CA950 – マイクロ資料のデジタル化:イエール大学における試み / 屋敷奈巳

カレントアウェアネス
No.179 1994.07.20


CA950

マイクロ資料のデジタル化−イエール大学における試み−

イエール大学図書館は,報告書From Microfilm to Digital Imageryにおいて,Project Open Book(以下,POB)の原案を提示した。この計画は,オリジナルの紙からではなく,マイクロフィルムからデジタル画像に約1万冊の本を変換する試みである。

利用者の情報アクセスの要求が高まっている現在,多様な検索が可能で世界中からアクセスしうるデジタル画像が,マイクロフィルムにかわって注目されている。しかし,デジタル化技術は未成熟で,媒体の寿命も短く,多額の費用を要するという問題がある。POBでは,高度のアクセスを可能にすると同時に,デジタル画像の保存媒体としての適合性をさぐることが目指されている。以下,POBの準備段階終了報告に基づいて,その具体的過程を追うことにする。

準備段階は協力業者の選定作業を軸として進められた。イエールの公募に応じた約20社は、経営および組織の安定性と多様な画像資料の管理への関与の仕方,更に大規模プロジェクトのシステムインテグレーター(システムの企画から運用・保守まで行う企業)としての能力を示すことを求められ,2社に絞られた。次にイエールはこの2社に対して4項目を要求し,その内容で最終的な業者の選択を行うことにした。すなわち,1)POBに必要なハードウエア,ソフトウエア,スタッフ,サービスの構成の特定,2)実施計画の提示,3)各段階におけるイエールと業者の責任の明示,4)各段階および全プロジェクトを通じての費用の詳しい見積りの提示である。最終的に選定されたゼロックス社は,三段階の計画を提案し,これはイエールの原案と概ね一致するものであった。その内容を見ると,第一段階では,100のマイクロ文書をデジタル化し,画像化作業の流れを把握する。第二段階では,文書の本格的なデジタル化を開始するとともに,資料の多元的な索引化を行い,ネットワークでアクセスしうる記憶装置を設け,図書館内に複数の検索ステーションを配置する。画像情報へのネットワーク・アクセスの評価は,この段階で行われる。第三段階では,更にデジタル化を進め,キャンパス中に検索ステーションを配置する。なお,当初準備段階の計画に含まれていた,デジタル化資料の選定基準の作成と,次段階以降の資金集めが課題として残された。

ここで注目すべきなのは,協力業者を選定する際に,イエール側がイニシアチブを発揮し,各業者に詳細な予算の具体的な計画を提示させることによって,パートナーとしての適合性を判断したことである。今後,図書館でのデジタル化の動きは,出版社からの画像資料の入手も含めて拡大し,利用者がワークステーションで資料を読み,自在に加工することも可能になるだろう。しかし,デジタル化は,図書館サービスのより大きな変容の一部として捉えるべきである。POB責任者のコンウェイ (P. Conway)が述べているように,「出版社,図書館,利用者の関係は情報技術の進歩に直面して根本的に再定義されつつあり,この変容を管理することは図書館員の使命である」。

屋敷奈巳(やしきなみ)

Ref: Waters, Donald et al. The organizational phase of Project Open Book. Microform Rev 22(4) 152-159, 1993
Conway, Pau1. Digitizing Preservation. Libr J 119 (2) 42-45, 1994