CA1485 – ISBDの新たな展開-ISBD(M)と(CR)- / 那須雅煕

カレントアウェアネス
No.275 2003.03.20

 

CA1485

 

ISBDの新たな展開−ISBD(M)と(CR)−

 

1.背景

 2002年6月,「国際標準書誌記述(単行書)(ISBD(M))」(以下,単行書(M)もしくは(M)と表記)が改訂されIFLANET上に電子版が掲載された(1)。続いて8月には,「逐次刊行物(S)」の改訂版である「逐次刊行物およびその他の継続資料(CR)」が冊子体で刊行され,電子版も2003年1月にIFLANET上に掲載された(2)

 ISBDは,国際図書館連盟(IFLA)によって制定された書誌レコードの記述部分を作成するための標準規則で,(M),(S)のほか,「非図書資料(NBM)」,「地図資料(CM)」,「楽譜(PM)」,「古典籍(A)」など種別ごとに制定されている。各ISBDを整合させるための枠組みを用意した「一般(G)」も存在する。各ISBD は,5〜10年ごとにISBD検討グループにより改訂され維持されてきた。

 電子資料については,当初は(NBM)で取扱われていたが,1988年に「コンピュータ・ファイル(CF)」として独立した。しかし1990年代に入ると,目録環境が一変する。電子資料の激増,書誌情報のグローバル化,ネットワーク化,書誌的記録の共同利用が進み, ウェブOPACが普及した。そのため1997年に,(CF)は双方向性マルチメディアの出現,光学技術の進歩,インターネットおよびウェブ情報資源,電子資料の複製への対応を理由に名称も「電子資料(ER)」として改訂された(3)。ただし,ウェブサイト,データベース,電子ジャーナル等のように継続して刊行される性質(逐次性)の取扱いについては,課題として残されていた。

 一方IFLAの目録分科会は,新たな環境における目録のあり方について研究するため「書誌的記録の機能要件に関するIFLA研究グループ」を立上げ,検討を開始した。その結果を盛り込むため,ISBDの改訂はしばらく留保されてきた。同グループの報告書である『書誌的記録の機能要件(FRBR)』(4)CA1480参照)が1998年に刊行されると,各ISBDの検討グループが一斉に活動を再開した。目録分科会が,FRBRにおける全国書誌の基礎的レベルの要件とISBDの条項との一致を要請したためである。これまでISBDで必須とされていた多くのデータ要素は,選択的とされ目録作成機関の自由な判断に任されることになった。

 (M)の新版においても,示されたデータ要素がすべて記述される必要はない。そのデータ要素が基本的に不可欠の場合,もしくは出版物の同定のために必要な場合や書誌や目録の利用者にとって重要とみなされる場合に「必須」とされる。後者の場合それぞれの特別な条件によるが,その運用を容易にするため特別なデータ要素については「選択」(optional)の指示がされている。

 さらに,FRBRでは資料の物的形態よりも著作(Work)と表現形(Expression)を重視するとともに,伝統的な書誌情報を個別の情報ユニットに分割する方向が示されている(共著,文と挿絵等の個別記入)こと,またOPACやウェブ上の書誌情報の要件が提示されていることなど,ISBDに深い影響を与えずにはおかなかった(5)

 (S)の改訂については,この電子資料への対応とFRBRの適用という2つの問題が契機となっている。また国際標準逐次刊行物番号(ISSN)や『英米目録規則 第2版(AACR2)』も同じ状況におかれており,三者で相互に協調しながら同時並行的に改訂が進められてきた。

 

2.ISBD(S)の主要な改訂内容

 まず(S)の改訂内容について述べ,次いでそのような結論に至った検討過程を述べる(6) (7)

