CA1639 – 研究文献レビュー:学術情報流通と大学図書館の学術情報サービス / 筑木一郎

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カレントアウェアネス
No.293 2007年9月20日

 

CA1639

研究文献レビュー

 

学術情報流通と大学図書館の学術情報サービス

 

 本稿の目的は,学術情報の流通・蓄積・発信に関する国内の研究文献をレビューし,大学図書館の学術情報サービスの現状と動向を把握することにある。取り上げる文献は最近3 年程度に発表された論考を中心とする。筆者が大学図書館に勤務することから,大学図書館の現場や実務に関連したケーススタディを中心に取り上げることになる。

 

1. 学術情報流通のメインストリーム:電子ジャーナル
1-1. 研究者の情報行動の変化と図書館の対応

 この10 年程の間に,論文を中心とする学術情報の流通のメインストリームは完全にインターネットを介したデジタル情報となった。その背景には,研究者の行動様式の変化がある。先行研究を探す段階から,論文を執筆する過程,研究成果を発表するところまで大半の情報はデジタルで作成され流通する,そのような研究のサイクルが多くの研究分野で一般的となっている。

 以上のような変化の中で,従来の冊子体の学術雑誌にかわり,研究論文をインターネットを通して提供する電子ジャーナルが,図書館が提供する学術情報サービスの中でも最も重要なものとなっている。そうした電子ジャーナルサービスの全体像を理解するには,土屋(1)と三根(2)の両文献が必読であろう。土屋(1)は,学術情報の量的増大とその商業化に伴うシリアルズ・クライシス,および社会全体の電子化・ネットワーク化を背景とした学術雑誌の電子ジャーナル化が複雑に絡み合う学術情報流通の展開を描き出している。三根(2)は,研究者の電子ジャーナル利用に関する調査研究文献をレビューし,その利便性によって電子ジャーナルが研究者の必須アイテムとなった姿を浮かび上がらせている。さらに,ヒーリー(3)は,社会全体の情報利用者がオンライン情報への選好を深めていることを示している。

 電子ジャーナルが定着するまでの出版モデルと大学図書館側の対応については,森岡(4),国立大学図書館協会(5),私立大学図書館協会(6)等がまとめている。

1-2. 契約交渉とコンソーシアム活動

 電子ジャーナルを提供する上で最大の課題は発行元の出版社や学協会,アグリゲータなどとの契約交渉である。加藤(7)(8)は,この図書館にとっての新たな課題,とりわけ電子ジャーナルに特有の契約形態であるパッケージ契約(ビッグディール)がもたらした成果とその問題(毎年続く値上がり,購読規模維持等)について詳しく解説している。複雑な価格体系については岩崎(9)が整理しており,冊子体を主体とする契約から電子ジャーナル主体の契約へと転換していることが確認できる。

 契約に絡んでクローズアップされているのが,圧倒的な力をもつ出版社に対して交渉力を高めようと結成されたコンソーシアムの活動である(細野(10))。日本では,国立大学図書館協会電子ジャーナル・タスクフォース等の活動が活発であり,こうしたコンソーシアム活動によって,特に小規模国立大学で利用できるタイトル数の増加をもたらし,全体の学術情報基盤を確保する効果を挙げていることが確認できる(国立大学図書館協会(5),伊藤(11),宇陀(12))。米国では,OhioLINK 等各コンソーシアムが電子ジャーナルにとどまらず様々な電子情報資源を共同購入・共同利用する主体として機能している(高木(13),渡邊(14))。

1-3. 学術情報へのナビゲーションをめぐる動き

 電子ジャーナルの提供方法としては,タイトルリストまたはOPAC からのナビゲーションが一般的である(小林ほか(15))が,近年注目されているものにOpenURL に準拠したリンク・リゾルバがある。メタデータをURL の形で受け渡すことによってWeb ofScience 等の書誌・引用DB から電子ジャーナルの論文本文へリンキングすることが可能になる(増田(16))。九州大学(片岡(17)(18))や札幌医科大学(今野(19)(20))の導入事例によれば,導入後の利用実績の伸びやナレッジベースによるメンテナンスの省力化が報告されており,今後の普及が有望視される。一方で,論文毎に付与された識別子DOI を活用したリンキング・システムCrossRef も,参加出版社の増加やサービス改良により引用文献リンキング・サービスを強化している(尾城(21),Brand(22))。

