは運営の自動化よりも,ケーブル送信やビデオ・ディスクによる情報配送を選択する傾向にある。その方が結局出費が低く抑えられるからである。

ところでハイテクの必要性は理解できるとして,にもかかわらず図書館資源である図書の重要性は言うまでもなく否定できない。図書は学習のための重要な情報源であるし,また,自発的な読書が読解力,語彙力,つづり能力などの涵養に役立つことは広く認識されている。さて,それではこのハイテク機器と図書の経費上の関係はどうであろうか。調査では,地域別に見た場合,ハイテク機器の導入に積極的なハイテク・メディア・センターの方がどの地域でも非ハイテク・メディア・センターより多く図書に対して出費している。児童生徒一人当たりで見た場合でも,一部の地域を除いてハイテク・メディア・センターの出費の方が多く,しかもその差は顕著である。この結果による限り,メディア・センターのハイテク化と図書の充実とは両立すべきもののようである。

しかしながらハイテク機器に対する経費が図書の経費を食い潰していることは明白な事実である。メディア・センターの蔵書は,本報告のもとになったl992年の調査によれば惨澹たるもの(devastating)であり,蔵書数の増加は振るわない。一例として地域別に見た場合,ノースイーストでは他のどの地域よりも図書に経費をかけているが,その額はAV及びコンピュータ資源に比べ年々減少している。また,南部では他の地域と比べ,AV資料のコレクションは最大だが,蔵書は最小である。メディア・センターはこうした状況下でジレンマに陥っている。

図書資料の充実とハイテクへの対応といった二つの課題に対処すべく読書担当者とコンピュータ担当者の双方をかかえるメディア・センターがある。一方,新たな傾向として,読み書き能力をより広くとらえ,映像からの情報を理解する能力をもそこに含めるべきであるとの議論もあり,映像メディアを導入し,積極的にメディア・リテラシー教育に力を入れるメディア・センターがある。これらは,経費を始めとする様々な制約にもかかわらず,より望ましい運営を目指すメディア・センターの努力する姿と言えようか。

調査ではハイテク・メディア・センター及びそのメディア・スペシャリストを追った。従来の図書館資源と図書館プログラムに新たなハイテクを融合させようと奮闘し,管理者,相談役,そして教師としてうまくバランスを取っていかざるを得ないメディア・スペシャリスト及びその活動の場であるハイテク・メディア・センターが注目に値するからである,と調査者は説明する。なるほどそれは今後の図書館が進むべき方向を考えさせるものでもある。

滑川憲一(なめかわけんいち)

Ref: Sch Libr J 39 (5) 30-33; 39 (10) 26-36; 39 (11) 32-35,1993; 40 (l) 24-28, 1994
Miller, M.L. et al. Inside high-tech school library media centers. Sch Lib J 40 (4) 24-29, 1994