CA972 – E3目録:21世紀の目録に関する議論 / 和中幹雄

カレントアウェアネス
No.183 1994.11.20


CA972

E3目録−21世紀の目録に関する議論−

1989年に全米図書館振興財団(CLR)は,図書館界で利用される各種の書誌サービスの改善計画(サービスの向上と費用の低減計画)を調査するために「書誌サービス研究委員会」 (BSSC)を設けた。この委員会の当初の任務は米国議会図書館(LC)の全国協同目録作成計画 (NCCP)の評価を行うことにあった。NCCPとは,MARC作成をLCの職員だけではなく,全国の図書館のカタロガーも協力して作成するシステムである(CA523,CA965参照)。このプロジェクトは,当時LCが国際図書館連盟(IFLA)に対して国際標準書誌記述(ISBD)の簡略化を提唱したように,MARC提供のタイムラグの解消とそのためのデータ簡略化がその根底にあった。しかし,オンライン利用者用閲覧目録 (OPAC)がインターネット等を通じて国内外に普及するようになり,状況は大きく変わりつつあるようである。

BSSCによるNCCPの評価がどのようなものであったか筆者は未見であるが,マンデル (Carol Mandel)を委員長とするBSSCにおける最近の議論は,既存の枠組における業務合理化という観点から脱却し,将来の目録のあるべき姿,それを実現するための条件の探求の方向に移ってきている。以下にその議論の概略を紹介したい。

BSSCのメンバーは次のような問いを発する。

「カード目録からオンライン目録に移行し,ネットワーク環境のもとで情報検索が盛んになってきたにもかかわらず,図書館の目録作成の慣行は事実上何故不変のままでいるのか?」

「専門的な利用者が質の高い目録データを要求している時に,何故図書館は目録作業の費用を削減しデータの簡略化を求めているのか?」

このような問いに答え解決策を見いだすためには,旧来の目録および目録作業についての考え方(コンセプト)自体を再構成ないし再構築する必要がある。そのために,ヒルドレス(Charles Hildreth)が提唱した「E3目録」という考え方が議論の素材とされる。

E3とは「Enhanced catalog」「Expanded catalog」「Extended catalog」の頭文字を採った名称である。

「Enhanced」は質の向上ないしインターフェイスの改善を意味する。キーワード検索,ブール演算検索といった従来の情報検索技術に加えて,自然言語による質問,最適検索,ランクづけした出力方式,検索結果が妥当かどうかのフィードバック技術,より充実した主題情報の提供,シソーラス,典拠・辞書ツールの検索過程への組み込み等,ヒルドレスが「ブール演算以後」と呼ぶ検索技術を駆使したOPACで,それによって大幅なインターフェイスの改善がなされる。

「Expanded」とは,収録データの拡充ないし機能の拡充を意味する。伝統的な目録に加えて,記事索引,目次情報を提供する。しかもそれらは文献提供システムと連結したものである。

「Extended」とは,検索対象目録の拡張を意味する。目録は世界各国の図書館の所蔵資料へのアクセスのためのゲートウェイとならなければならない。

書誌データベースにとどまらず,図書館が所蔵する一次文献自体も電子化される電子図書館構想が我が国でも現われてきている。それを実現するためには,技術的な問題よりは,著作権処理や料金の負担といった社会的問題の解決がより困難であるが,徐々に電子化された資料の比重は確実に増大していくであろう。一方,電子化されないままで残る伝統的な図書館資料も併存していくであろう。目録は,これら両者の資料へ辿り着くための検索手段であるとし,それをひとつのメタファーとして表現するならば,仮想図書館(virtual library)と伝統的な物理的図書館両者の「窓」の役割を果たすものと言うことが出来る。このような「窓」として目録を機能させるためには,目録作成に関する考え方を変えていく必要がある。

例えば,「コピーカタロギング」のプロセスは,多くの図書館でいまだに個々の目録レコードの精査を行う「オリジナルカタロギング」の過程を模して行われているが,それは,目録レコードやデータベースを収集し,それらに所蔵データや利用関連情報を追加したりリンク付けを行う過程に移行しつつある。目録は言うに及ばず,索引,書誌等の外部作成データベースをより多く取り込んでいくことによって,コピーカタロギングは「チェックイン作業」に変質する。このようにして,目録レコードやデータベースの収集やレコード同士の関連付け,またそれらのデータを文献提供へ結び付けることが図書館の主たる役割となる。

「オリジナルカタロギング」も同様である。記述目録作業を標題紙のディジタル化によって簡素化し,アクセスポイントの付与は典拠データベースとのリンク付けに代替することが可能である。一次文献の電子化が進めば,著者や出版社からのデータの収集と関連づけこそが目録作業となるであろう。

以上のようなE3目録を実現するためには,今後さまざまな研究開発,実証実験等が必要なことは言うまでもないが,なによりも緊急の課題は専門的な図書館員の教育にある。というのは考え方(コンセプト)を変革し,新しい時代の図書館や目録の共通のヴィジョンを確立することこそが,新しいシステムを導入する最も確実な道であるからである。

和中幹雄(わなかみきお)

Ref: Mandel, Carol. Library catalogs in the 21st century. ARL (164) 2-5, 1992
Bibliographic Services Study Committee meets. CLR Reports 7 (2) 1-6, 1992
Think Tank on the Present and Future of the Online Catalog: proceedings. Reference and Adult Services Division,American Library Association, 1991. 147p