CA1175 - 欧米の博物館・美術館ネットワークの展開 / 吉間仁子

カレントアウェアネス
No.222 1998.02.20


CA1175

欧米の博物館・美術館ネットワークの展開

文化庁による「文化財情報システム・美術情報システム」(1996年3月〜,平成9年度予算4億5,500万円)が稼働してから2年が経過した。これはG7電子博物館構想の活動の一環であり,個々の美術館や博物館がインターネット上に公開している文化財や美術品などの情報を,共通の索引で結び,データの共有・公開を図ろうとするものである。現在進行中の「共通索引システム」の試行を主とするこのシステムの現況はG7電子博物館構想の日本でのキー局である東京国立博物館のホームページ上で見ることができる。

美術研究・教育や商業分野への活用を目指した美術館や博物館のコンピュータ・ネットワークの形成は,米国では1960年代から,またヨーロッパでは1980年代末頃から始まり,ここ数年の情報伝送技術,画像処理技術の急速な進展と相まって活動や参加機関の広がりを見せている。

ヨーロッパ各国間においては,1989年1月から3年間EC委員会のRACE(Research and technology development in Advanced Communications technologies in Europe)計画に基づいて試行されたEMN(European Museums Network,8館),およびその成果を生かしたRAMA(Remote Access to Museum Archives,1992〜1995)がある(CA947参照)。RAMAも,初めは7〜8館という規模であったが,現在では次第に大きくなり,また,ネットワーク館を結んだ新たなプロジェクトが進行している。

CIMI(Computer Interchange of Museum Information)プロジェクトは,1988年MCN(The Museum Computer Network,1967年〜。コンピュータによる美術館・博物館情報の利用・提供等をはかる米国の専門家の非営利団体)が提唱し,CHIN(Canadian Heritage Information Network),RAMAや英国ミュージアムドキュメンテーション協会など北米およびヨーロッパのネットワークとの共同事業として1990年に発足した。

まずCIMIのコンソーシアムは,1990〜1992年の活動の成果として,1993年5月,美術館や博物館相互の情報交換やネットワーク上での美術館情報の検索を行うための規格(Standards Framework for the Computer Interchange of Museum Information)を作成・発表した。これはデータ記述のための標準としてのSGMLや,検索用プロトコルとしてのZ39.50などの標準を基にしたもので,互換プロトコル,システム間の互換フォーマット,及びコンテンツ・データの標準化等によって構成されている。

CIMIでは当初図書館にならってUNIMARC(ISO2709)の採用を計画していたが,不適切であるとして,見送られた。それは結局扱うデータの違いからくるもので,美術館・博物館では,共同目録作業やコピーカタロギングなどを考慮する必要がないと同時に,サイズの大きいテキストや画像データ,共通の参照ファイル,シソーラスなどといったデータを交換・共同利用するための標準的なフォーマットを必要としていたためである。

さらにCIMIは1994年1月からこの規格の有効性を実証すべくCHIO(Cultural Heritage Information Online)プロジェクトを開始した。主査は先の規格作成者のうちの一人,パーキンス(John Perkins)である。まず,第一段階(1994年10月〜1996年3月)で各参加機関は展示会図録や所蔵品目録,展示の際の壁面説明文のテキストデータ,また特に民族芸術関連の画像データを集めてデータベースを構築した。

第二段階(1995年7月〜1997年8月)では,第一段階で作成したデータベースを参加機関が相互に検索できるように,Z39.50を採用したシステムを構築し,相互運用実験を行った。CIMI参加機関は,自館に適したアトリビュート・セット(タイトル・フィールドなどの検索するフィールドの指定や前方一致など,検索の際に検索語に与える性質を定義したもの)を設計した上でクライアントとサーバの両方を実装し,単一のインタフェースを使用して,互いに他の複数のサイトにある多様なデータ形式を含むデータベースを検索できるようにした。現在CIMIホームページでこの試行に関するレポート等を見ることができる。また,メタデータ利用に関するプロジェクト(1997年10月〜1998年6月)発足の報告も逐次なされている。

このプロジェクトに参加している美術館・博物館が,所属機関の図書館・情報センター等と共同でプロジェクトを進めているケースもある。例えばCHIO参加機関の一つ,カリフォルニア大学バークレー校の場合, MIP(Museum Informatics Project )をバークレー校インフォメーションシステム&テクノロジーの一部門として展開中である。これは学内に80余りある博物館・アーカイブ・図書館の資料の共同利用を目指す試みで,このプロジェクトには図書館員もZ39.50の応用開発担当などとして参加している。

美術研究においても他の学術分野と同様に,研究文献と作品の現物そのものと結びつけていくことが基礎的・実証的な方法として有効である。非公式なアーカイブなどにある資料がごく一部の関係者のみに利用されていることが少なくない現状を考えあわせれば,上記のような活動によってこれまで以上の有機的な研究成果が期待される。この期待は東京大学総合博物館(ディジタルミュージアム)での試みにも,見られていたはずである。

現在ネットワークの構築はかつてのようなメインフレームから分散化・オープン化へと大転換を遂げており,冒頭で述べた「文化財情報システム・美術情報システム」もその分散処理によるシステムである。こうした動きは書誌情報の間でも進んでいくだろう。こうした中で形成されていく文化財・美術情報と従来の図書館資料とはどう結びついていくことになるのか。極端な話,このままネットワーク化や資料の電子化が進み,普段ネットワーク上で望みの作品や資料が見られるようになると,我々の職場もそのうち等しく「ホンモノを見に行くだけの場所」になる可能性が高く,気になるところである。

吉間 仁子(よしまさとこ)

Ref: Stone, Susan. UC Berkeley's Museum Informatics Project and the computer interchange of museum information. DLA Bull 15 (2) 9-11, 1995
高見沢明雄. 高度情報通信環境の中の博物館・美術館 文化庁月報(332)6-9,1995
以下は関連サイトの一部である。
文化財情報システムフォーラム[http://www.tnm.go.jp/bnca/](last access 1997.7.17)
RAMA[http://www.analysys.co.uk/race/p17/present/rama.htm](last access 1997.10.16)
CIMI[http://www.cimi.org/][http://www.cimi.org/old_site/CIMI/index.html](旧版)(last access 1997.3.7)
CHIO[http://cypress.dev.oclc.org:12345/CHIO](last access 1997.6.19)
MCN[http://world.std.com/~mcn/](last access 1997.6.25)
Museum and cultural heritage information standards resource guide [http://www.cidoc.icom.org/stand2.htm](last access 1997.10.23)
University of California, Berkeley; Museum Informatics Project [http://www.mip.berkeley.edu/](last access 1997.4.18)