カレントアウェアネス
No.174 1994.02.20
CA924
クリントン政権下における情報インフラ政策
クリントン大統領は,昨年2月,報告書「米国の経済成長を促進するための技術:経済力強化の新方向(Technology for America's Economic Growth: a New Direction to Build Economic Strength)」を発表した。現政権下における科学技術振興策について述べたこの報告書は,高速大容量の通信ネットワークである「情報スーパーハイウェイ」を核とする全米情報インフラ(NII: National Information Infrastructure)の構築を,重要な政策の一つに位置付けている。
NII構築計画は,ブッシュ前政権下で始まったものであるが,当時上院議員であったゴア副大統領が提案した「1991年高性能コンピューティング法(High Performance Computing Act of 1991 : PHC法)」が成立したことにより,その中に定められている「米国研究・教育ネットワーク(National Research and Education Network : NREN)」の構築計画に弾みがついたところであった。NRENは,B-ISDNより高速のギガ・ビットクラスの伝送網により,米国の研究教育機関を相互に結ぼうというものである(CA857参照)。クリントン政権におけるNII 構築計画は,政府支援のもとに民間活力を生かして高速・高帯域の全国通信ネットワーク,即ち「情報スーパーハイウェイ」を構築することによって,科学技術面での米国の競争力を高めることを意図している。
「情報スーパーハイウェイ」の構築は具体的には,(l)情報インフラ技術支援プロジェクト,(2)教育機関等へのコンピュータ利用に関する援助,(3)一般市民への連邦政策情報の普及,そして,(4)HPC法に基づく計画(HPCC計画)の推進等により実現していくことになる。特にHPCC計画は「情報スーパーハイウェイ」の主要素であり,前述のNREN構築は,計画を構成するプログラムの一つとして重要な位置を占めている。NRENは,既存の連邦科学ネット(NSFnet :全米科学財団の管轄),エネルギー科学ネット(ESnet :エネルギー省の管轄),NASAのNSI及び国防省のTWnetをベースに構築の予定である。そして,このNREN網を活用することによって,図書館を始め,州,学校その他公共機関は,遠隔学習,文献検索等を行う際,重要な情報にリアルタイムでアクセスすることが可能になる。現政権下では,NRENの全国的な高速ネットワークと,自治体,学校,図書館等の公的機関のコンピュータとの接続については,NTIA(米国商務省電気通信情報局:同計画の所管官庁)を通じて補助する形で行われることが決定している。
NREN網の活用という形でNII構築計画に携わることになった図書館界でも,その対応の在り方をめぐって活発な論議が交わされている。7月14日には,ゴア副大統領や通信事業者・学識経験者等を招いて,NIIにおける電子データの提供問題を始め,関連する諸問題についての会議が米国議会図書館(LC)で開かれた。この会議では,ネットワーク下の情報提供における著作権保護の問題について特に活発な論議が交わされたとのことである。
この著作権保護問題については,本年9月にNTIA長官を長とするIITF (情報インストラクチュア・タクスフォース)が発表した報告書「NII:行動計画(NII:Agenda for Action)」でも,知的所有権保護の強化という政府の方針・目標の中で,電子的に伝送される作品の著作権等の保護強化という形で挙げられている。
クリントン政権下の情報政策において,図書館とも関係の深い知的所有権保護を含めたNII構築にむけての方針・目標の具体化は,これからのこととなろう。
廣田美穂(ひろたみほ)
Ref: 世界のテレコム・ニュース(266) (268) (278), 1993
クリントン政権の情報通信インフラ整備政策について 情報通信ジャーナル 32-35, 1993.5
Delrymple,Helen. Building the information superhighway: Library convenes conference on delivery of electronic data. LC Information Bulletin 1993.9.6
Delrymple, Helen. Gore, Billington host information conference. The Gazette 8-6 1993.8.13 他