 近年はウェブサイト,データベースや加除式資料のように絶えず追補,更新され,その際分離されず全体として統合されるような更新資料(Integrating Resources)が増えている。更新の度に新規に書誌レコードを作成する必要のないものである。従来,図書館では資料を単行書と逐次刊行物に二分してきたが,更新資料には終期を予定せず継続的に刊行されるものと,終期を予定する資料もあり従来の二分法には納まりきらない。(CR)では,これを整理し,まず終期を予定する資料(Finite Resources)と終期を予定しない資料すなわち継続資料(Continuing Resources)に二分し,前者には従来の単行書と終期を予定する更新資料,後者には従来の逐次刊行物と終期を予定せず継続的に刊行される更新資料に分類する。その上で終期を予定する更新資料も継続資料とみなし,あらゆる種類の継続資料を取り扱うこととした。また,逐次的に刊行され終期の予定されるイベントのニュースレターや,逐次刊行物の復刻等もこの規則を適用することとした。そして従来の逐次刊行物に加えてタイトルを「逐次刊行物およびその他の継続資料」に変更している。

 また,近年の軽微な改題の増加に対応し,新しい書誌レコードの作成に関する指示も改訂された。ISBD(S),ISSN,AACR2で考え方が異なっており,これまでカタロガー泣かせであった改題であるが,新規作成を減らすことで標準化し,データの交換,質の維持,コスト削減に資することをねらったものである。

 

3.ISBD (CR)への検討過程と今後の課題

 (S)(1988年刊)を改訂する検討グループは1997年のIFLAコペンハーゲン大会の目録分科会の申合わせに基づき,1998年に設置された。委員長にI.ペアレント(カナダ国立図書館収集・書誌サービス部長),メンバーは主に目録分科会の委員であったが,他に逐次刊行物分科会の委員,ISSNネットワークとAACRの代表が加わった。少なくとも年に一回,IFLA大会とその後に会合をもつこととした。任務は,(1) FRBRの勧告およびISBD(ER)の反映,(2) 継続して刊行される電子出版物を考慮した逐次性の定義および理論の提示とその反映,(3) 書誌記述の初号優先および逐次刊行物の主たる情報源の考え方の再考,(4) データの識別に望まれる記述のエリアの考慮,(5) メタデータ標準の出現と遠隔電子資源へのアクセスの基礎レベルと記述の検討,(6) 最新例の用意,(7) 逐次刊行物の専門家の教示を考慮,(8) ISSNマニュアルとISSNネットワークが行っている電子出版物に対する実務を考慮することであった。

 1998年8月のIFLAアムステルダム大会では,キータイトル,大幅な改題と軽微な改題,電子データベースやウェブサイトについて審議した。11月にコペンハーゲンで会合を持ち,(S)制定の目的,本タイトルとキータイトルの合併,(S)の範囲が論議され,逐次刊行物に加除式資料やデータベースなどを含めることが決定された。大幅な改題と軽微な改題についての提案があったが,ISSNおよびAACR側との協議が必要とされた。2000年1月に米国のテキサス州サンアントニオで会合を持ち,あらゆる継続出版物を範囲に含めることが決定された。頭字も(CR)とし(SOCR;Serials and Other Continuing Resources)は採択されなかった。

 AACRは,「AACR改訂合同運営委員会(JSC)」が12章「逐次刊行物」の改訂の任にあたり(2002年9月に改訂版が刊行された。CA1480参照。),ISSNは「ISSNマニュアル作業部会」,国際センターと各国からのISSNセンター長会議で審議された。2000年11月に米国議会図書館(LC)に三者の代表が集まり調整した。この結果を検討グループに提出し,2001年春から,ドラフトをIFLANETに搭載し,世界各国の専門家たちからコメントをもらった。最終的にISBD(M)との一貫性を検証し,FRBRとの関係付けを行い,2002年6月17日,目録分科会および逐次刊行物分科会で承認された。

 他の目録規則の動きとしては,ドイツのRAK(Regeln fuer die alphabetische Katalogisierung)の維持管理を担当している「標準化委員会(Standardisierungsausschuss)」(注)が今年末までの予定で国際標準(MARC21,AACR2)との調整を進めており,また最近は常設の「オンライン資源専門家グループ」を立上げ,継続資料等のためのRAKの改訂に着手している。