 さらには,学術情報専用の検索エンジンも登場してきている(遠藤(23),ヤチヨ(24))。Google Scholar 等はリンク・リゾルバにも対応しているため,圧倒的な知名度を誇るこうした存在を図書館がどう活かしてサービスを改良するかが求められている(片岡(25))。これにとどまらず,Google 等検索エンジン各社は図書館蔵書の大規模デジタル化にも乗り出している(鈴木(26),牧野ほか(27))。この数年,Google の戦略(村上(28))は図書館界を席巻し続けているが,この流れに図書館はどのように対応し,あるいはどのように連携するのか。慶應大学のGoogle Book Search 参加のように一部で模索が始まっているが,今後図書館界が否応なく考えていかなくてはならないテーマであろう。

1-4. 契約管理・評価・保存の課題

 雑誌契約管理の業務については,近年では慶応義塾大学(田邊ほか(29) ,山田(30)),九州大学(渡邊(31)),千葉大学(尾城ほか(32))の事例が報告されている。全学的な予算の確保に向けた努力とともに共通して語られるのは,既存の図書館システムや自作のツールで電子ジャーナルの契約情報を管理し続けるのは限界があるという認識であり,電子情報資源の特性に合わせた電子情報資源管理システム(ERMS)の導入が視野に入りつつある(伊藤(33),尾城(34))。

 契約のパフォーマンスを評価するのに不可欠な利用統計については国際的なイニシアチブCOUNTERによる標準化が進んでいる(シェパード(35),加藤(36))。また,大きな課題であるアーカイビングの問題については,Portico やLOCKSS,オランダ国立図書館のe-Depot といったプロジェクトが動きだしており,後藤(37)(38)(39)(40)が一連の論考で分析している。

1-5. 電子ジャーナル後のILL

 ビッグ・ディールによってILL ニーズがどのように変化したかについては,REFORM プロジェクトが詳しく実証調査している(米田ほか(41),酒井ほか(42),佐藤(43),Tutiya et al.(44))。そこからは電子ジャーナルの普及によりILL ニーズが外国語文献から日本語文献に,また日本語文献でもとりわけ看護・保健分野に大きくシフトしてきていることが理解できる。海外でも実態調査は頻繁に行われているが,減少したという報告がある一方で,逆にARL 調査のように増加したとの報告もあり,過渡的な状況にあると言える(加藤(45),ジャクソン(46))。ネットワークを活用したe-DDSも欧米から順次広まってきており,英米独等の状況が紹介されている(井上ほか(47),国立国会図書館編(48),松下(49))。

1-6. 日本における電子ジャーナル化事業

 日本で電子ジャーナルのプラットフォームを提供する事業を行っているのは,主に日本科学技術振興機構(JST)のJ-STAGE と,国立情報学研究所(NII)のNII-ELS(CiNii)である。このうち,J-STAGE については定期的に進捗状況が報告されている(和田ほか(50)(51),荒井(52))。J-STAGE はリンクセンターの機能を備え,引用文献リンクの強化,Google Scholar 等との連携といったナビゲーションの強化を図っている(久保田ほか(53)(54))。学会側からは日本化学会(林ほか(55)(56)(57))や日本細胞生物学会(中野(58))の報告がある。電子ジャーナル化は利用・引用に大きな影響を与えると予想されるが,始まってからの期間が短いこともありこれまでのところ影響は実証されていない(藤枝ほか(59))。

 日本からの学術情報発信を目指したSPARC/Japanの英文誌電子ジャーナル化事業の経緯と成果については国立情報学研究所(60)の報告が,またこの事業による電子ジャーナル・パッケージUniBio Press の誕生については永井(61)の報告がある。一方で,後述するリポジトリ事業も大学における紀要類の電子ジャーナル化を進めている。林(62)は,学協会の立場から電子ジャーナルの動向をまとめており,日本の学協会の情報発信力強化を目指した出版組織の統合等を提案している。

 

