カレントアウェアネス
No.274 2002.12.20
CA1480
動向レビュー
AACR2改訂とFRBRをめぐって−目録法の最新動向−
1.『英米目録規則 第2版 2002年改訂版』の刊行
本年9月,『英米目録規則 第2版 2002年改訂版』が刊行された(1)。AACR2の略称で知られ,準国際標準とも言うべき英米目録規則第2版は1978年に刊行されて以来,1988年改訂版(Revision),1993年にはその修正事項(Amendments),1998年改訂版,1999年および2001年にはその修正事項が刊行されてきた。今回の改訂版は,1999年と2001年の修正事項を統合するとともに,AACR改訂合同運営委員会(Joint Steering Committee for Revision of Anglo-American Cataloguing Rules:JSC)(2)が2002年に改訂を採択した事項を反映している。
本改訂版において全面的な改訂が施された章は,「第3章:地図資料(Cartographic Materials)」,「第9章:電子資料(Electronic Resources)」,「第12章:継続資料(Continuing Resources)」および「索引(Index)」である。
第3章は,電子資料に関わる事項を中心とした全面改訂で,地図のメタデータ標準であるContent Standards for Digital Geospatial Metadataとの調整を図ったものである。
第9章のタイトルは,1998年改訂版では「コンピュータ・ファイル」であったが,2001年の修正事項において「電子資料」という名称に変更となり,それが今回の改訂版に採用された。この変更は,国際標準書誌記述(ISBD(ER))(3)に合わせた措置であり,旧来のパッケージ系資料に加えて,ネットワーク情報資源(リモートアクセス資料)も対象としたためである。日本目録規則(NCR)においても,2001年8月刊行の1987年版改訂2版において,同趣旨でこの名称が採用されている。
第12章は,旧来「逐次刊行物(Serials)」を対象としていたが,加除式資料(ルーズリーフ)のように常に更新されていく資料を「更新資料(Integrating Resources)」と定義し,さらに逐次刊行物と更新資料の両者を含めた上位概念の資料種別を「継続資料」と定義し,両者をこの章で扱うこととした。更新資料には,紙媒体の加除式資料(ルーズリーフ)とともに,ネットワーク情報資源の中の日々更新されてゆくウェブ・サイトやデータベースが含まれる。NCRについても,同趣旨で現在,改訂作業が進行中である(4)。
1980年代から1990年代にかけて,目録規則の時代の終焉が議論される一方で,各種形態の電子資料への対応のための改訂作業が着実に進められてきた。今回の改訂も,直接的にはオンライン・ジャーナルやウェブ・サイトやデータベース等のネットワーク情報資源に固有の課題を解決するための改訂であると言えるが,その検討過程において,ネットワーク情報資源のような新しい媒体のみならず,旧来の紙資料も含めた,目録が扱うすべての資料をどのように定義し区分すればよいかを,構造的・原理的に把握し直す必要性が認識されるようになった(5)。また,新しい資料区分を定義するにあたっては,他の国際標準であるISBDやISSNマニュアルとの調整(Harmonization)も精力的に行われてきた(6)。このような調整作業の中で,逐次刊行物におけるタイトルの変化に伴う措置(タイトルに変化があった場合,重要な変化と見なしてISSNの新規付与を行うか軽微な変化と見なしてISSNを継続するか等)について,軽微な変化と見なす範囲を広げることにより,新規レコード作成を減らす方向で改訂されることとなった。記述の基盤を初号に置くか最新号に置くかも活発に議論されたが,逐次刊行物は旧来どおり初号主義,ネットワーク情報資源等の更新資料は最新号主義を採用している。
以上のように第12章自体については,2002年改訂版として一つの結論を得ている(7)が,改訂のための検討は今回の改訂で終了したわけではなく,現在も進行中である。このことは,今回の改訂版がこれまでのような図書形態ではなく,更新が容易なルーズリーフ形式(更新資料)で刊行されていることにも如実に現れている。以下に現在進行中の検討課題を,IFLAの活動も含めてその概略を紹介する。
2.FRBRの出現
今回のAACR2改訂作業の出発点となったのは1997年である。この年には改訂の契機となる国際的な3つの成果があった。
第一は前述したISBD(ER)の刊行である。
第二は,目録のあり方についての勧告がIFLAの研究グループによって提示され,それが,この年以降のIFLAおよび欧米各国における目録改善や目録規則改訂に向けた作業指針の一つとなっている。その勧告とは,「書誌的記録の機能要件に関するIFLA研究グループ(IFLA Study Group on the Functional Requirements for Bibliographic Records)」による最終報告であり,翌年刊行されている(8)。
『書誌的記録の機能要件(Functional Requirements for Bibliographic Records:FRBR)』と題されたこの報告書は,目録の改善を行うための枠組みを構築するとともに,全国書誌レコードの基本レベルに関する勧告をまとめることに成功し,ISBDやAACR2を始めとする目録規則のその後の改訂作業に大きな影響を与えることとなったものである。
FRBRは,「実体関連分析(Entity-Relationship Analysis)」の手法を用い,利用者の観点から,「書誌的記録が果たす諸機能を,明確に定義された用語によって記述」し,目録の機能要件のモデル化を図ったものである。実体関連分析によるモデル化の手法自体は目新しいものではないが,利用者側の視点から目録を見直すことに徹したことが最大の特色であると言える。
目録の機能要件のモデル化を略述すると以下の通りである。
