CA1223 – 「デジタル資料のマイクロ化」と「マイクロ資料のデジタル化」 / 早川進

カレントアウェアネス
No.231 1998.11.20


CA1223

「デジタル資料のマイクロ化」と「マイクロ資料のデジタル化」

コーネル大学図書館のケニー(Anne R. Kenney)は,米国人文基金への最終報告書において,Digital to Microfilm Projectの報告ならびにイエール大学図書館のProject Open Bookとの比較研究を行った。

Digital to Microfilm Projectは,オリジナルの紙からデジタル画像を作成し,それをマイクロフィルム化する試み(scan first approach)である。1,270冊の本および付属情報をスキャンし,45,000のデジタル画像を作成した後,それを177リールのフィルムに記録した。目的は,保存規格を満たすCOM(Computer Output Microfilm)の作成に適当な高い解像度の二値化画像(スキャナにより白と黒の二値に分解して読み取り記録した画像)を試作,評価することである。

Project Open Bookは,マイクロフィルムからデジタル画像に本を変換する試み(film first approach)である。2,000冊を変換し,43,000画像を作成した(CA950参照)。

コーネル,イエールは互いのプロジェクトの重要性と相補的性質を認識しており,比較分析のために各自のプロジェクトにおける品質,コスト,生産についてのデータを収集,共有した。2つのプロジェクトによって分かったことは,デジタル技術を使った保存と高度なアクセスを達成する際に,scan first approachとfilm first approachのどちらを選択するかは,オリジナルの特質,組織の能力,適切なイメージングサービスとその製品の有用性によって変わってくる,ということである。

以下,film first approach,scan first approachの利点と欠点を簡単に紹介する。

film first approach

利点:1)保存のためのマイクロフィルムの規格がある,2)既存のフィルムを利用するときには,コストをかなり節約できる。

欠点:1)マイクロフィルム作成のコストを含めると,全体のコストはscan first approachより高い,2)デジタル画像の品質は必ずしもscan first approachほど良くない。

課題:1)古いフィルムを効果的にスキャンするための手段を,業者とともに開発すること,2)二値化スキャンの能力を高めること,3)二値化スキャンの代替手段となる多値化スキャンやカラースキャンのコストについてさらに調査すること。

scan first approach

利点:1)オリジナルの紙から直接,高品質のデジタル画像を作成できる,2)デジタル画像からマイクロフィルムを作成する際,品質の低下が見られない,3)オリジナルのデジタルファイルが読めなくなったとき,COMをスキャンすれば高品質のデジタル画像を再生産できる,4)全体のコストはfilm first approachより低い。

欠点:1)保存のためのスキャニングとCOM作成の規格がない。マイクロフィルムの規格をそのまま転用するのは無理である,2)大きいサイズの本や製本されたものを変換するには不便である,3)規格の不在に象徴されるように,体制の整備が遅れている。業者も慣れていない。

課題:1)デジタル画像とCOMの画質と耐久性に関する規格の開発,2)それらの規格に適合するCOMサービスを提供する業者を育成する。

ケニーの報告書で興味深いのは,コーネルプロジェクトの結論は,デジタル化した情報へのアクセスを保証するデジタルアーカイヴィングプログラムの開発,維持のコストの財政的基準を示している,と述べている点である。デジタル情報のまま10年間保存するコストは,COMを作成,保存するコストの1/6から,10倍という試算まである。もし,それがCOMにかかるコストより低いことが証明されれば,経済的にはデジタルアーカイヴィングプログラムを開発,実行する価値があると判断できるが,10倍かかるというのであれば,実行可能になるまでの期間は,COMがその代わりの役割を果たしうる,とケニーは記している。

デジタル技術は未成熟なので,現在は保存のためのマイクロフィルム,アクセスのためのデジタル画像,という考え方をとらざるを得ない。しかし,COMのコストがデジタルアーカイヴィングプログラムの財政的基準を表すという考え方は,従来の考え方から一歩踏み込んだものとして注目できる。

早川 進(はやかわすすむ)

Ref: Kenney, Anne R. Digital to microfilm conversion: a demonstration project 1994-1996. (last modified 1997.9.5) [http://www.library.cornell.edu/preservation/com/comfin.html] (last access 1998.9.24)