2. 大学からの学術情報発信へ:リポジトリ事業
2-1. オープンアクセスの思潮

 利便性の高い電子ジャーナルは急速に普及したが,外国雑誌そのものが,もともと高価な商品である上に,雑誌出版社の合併による寡占化の進行などが原因となり,年々価格が上昇していることから,大学(図書館)が講読予算を確保しきれなくなっている。こうした状況のもと,研究者の手に学術情報を取り戻そうと始まったのが,インターネットを使い学術情報を無料提供しようとするオープンアクセス(OA)の運動であった。様々な宣言から始まり,やがて各国政府や国際機関が関心を抱くまでに至った経緯,OA ジャーナルの発行と機関リポジトリの構築という2 つの戦略が採られてきていることについては数多くの文献が言及しているが,特に最新のものとしては時実(63)(64)や三根(65)が詳しい。

 PLoS やBioMed Central といった著名なOA ジャーナルについては,著者支払い型と呼ばれるビジネスモデルが長期的に維持可能かどうかという点を中心に議論が続いている(熊谷(66),芳鐘(67),高橋(68),向田(69))。一方で,大手出版社も2005 年頃から著者の追加投稿料によるOA オプションの選択肢を導入し始めている(リチャードソン(70))。オープンアクセス運動は出版社・学協会に出版モデルの再考を促す機会となっている(太田ほか(71))。

2-2. 初期段階のリポジトリ事業

 大学そして図書館にとって重要になるのは,機関リポジトリの構築である。機関リポジトリは,学内の研究成果を収集・保存・発信することで,各研究者の研究成果へのアクセスを高め,ショーケースとして研究成果のインパクトおよび大学のブランド力を高める。その際,図書館は学内と学外を結ぶ学術情報発信のハブとしての役割を担う。

 新しいアイデアである機関リポジトリは,世界的に注目を集め,数多くの論考が発表されている。特に,SPARC が果たした役割は大きく,詳細なハンドブック等を発行するなど,2002 年頃からその活動戦略の重心を機関リポジトリの推進に移している(Crow(72)(73))。マサチューセッツ工科大学のDSpace@MIT やカリフォルニア大学などの先駆的な事例は高木(74)や荘司(75),後藤(76) ,栗山(77)等が紹介している。また,英国ではサウサンプトン大学やグラスゴー大学のコンテンツ収集戦略も紹介されている(Mackie(78),Hey(79))。米国では,2005 年初頭時点で研究大学の40%が設置しており,残りの大半も検討中であるなど,徐々に定着し始めている(Lynch et al.(80))。

 日本では,国立情報学研究所(NII)が2005 年から次世代学術コンテンツ基盤共同構築事業(CSI 事業)による委託事業を展開することで,多くの大学図書館がリポジトリ運営を始める呼び水となった。2007 年7 月現在,国立大学を中心に約60 の大学図書館が機関リポジトリ事業に取り組んでいる(国立情報学研究所(81),逸村(82))。

 機関リポジトリの立ち上げ時には,システムの構築やメタデータ項目の仕様化,学内合意の形成,運用規則の整備といったことが中心的な課題となる。こうした事業の初期段階におけるポイントについては,2004 年の学術機関リポジトリ構築ソフトウェア実装実験プロジェクト報告書(国立情報学研究所(83))や千葉大学や北海道大学等,先行した大学の経験(国立大学図書館協会(84)(85),尾城ほか(86),郡司(87),内島(88),酒見ほか(89))が公開されることで,多くの機関に共有されている。

2-3. 継続的な成長に向けた課題と戦略

 一方で,先行した大学では事業を継続的に成長させる段階に移行している。この段階で重要になるのはなんといってもコンテンツの充実とナビゲーションの強化ということに尽きるであろう。コンテンツ収集戦略については,多くの大学が工夫を凝らし試行錯誤を続けている。

 メインターゲットとなる学術雑誌論文については,海外の主要な出版社がリポジトリ登録を許可していることを受けて一気に進むかとも思われたが,著者版への限定という戦略の前に苦戦を強いられている。その中で,北海道大学は発行後1 週間単位での「寄贈」の呼びかけという戦略を開拓し,高い収集パフォーマンスをあげている(Suzuki et al.(90),杉田(91))。