さまざまな利用者がさまざまな利用目的をもって目録を利用するが,その際の利用者行動(User’s Task)を4つの類型(実体の発見(Find),実体の識別(Identify),実体の選択(Select),実体の入手(Obtain))にモデル化し定義する。
次に,利用者が発見・識別・選択・入手しようとする関心の対象となる実体(Entity)を以下のように3つの類型にモデル化する。
- (1)知的・芸術的活動の所産としての実体
著者がその研究と情報の創造によって生み出した成果を意味し,著作(Work),表現形(Expression),実現形(Manifestation),個別資料(Item)に類別する。著作とは,「独立した知的・芸術的創造物」,表現形とは「著作の知的・芸術的実現」,すなわち「著作が実現される際に著作が採る文字・数字・記譜・音声・画像等の特定の知的・芸術的形態」と定義する。実現形とは,「著作の表現形を物理的に体現したもの」,個別資料とは,複数の物理的体現のうちの「単一の提示物」と定義する。 - (2)知的・芸術的所産に責任をもつ実体
著作活動を行っている個人や団体(著者,翻訳者等),物的生産・頒布に責任をもつ個人や団体(出版者等),それらの収集・保管に責任をもつ個人や団体(図書館等)があり,これらの実体は,創造,表現,製作,所有という行為において,それぞれ,著作,表現形,実現形,個別資料という実体に関連づけられる。 - (3)知的・芸術的所産の主題としての実体
各種の主題概念がそれに相当する。
次に上記の各実体がもつ属性(Attribute),例えば,著作の「タイトル」等が定義され,それらの属性が利用者行動にとってどのような価値をもつかを評価する。さらに,各実体間の関連(Relationship),例えば,原書と翻訳書との関連等を定義し,それらの関連が利用者行動にとってどのような価値をもつかを評価する。
最後に,上記の分析に基づいて,全国書誌の基本レベルを定義する。
以上がFRBRの概略である。
このFRBR研究グループ発足の契機となったのは,1990年にストックホルムで開催された書誌的記録に関するセミナー(9)における決議であったが,発足当時の問題意識には,目録作成経費の問題が色濃く存在していた。FRBRの草稿をまとめた一人であるティレット(Barbara B. Tillett)(10)氏は,このような研究が開始される契機となった社会的背景について,電子資料の激増や書誌的世界のグローバル化とともに,目録作成簡略化や書誌的記録の共同利用による経費節減を挙げている(11)。
1980年代のレーガン米国大統領やサッチャー英国首相の財政支出削減政策もあり,図書館員(カタロガー)の削減や目録データの簡略化(Simplification)が当時の大きなテーマであった。しかし,FRBR検討が行われた1990年から1997年の間に,インターネットとウェブOPACの出現により,目録環境が大きく変貌した。その結果,FRBR検討も,経営的観点からの目録簡略化だけではなく,利用者の観点からの目録の機能要件抽出と構造化へと大きく変貌を遂げることとなった。
3.AACRの原則と将来展開に関する国際会議
1997年の第三の成果は,10月にトロントで開催された「AACRの原則と将来展開に関する国際会議(International Conference on the Principles and Future Development of AACR)」である(12)。この国際会議において,現在進行中の検討課題の大半が提起されている。その内容は,(1)AACRの論理のモデル化,(2)AACR2と目録製作技術,(3)著作とは何か,(4)書誌的関連,(5)「内容」対「入れ物」,(6)AACR2の歴史と原理,(7)逐次性に関する問題点,(8)著作に対するアクセスポイント,(9)MARCを越えて,(10)ディスカッション・グループの報告,(11)会議後のJSCアクション・プランであり,きわめて原理的,包括的な内容を扱っている。また,前述したFRBRの目録機能要件モデルがこの場での議論の背景となっている。
しかも,最後にJSCのアクション・プランが示されているように,単なる議論で終わってはいない。ここで示されたアクション・プランは,以下の7種類であり,1997年以降のJSCの活動方針となった。
- (1)広報(AACRウェブ・サイトの維持)
- (2)JSCの使命の明文化
- (3)英米圏以外でのAACR2利用の調査
- (4)モデル化の手法を用いたAACRの原理と構造に関する論理分析
- (5)AACR2の諸原則(Principles)のまとめ
- (6)逐次性(Seriality)に関わる改訂作業(第9章,第12章)
- (7)条項0.24の改訂作業
(4)から(7)の4つのアクション・プランが内容面に関わる事項である。
2002年改訂版に反映した項目は,主として上記(6)と(7)である。(6)については前述したとおりであるが,(7)については注釈が必要である。目録規則中の0.24という一条項であるにも関わらず大きく取り上げられているのは,上記(4)や(5)とともに,今後の目録法自体の革新に大きく関わっている課題であるからである。
条項0.24は序論の中にあり,「規則の適用方法」を規定したものである。この条項では,「物としての資料の記述は,まず第一に当該資料が属する資料の種別を扱う章に基づくべきである」といった基本原則が示されている。例えば,原本を複製したマイクロ資料は,原本(第2章 図書)ではなく,第11章のマイクロ資料を適用するのが原則であることになる。しかしながら,米国議会図書館(LC)ではこの原則を踏襲して来なかった。というのは,利用者の観点からすれば,物としてのマイクロ資料よりも,内容としての原本の情報こそ価値をもつからである。
