カレントアウェアネス
No.178 1994.06.20
CA944
情報スーパーハイウェイとアメリカ図書館界
米国では,情報スーパーハイウェイを核としたNII(全米情報インフラ)構築計画の推進にむけて,旗振り役の政府をはじめ,様々な方面での動きが引き続き活発である。
本年1月に政府は,現在議会で審議中の「1993年全国通信競争・情報インフラ法案(HR3636)」に対するコメントという形で「電気通信改正法案に関する政府白書(The Administration White Paper on Communications Act Reform)」を発表した。
この政府白書は,クリントン政権下におけるNII構築計画の実質的提唱者であるゴア副大統領および所管官庁の長であるブラウン商務長官の連名で発表されており,現在審議中の関係法案への原則的同意と部分的修正要望を示しつつ,NII構築計画への政府の積極的方針をあらわしたものといえる。
白書の中で政府は,2000年と期限を明確にした上で,全ての図書館,学校,病院・診療所などの公的機関についてNIIへの接続実施を目標に掲げている。さらにこの目標の実現を図るために,連邦通信委員会(FCC)に対して,図書館をはじめとしたこれら公的機関が高度電気通信を利用できるようにするための調査権限を付与する条項を盛り込むよう求めている。
この他にも政府は情報通信インフラ支援計画(TIIAP)の一環として,1994年度の商務省の予算の中で図書館などの公的機関での通信基盤整備プロジェクトに対する補助金“情報通信基盤補助金”(総額2,600万ドル)を新設し,資金面からのバックアップも開始して,構築計画推進にむけて強力なてこ入れを行っている。
その状況の中,あらゆる地域に存在し,情報ネットワークへのアクセスポイントにも,また情報源にもなる素地があるとして,図書館は,特に期待されている。
まず,NII構築強化の上で,すでに公立図書館同士で情報を共有し,ネットワーク運営の実績に富んだ図書館界の知識を役立てることが熱望されている。新設されたNII諮問委員会(委員27名)には,図書館界からもピッツバーグ大学図書館情報学部長のべアマン(Toni Carbo Bearman)が迎えられた。彼女は,全米抄録・索引サービス連盟(NFAIS)会長や全国図書館情報学委員会(NCLIS)事務局長などを歴任している人物である。ベアマンは,現在の情報スーパーハイウェイ構想の考え方には人よりも技術に集中する傾向があるとして,諮問委員会では,個々人が自分達の望んでいる情報をどのように得ることができるかの視点に重点を置いて話し合うつもりでいるとのことである。
図書館関係の人間からNII諮問委員会の委員が指名されたことについては,図書館界もおおむね歓迎の意を表している。
それと同時に,図書館の間でもネットワークの構築は着々と進められている。1993年2月の下院科学・宇宙・技術委員会の公聴会において報告されたところによると,例えばペンシルバニア州では,「図書館建設・サービス法(LSCA)」による連邦基金の助成を受けて,インターネットへの州内の全図書館からのアクセスを実現するために,インターネット未参加の100余りの図書館の同ネットワークへの接続計画を実施している。
米議会では前述の「1993年全国通信競争・情報インフラ法案」も含めた通信関係の3法案についての審議が行われている。これらの法案が原案に近い形で可決されると,NII構築に役立つ抜本的な通信規制緩和が行われることになり,NII構築計画の進展自体にもはずみがつくとみられている。それだけにこれらの法案の可決の成否は,構築計画に深く関わっている図書館界にも大きな影響を与えることになる。
わが国においてもここ数ヶ月の間に状況は刻々変化を遂げている。5月31日に発表された電気通信審議会(郵政省)の答申では,20l0年までに全家庭に光ファイバー網を敷設するとされている。また,先ごろ通産省が公表した公共部門の総合的な情報化計画(「高度情報化プログラム」)では,当然ながら図書館も情報化を推進すべき公共部門の中に含まれている。
日本での高度情報化にあたり,図書館も一翼を担う役割が求められている今,これからのわが国図書館界の方向を占うに際し,現在先行している米国の情勢について,注視している必要があろう。
廣田美穂(ひろたみほ)
Ref: 世界のテレコム・ニュース (286) (289), 1994
Libr J 119 (2) 16-17, 1994.2.1
Hearing Before The Subcommittee on Science of The Committee on Science, Space, And Technology House of Representatives (1993.2.2)
CA857, CA924