 早い段階からe-print archive を立ち上げた物理学コミュニティのように研究成果の公開・共有に親和性の高い学問分野もあり(松林ほか(92)),一部の人文科学研究者からも研究成果公開の意義を積極的に評価する声が挙がっている(高木(93))ものの,大多数の研究者が公開という面に関心を向けていないのが実情である(国立大学図書館協会ほか(94))。これは,学術情報が基本的には研究者コミュニティ間で流通し評価される性質を持つことから導かれる帰結といえるが,それゆえにリポジトリ事業を軌道に乗せるためには,アーカイブの機能だけでなく,研究者のインセンティブを掻き立てる仕掛けや,研究サイクルの中に位置づける仕組みが必要になるだろう。

 研究者にアピールするインセンティブとしては,オープンアクセスによる引用数の増大が挙げられる。この効果に対しては,実証されたとする研究と,まだ実証されたというには早いとする研究があり,議論が続いている(Harnad(95),宮入(96))。また,米ロチェスター大学での教員ニーズ調査(Foster et al.(97))によると,研究者は研究や教育の時間を割かれることなく研究成果を発信したいと望んでおり,また出来上がった研究成果というよりも他の研究者との研究作業の場を望んでいる。

 ポルトガルのミーニョ大学やオーストラリアのクイーンズランド工科大学のようにある程度の強制力を持たせる(Rodrigues(98))ということも考えられるが,多くの大学では現実的ではないだろう。ただ,英国での教員へのアンケート調査ではインセンティブとして研究費の配分などが挙げられており(Bates et al.(99)),何らかの制度化や仕組みが必要なこともまた事実である。

 一方で,英米では個々の大学での取り組みとともに,研究助成機関によって研究成果のOA 化の方針が鮮明に打ち出されていることが特徴的である。特に,世界最大級の研究助成機関である国立衛生研究所(NIH)が2004 年に打ち出したOA 方針は,議会を巻き込んで大きな議論を巻き起こしており,その成果や成り行きに注目が集まっている。(筑木(100),尾身ほか(101),時実(102),三根(103) ,尾身(104))。

 リポジトリ事業で必ず課題となる著作権の問題については,国内の学協会に対する著作権ポリシー調査(SCPJ)が進むことで,徐々に方針が蓄積されつつある(富田(105))。海外のSTM 系の大手出版社・学協会の著作権ポリシーはSHERPA/RoMEO により整理されている。また文芸作品等とは少し違った文脈をもつ学術情報の著作権に対して,基礎から考察し直そうとする論考も現れ始めている(時実(106),児玉(107))。実際の著作権処理については,米カーネギー大学の経験を中尾(108)が紹介している。国内の学協会の投稿規程については,藤田(109)(110)(111)(112)が一連の論考でその傾向を分析している。

2-4. リポジトリへのナビゲーション強化をめぐる動き

 OA 文献へのナビゲーションという課題も大きい。OAI-PMH に基づくメタデータの流通(尾城(113),杉田ほか(114))が一般化しているが,それだけではOA文献だけを検索するという目的でなければ使えない。研究者や学生に使われるためには,通常の文献入手経路,例えばPubMed やWeb of Science といった書誌・引用DB からOA 文献に行き着ける必要がある。J-STAGE における外部からのアクセスのうち70%がPubMed からであるという報告からも,その重要性は窺える(和田ほか(50))。そのためのひとつの方法として,リンク・リゾルバを通したナビゲーションを目指すAIRway プロジェクト(嶋田ほか(115),Sugita etal.(116))がある。その他にも,研究者業績DB との連携,電子出版システムとの連携,機関内統合検索機能といったように,多様な入り口からリポジトリ内コンテンツにシームレスに行き着くことができるようにする取組みが行われている(国立情報学研究所(117))。

 こうした事業を各大学が各自の資源とアイデアだけで賄うには限界がある。その意味で,事業主体のネットワーク化によって可能な範囲で情報交換や技術協力,人的支援を行うことは重要なことであり,日本のNII,英国JISC,オランダSURF といった機関が中心となり,ナショナルレベルでの協力体制を形成している(Swan et al.(118),Feijen et al.(119))。特に英国では,JISC はリポジトリに限らず,全英を網羅する電子的な学術情報基盤全般を戦略的に整備する政策を推進している(呑海(120)(121)(122))。日本では,緩やかな連携組織デジタルリポジトリ連合(Digital RepositoryFederation:DRF)(123)が情報共有の場として機能している。

