CA949 – 「電子図書館」は「日本版情報スーパーハイウェイ」を走れるか / 春山明哲

カレントアウェアネス
No.179 1994.07.20


CA949

「電子図書館」は「日本版情報スーパーハイウェイ」を走れるか

日本経済新聞によれば,羽田首相(当時)は先頃,マルチメディア時代に対応した光ファイバー網の全国整備などの情報通信施策を進めるために「高度情報通信推進本部(仮称)」を内閣に設置するよう指示したとのことである。郵政省,通産省,科学技術庁等は総合経済対策のための平成5年度補正予算及び6年度予算で,あいついで情報通信施策を打ち出したが,同記事によれば,これら各省庁の施策を統一的に進め,日本版「情報スーパーハイウェイ」作り,新たな雇用の創出などを強力に進めるのが狙いという。一方,国立国会図書館(以下,NDL)では関西館構想調査の一環として「電子図書館研究プロジェクト」に取り組んでいるが(CA907),その中でこれら関係省庁との連携・協力を推進してきた。以下に,その概要を紹介する。

通産省では,第3次補正予算の情報化関係施策の中で17億5千万円を「モデル電子図書館事業」に充てることとした。この事業は図書館資料を電子化して蓄積し,高度な検索を行うなど 「電子図書館」の実用化に向けて実証実験を行うもので,同省の特別認可法人・情報処理振興事業協会(IPA)が実施主体となり,実験施設の建設,機器の整備,検索ソフトウェアの開発,資料の電子媒体への変換等を進めることになっている。IPAでは,学識経験者,関係団体,関係省庁等から成る「電子図書館システムに関する調査研究委員会」(委員長:鶴田真也国立国会図書館司書監・業務機械化室長)を4月に発足させ,事業内容の検討を開始した。総合目録ネットワークパイロットプロジェクト,電子図書館実証実験,高度検索機能の実現などが課題となっている。NDLでは業務機械化室にモデル電子図書館プロジェクト班を設けるなど,この事業の推進に全面的に協力することになった。

科学技術会議では,平成5年7月に政策委員会の下に「研究情報ネットワーク懇談会」を発足させ,わが国の研究情報ネットワークのあり方等に関する検討を開始した。懇談会は10月の「中間的取りまとめ」で研究領域,省庁,国の枠を越えて研究機関間を接続するネットワークを整備する必要性等について指摘した。これを受けて科学技術庁では6年度から科学技術振興調整費に「研究情報整備・省際ネットワーク推進制度」を創設,各省庁の協力の下に国の研究機関等を接続するネットワークの整備・運用,関連の調査研究,データベース化の促進等を図ることとした(3年で50億円)。懇談会は6月に報告書をまとめて科学技術会議に提出し,その中で「研究情報基盤関係省庁連絡会議」の設置を提案している。NDLは懇談会にオブザーバー参加してきたが,連絡会議が設置されれば構成メンバーとして参加する予定である。

郵政省の電気通信審議会は,5月31日「21世紀の知的社会への改革に向けて−情報通信基盤整備プログラム−」と題する答申を提出した。図書館に関係する部分としては,光ファイバー網関連の技術として「電子図書館」がマルチメディアデータベース検索のサービス例として挙げられたほか,整備目標の設定の中で,教育・研究分野の重要なアプリケーションの事例として「電子図書館」が登場している。答申は2000年を目標に全国の学校,図書館,病院,公民館,福祉施設等の公共機関への光ファイバー網を整備することとしている。

郵政省関連のプロジェクトとしては,BBCC (新世代通信網実験協議会)が関西文化学術研究都市を中心に広帯域デジタル通信網(「情報ハイウェー」)の利用実験や「電子図書館」の研究開発を推進している。NDLでは昨年来BBCCとの研究交流を行っており,今後は郵政省との連携も含めた協力関係の拡大が期待される。

わが国の情報通信基盤整備の施策は,アメリカのクリントン政権が推進する情報インフラ政策(CA924)に大きな刺激を受けつつ,目下ダイナミックに展開されている。関西館の実現を含め,21世紀に向けたNDLのサービスの発展を図るためには,国の関連施策との連携・協力を拡大する中で,「日本版情報スーパーハイウエイ」の上を走ることが可能な「電子図書館」機能の装備を明確な目標として掲げることが必要であろう。

春山明哲(はるやまめいてつ)

Ref: 1)日本経済新聞 1994.6.15
2)佐藤真輔 科学技術会議における研究情報ネットワークに関する検討状況について 情報管理 36(9) 765-777, 1993
3)電気通信審議会 21世紀の知的社会への改革に向けて−情報通信基盤整備プログラム− 平成6年5月