CA886 – カナダの情報政策サミット / 亀田邦子

カレントアウェアネス
No.167 1993.07.20

 

CA886

カナダの情報政策サミット

ゴア副大統領が上院議員だった頃に手がけた法律に“High Performance Computing Act of 1991”がある。21世紀の高度情報化社会に向けて,情報インフラの整備を目的としたこの法律により,次世代の通信ネットの核となるNREN(全米研究教育ネットワーク)が構築されようとしている(CA857参照)。この隣人の動きに,カナダも無関心でいられる筈はない。米加自由貿易協定からNAFTA(北米自由貿易協定)調印へと,米国経済との一体感を深めつつも,独自の情報政策策定へと動き出した。今やカナダも,従来の資源立国から急速な技術革新をテコとして他の先進国同様,高度情報社会に移行しつつあることが伺える。

このような情況を背景として,1992年12月6−8日,情報関係の産・官・学の代表者がオタワに集まり,情報政策要件の検討を目的とした国内サミット(National Summit on Information Policy)を開いた。主催はカナダ図書館協会(CLA)とドキュメンテーション協会(ASTED)で,カナダ国立図書館(NLC)等が協賛した。討議は,・公平な情報アクセスの実現,・能力の開発,・情報の経済的利益を最大限に活用すること,・情報基盤の強化というテーマに沿って進んだ。

公平な情報アクセスの実現については,NLCのスコット館長が,予算やコストといった制約条件はあっても,まず政府情報への国民すべてのアクセスの保証こそが重要であること,その上で,個別分野の情報に係る政策を考える場合も,「公平な情報アクセス」が保証されなければならないと力説した。

情報化が社会のあらゆる分野で進展してきた今日,情報通信等の高度技術の活用が産業全体の転換・高度化を支える原動力となる。ゴア副大統領の情報ハイウェーを彷彿させる“電子ハイウェー”(electronic highway)によりカナダ全土を統合し,情報技術分野で労働者の能力を開発して情報の経済的利益を最大限に引き出すことが経済成長に貢献する―と,カナダの産業界は情報化時代の未来に期待する。従って,産業界は一致して,情報基盤を強化するために政府が先端技術関連部門の発展を促進する環境を作るべきだと考えている。

一方,ニュー・テクノロジーが個人情報の保護に及ぼす影響に関して,殆んどの人が懸念を表明し,政府がその利用について法的な措置を取るべきことを要求した。ビーティ・コミュニケーション相のスピーチのテーマは,このプライバシーの保護であった。大臣は,通信プライバシー保護庁の創設も発表し,この領域に政府が介入することの意味を,プライバシーと通信サービスの重要性に照らして説明した。

多岐に亘る観点から活発な議論が展開されたが,特に図書館人の興味をそそる議論の一つに,図書館の存在根拠が公衆の情報アクセスを保証することであるとすれば,もっと積極的にニュー・テクノロジーと図書館サービスの融合を図っていくべきだとする主張があった。

このサミットは,国の情報政策の要件を決定するには至らなかったが,初めて官・民の参加者の間に実り多い対話が生れた点で非常に有意義であった。いずれ,会議録の概要が刊行される予定であるが,それが更に議論を喚起し,このようなテーマの下に再び異なる部門の代表者が集う適当な方法が確立されることが望まれている。

亀田邦子(かめだくにこ)

Ref: Catta, Jean-Michel. National Summit on Information Policy: summary. Nat Libr News 25 (2) 1, 3-4, 1993