2-5. 大学内におけるリポジトリ事業の意味

 一方で,紀要や科研費報告書,会議録,学位論文,講義資料,研究データといった学内生産物も大学の重要な知的財産であり,機関リポジトリのターゲットとなる。こうしたコンテンツの多くは,いわゆる灰色文献として広くは流通してこなかった種類の学術情報であり,大学という組織だからこそ発信できるユニークなコンテンツといえよう。

 こうしたコンテンツの収集には,地道な成果の洗い出しと組織立てた呼びかけが重要となる(阿蘓品(124),上田ほか(125),尾崎ほか(126),橋(127))。紀要等の電子化は,特に電子ジャーナル化の遅れた国内の人文・社会科学分野や看護・保健分野などにとって意義が大きい。また,千葉大学のようにサイエンスデータなど研究データの収集に力を入れるところも出てきている(鈴木(128))。

 学位論文については,教育研究成果の最たるものとして,制度化も含めて対応するところが多い。北海道大学はアンケートと組み合わせることで,学内広報・ブランディングと研究者の意識調査,コンテンツの収集の一石三鳥の効果を挙げている(北海道大学(129))。英国では,JISC を中心に全英的な電子学位論文プロジェクトを展開している(筑木(130))。

 このような積極的なコンテンツ収集は,時に思わぬ研究者のニーズを掘り起こし,時に図書館活動がどのように見られているかを実感する場ともなる。その過程で,大学という組織の中で図書館に期待される役割,果たしていくことのできる機能を再考する機会ともなる。こうした中から,例えば電子出版システムを用いた学内出版物の出版過程からの支援や,研究者業績DB への入力支援を通してスムーズにリポジトリへもコンテンツが流れてくるような仕組みを作るというようなアイデアが出てくるのであろう。

 その意味で,リポジトリ事業は,OA 的文脈とは別に,大学図書館と研究者組織とのコミュニケーション活動ともいえ,また,学内における図書館の位置を再構築する事業でもあるともいえるのではないだろうか。

 

3. 学術情報のハブとしての大学図書館を目指して

 学術情報サービスとして電子ジャーナルとリポジトリ事業を中心に取り上げてきた。この2 つはいわば裏表の関係にあるともいえる。学術情報を学外から学内にサービスするものと,学内から学外に発信するものであり,今後はこのような大学図書館の位置を強みとして生かしたサービスの構築が重要だろう。

 大学図書館は,研究者・学生の行動様式,ニーズに寄り添いながら,先行研究の調査から研究成果の発信まで,研究活動のライフサイクル全体を支援する。伝統的な図書館活動に加え,電子的な学術情報の流通に積極的に関わることによって,大学図書館は研究活動のサイクルの中に不可欠のものとして,そして大学内においても不可欠な組織として位置付けを得ることができるのではないだろうか。

 最後に,ここまでで取り上げることのできなかった学術情報全般に関わる話題について2-3 点触れて終わりとしたい。

 第一に,研究活動の倫理的な側面について。本レビューでは,学術情報の流通の側面に注目してきた。学術情報の流通のあり方はめまぐるしく変化しているが,一方でその質を担保するピアレビューの制度には揺るぎがないだろう。しかし,その制度の限界を突いて時に捏造や盗作の問題が持ち上がることもある。図書館にできることは少ないが,学術雑誌,電子ジャーナルにおける論文の撤回や訂正について知り,リテラシー支援等に活用することはできるだろう(石黒(131),村上(132),岡田(133)(134))。また,学生のレポート作成時の剽窃問題についても,英米の大学(図書館)で始まっている取組みを参考にすることができる(浅見(135))。

 第二に,学術情報サービスの効果的な提供について。電子的な学術情報サービスはウェブを通して提供される。その意味で,その入り口となる図書館ウェブサイトの構築時には,図書館のもつ電子リソースへ十分ナビゲートできるかが鍵となる。片岡(136)は,CMS(今野(137),上田(138),上田ほか(139)),RSS(田邊(140),林ほか(141)),ポータル機能(米澤(142),天野ほか(143),甲斐ほか(144)),シングル・サインオン機能(田邊(145)),統合検索機能(今野(19)(20),吉田(146))といった最新の情報技術を導入して,図書館が提供する電子リソースへと総合的にナビゲーションできるようなプラットフォームへとリデザインすることを提案している。また,機能強化のみならず,使いやすさや分かりやすさを追求する必要もある(佐藤ほか(147),岡本(148))。