 一方,書誌情報の共有化,ネットワーク化が進む中,逐次刊行物のタイトルの識別に関する標準化については,別途LCを中心にサブグループが設置され検討されてきた。国際標準逐次刊行物タイトル(ISST)が提唱され推進されている。ISSTは(S)およびISSNのキータイトル,AACR2の統一タイトルに代わる国際的な基準となるもので,データの国際交換や検索の際にISSN番号と並んで識別の手段となるものである。記録の安定性,効率性が保証されるだけでなく,ISSNレコードと国内レコードの統一も図られる。今回の改訂には,時期尚早ということで盛り込まれなかった。また,出版社および出版地をどう効率的に扱うか,版および版表示の検討,ISSTを改題の基準とするための最新号主義への復帰,(CR)の実際の適用において起こる状況や未来の技術的発展がもたらす影響をどのように取り込むかなどが将来の課題とされている。

 現在改訂中の各ISBDも出揃い,今後その中から資料に適切なISBDが適用されることになるが,多様なメディアやオンライン情報資源に対応するにあたっては,各ISBDの垣根を越えて相互に参照しながら適用していくことになる。さらに言えば,OPACや書誌情報ネットワーク環境の中でFRBRの考え方を追求していくと,図書館の枠組みを越えた文書館,美術館等のもつ資料の目録レコードとの相互運用性について考えざるを得なくなる。一つの国際ドキュメント記述(ISDD)というような考え方もあるが,将来ISBDはどのような方向に向かうのだろうか。

書誌部:那須 雅煕(なす まさき)

 

(注)ドイツの代表的な図書館,学術振興会,オーストリア,スイスの代表等で構成され,フランクフルトのドイツ国立図書館の標準化オフィスに事務局を置く。

(1) IFLA. ISBD(M): International Standard Bibliographic Description for Monographic Publications. 2002 Revision. (online), available from < http://www.ifla.org/VII/s13/pubs/isbd_m0602.pdf >, (accessed 2003-1-10).
(2) IFLA. ISBD(CR): International Standard Bibliographic Description for Serials and Other Continuing Resources. K.G.Saur, 2002, 112p. (online), available from < http://www.ifla.org/VII/s13/pubs/isbdcr-final.pdf >, (accessed 2003-2-17).
(3) Byrum, John D. “The birth and re-birth of the ISBDs”. 66th IFLA General Conference, Jerusalem, 2000-08. (online), available from < http://www.ifla.org/IV/ifla66/papers/118-164e.htm >, (accessed 2003-2-17).
(4) IFLA. Functional Requirements for Bibliographic Records : Final Report. K.G. Saur, 1998, 136p. (online), available from < http://www.ifla.org/VII/s13/frbr/frbr.pdf >, (accessed 2003-1-14).
(5) Le Boeuf, Patrick. “The impact of the FRBR model on the future revisions of the ISBDs”. 67th IFLA General Conference, Boston, 2001-08. (online), available from < http://www.ifla.org/IV/ifla67/papers/095-152ae.pdf >, (accessed 2003-2-17).
(6) Bunn, Paul V. “Bibliographic Standards for Serials : recent developments”. 68th IFLA General Conference, Glasgow, 2002-08. (online), available from < http://www.ifla.org/IV/ifla68/papers/151-162e.pdf >, (accessed 2003-2-17).
(7) Swanson, Edward. “Editing ISBD(CR) : approach, scope, definitions”. 68th IFLA General Conference, Glasgow, 2002-08. (online), available from < http://www.ifla.org/IV/ifla68/papers/148-162e.pdf >, (accessed 2003-2-17).

 


那須雅煕. ISBDの新たな展開−ISBD(M)と(CR)−. カレントアウェアネス. 2003, (275), p.4-7.
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