 第三に,学術情報の裾野の広がりについて。学術情報は基本的には研究者間でやりとりされる性格をもつ(倉田(149))が,その範囲にとどまるものでもない。日本のように高度に教育が普及し知識を基盤にした経済を確立しようとしている社会では,研究者のコミュニティ外にも学術情報に対するニーズは大きい。図書館界の外から積極的に発言を続けるACADEMIC RESOURCE GUIDE の岡本(150) が指摘するように,時代はユーザー参加型の学術情報流通へとシフトしていく可能性もある。そう捉えるならば,大学図書館が主体となり,学術情報のメタデータあるいはコンテンツ自体を開放する事業を展開することが持つ社会的意義は大きい。

 三根(65)が指摘するように,学術情報流通はすでに研究者,大学,出版社,学協会,アグリゲータ,代理店,研究助成機関,国といった利害関係者が絡まりあった一種の社会制度となっている。それぞれがそれぞれの立場で学術研究の振興に寄与している。大学図書館はその中で生産と受容の場に最も近いところに位置している。そのアドヴァンテージを活かし,研究者や学生にとって,大学にとって,あるいは公共的な意味において,どのように学術情報流通を豊かにしていくことができるだろうか。

京都大学附属図書館:筑木一郎(つづき いちろう)

 

(1) 土屋俊. 学術情報流通の最新の動向:学術雑誌価格と電子ジャーナルの悩ましい将来. 現代の図書館. 2004, 42(1), p.3-30. 入手先, 千葉大学学術成果リポジトリCURATOR, http://mitizane.ll.chiba-u.jp/meta-bin/mt-pdetail.cgi?cd=00020285 , (参照 2007-07-20).

(2) 三根慎二. 研究者の電子ジャーナル利用:1990年代半ばからの動向. Library and Information Science. 2004, (51), p.17-39.http://www.slis.keio.ac.jp/~mine/publication/LIS51.pdf , (参照 2007-08-23).

(3) ヒーリー, レイ・ワトソン. 進化するコンテンツ利用者−新しいタイプの利用者の役に立つために図書館はどのように変化すべきか. 情報管理. 2004, 47(9), p.579-592. http://joi.jlc.jst.go.jp/JST.JSTAGE/johokanri/47.579 , (参照 2007-07-20).

(4) 森岡倫子. 電子ジャーナル黎明期の変遷:1998 年から2002年までの定点観測. Library and information science. 2005, (53), p.19-36.

(5) 国立大学図書館協議会電子ジャーナル・タスクフォース. 国立大学図書館協議会電子ジャーナル・タスクフォース活動報告. 2004. http://wwwsoc.nii.ac.jp/anul/j/projects/ej/katsudo_report.pdf ,(参照 2007-07-20).

(6) [私立大学図書館協会東地区部会]逐次刊行物研究分科会. “電子ジャーナル入門”. 逐次刊行物研究分科会報告. 2006, (59), 89p. http://www.jaspul.org/e-kenkyu/chikukan/report/59/59.pdf , (参照 2007-07-20).

(7) 加藤信哉. 総論:電子ジャーナルの現状. 情報の科学と技術. 2005,55(6), p.242-247. http://ci.nii.ac.jp/naid/10016618221/ , (参照 2007-07-20).

(8) 加藤信哉. 電子ジャーナルのビッグディールが大学図書館へ及ぼす経済的影響について. カレントアウェアネス. 2006, (287), CA1586. http://www.dap.ndl.go.jp/ca/modules/ca/item.php?itemid=1018 ,(参照 2007-07-20).

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(10) 細野公男. 図書館コンソーシアムの現状とその課題. 情報の科学と技術. 2005, 55(3), p.108-113. http://ci.nii.ac.jp/naid/10016618040/ , (参照 2007-07-20).

(11) 伊藤義人. 電子ジャーナルコンソーシアム形成と今後の問題点について:国立大学図書館協会電子ジャーナルタスクフォースの活動.( アジア諸国における情報サービスの利用, 4). 情報管理. 2005, 47(12), p.786-795. http://joi.jlc.jst.go.jp/JST.JSTAGE/johokanri/47.786 ,(参照 2007-07-20).

(12) 宇陀則彦. “電子ジャーナル・コンソーシアムの現状”. 電子情報環境下における科学技術情報の蓄積・流通の在り方に関する調査研究(平成15 年度調査研究).( 図書館調査研究リポート, 2), 2004, p.45-57, http://www.dap.ndl.go.jp/ca/modules/report/item.php?itemid=13 ,(参照 2007-07-20).

(13) 高木和子. OhioLINK:最近の活動状況と今後の計画. 情報管理.2004, 47(3), p.204-211. http://joi.jlc.jst.go.jp/JST.JSTAGE/johokanri/47.204 ,(参照 2007-07-20).

(14) 渡邊由紀子. アメリカの大学図書館および公共図書館における電子情報サービスとその導入. 大学図書館研究. 2005, (73), p.57-68. 入手先, 九州大学学術情報リポジトリQIR, http://hdl.handle.net/2324/2927 ,(参照 2007-07-20).

(15) 小林晴子, 坪内政義. 電子ジャーナルへのアクセスルート: 愛知医科大学での調査. 医学図書館. 2005, 52(4), p.369-374.

(16) 増田豊. OpenURLとS・F・X. カレントアウェアネス. 2002, (274), CA1482. http://www.dap.ndl.go.jp/ca/modules/ca/item.php?itemid=913 ,(参照 2007-07-20).

(17) 片岡真. リンクリゾルバが変える学術ポータル : 九州大学附属図書館「きゅうとLinQ」の取り組み. 情報の科学と技術. 2006, 56(1), p.32-37. 入手先, 九州大学学術情報リポジトリQIR, http://hdl.handle.net/2324/2905 ,(参照 2007-07-20).

(18) 片岡真. リンクリゾルバに見るWeb 時代の図書館サービス:きゅうとLinQの評価と展望. 薬学図書館. 2006, 51(4), p.299-306. 入手先, 九州大学学術情報リポジトリQIR, http://hdl.handle.net/2324/3369 , (参照 2007-07-20).

(19) 今野穂. 札幌医科大学附属図書館における電子ジャーナルの管理と運用:学術ポータルシステムMetaLib/SFX によるOneStopShop の試み. 大学図書館問題研究会誌. 2004, (26), p.19-30.

(20) 今野穂. 電子コンテンツ管理における札幌医科大学附属図書館の取り組み:MetaLib/SFX 導入経験を中心に. 医学図書館. 2004, 51(3), p.254-260.

(21) 尾城孝一. CrossRefをめぐる動向. カレントアウェアネス. 2002, (274), CA1481. http://www.dap.ndl.go.jp/ca/modules/ca/item.php?itemid=912 ,(参照 2007-07-20).

(22) BRAND, Amy. CrossRef を介した学術文献リンキング. 高木和子訳. 情報管理. 2004, 47(6), p.410-418. http://joi.jlc.jst.go.jp/JST.JSTAGE/johokanri/47.410 ,(参照 2007-07-20).

(23) 遠藤昌克. 学術情報検索における、検索エンジンGoogle の進出. 情報管理. 2005, 47(10), p.681-687. http://joi.jlc.jst.go.jp/JST.JSTAGE/johokanri/47.681 ,(参照 2007-07-20).

(24) Jacso, Peter. 引用データによって強化された学術情報データベースをいかに評価するか. 高木和子, 加藤多恵子訳. 情報管理. 2006, 48(12), p.763-774. http://joi.jlc.jst.go.jp/JST.JSTAGE/johokanri/48.763 ,(参照 2007-07-20).

(25) 片岡真. Google Scholar,Windows Live Academic Search と図書館の役割. カレントアウェアネス. 2006, (289), CA1606. http://www.dap.ndl.go.jp/ca/modules/ca/item.php?itemid=1040 , (参照2007-07-20).

(26) 鈴木尊紘. マスデジタイゼーションプロジェクトと図書館:Google, OCA, MSN, EU デジタル図書館. 現代の図書館. 2006, 44(2), p.82-92.

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