2002年改訂版の段階においては,「記述対象資料のあらゆる側面(内容,入れ物,刊行タイプ,書誌的関連,刊行物か非刊行物か等)を明らかにすることが重要である」といった,抽象的な規定に改訂された。この議論も現在進行形である。これまでの目録の記述対象は,FRBRで言う実現形や個別資料といった「物」としての資料が中心であったが,著作や表現形に関わる情報をどのように記録すべきか,という問題が解決されていないからである。この課題については,JSC Format Variation Working Groupにおいて,表現形をベースとした書誌的記録作成の可能性について検討が続いている。またLCにおいては,AACR2とFRBRとMARC21(書誌および所蔵記録)の各項目のマッピング作業による検討が行われている(13)。
以上のように,1997年に提示された目録の機能要件モデル(FRBR)を目録規則や目録(OPAC)作成においてどのように具体的に適用できるかが問われているのである。結論については予断を許さないが,今後の動きを注視していく必要があるであろう。
総務部情報システム課:和中 幹雄(わなかみきお)
(1)ALA et al. Anglo-American cataloguing rules 2nd ed. 2002 revision. ALA, 2002. 772p
(2)AACR改訂合同運営委員会は,AACRの改訂維持管理を担う組織で,米国図書館協会,オーストラリア目録委員会,英国図書館,カナダ目録委員会,英国図書館・情報専門家協会(CILIP),米国議会図書館が構成組織である。年に2回定期会議が開かれて審議がなされる。その内容は,JSCホームページで詳しく広報されている。[http://www.nlc-bnc.ca/jsc/](last access 2002.10.6)
(3)IFLA. ISBD(ER) : International Standard Bibliographic Description for Electronic Resources. K.G. Saur, 1997. 109p
(4)日本図書館協会目録委員会 『日本目録規則1987年版改訂2版』第13章検討のポイント[http://wwwsoc.nii.ac.jp/jla/mokuroku/13point.html](last access 2002.10.6)
(5)2002年改訂版においては,すべての記述対象資料(Bibliographic resources)を刊行タイプ(Type of publication)の観点から確定資料(Finite)と継続資料(Continuing)に大別する考え方で構成している。この点については以下の文献で詳しく論じられている。
JSC. Revising AACR2 to Accommodate Seriality :Report to the Joint Steering Committee for Revision of AACR. [http://www.nlc-bnc.ca/jsc/ser-rep0.html](last access 2002.10.6)
(6)ISBD(S)の改訂版も本年すでに刊行されている。
IFLA. ISBD(CR): International Standard Bibliographic Description for Serials and Other Continuing Resources. K.G. Saur, 2002. 112p
また,ISSNマニュアルの改訂も9月のセンター長会議で最終審議され,今年中に決定される予定である。
(7)米国議会図書館の適用細則(LCRI)はすでに作成されているが,適用開始は本年12月1日の予定である。MARC21への適用(更新資料のコード等)については,来年以降実施される予定である。
(8)Functional requirements for bibliographic records : final report. K.G. Saur, 1998. 136p [http://www.ifla.org/VII/s13/frbr/frbr.pdf](last access 2002.10.6)
(9)Bourne, Ross. ed. Seminar on bibliographic records : proceedings of the seminar held in Stockholm, 15-16 August 1990. K.G. Saur, 1992. 147p
(10)米国議会図書館目録政策支援室長であるティレット氏は本年3月に来日し,国立情報学研究所主催のワークショップおよび国立国会図書館において,FRBRの概要についての講演を行っている。わが国ではまとまった形でFRBRの紹介がなされたのはこれが最初である。以下の文献を参照。
国立情報学研究所 日本語,中国語,韓国語の名前典拠ワークショップ記録 第3回 2002年3月14-18日 国立情報学研究所 2002. 180p
デジタル環境における目録作成:バーバラ・B・ティレット米国議会図書館目録政策・支援室長講演会報告 国立国会図書館月報 (496) 20-25,2002
(11)Tillett, Barbara B. IFLA study on the functional requirements of bibliographic records : theoretical and practical foundations.(60th IFLAGeneral Conference – Conference Proceedings – August 21-27, 1994.) [http://www.ifla.org/IV/ifla60/60-tilb.htm](last access 2002.10.6)
(12)Weihs, Jean. The principles and future of AACR : proceedings of the International Conference on the Principles and Future Development of AACR, Toronto, Ontario, Canada, October 23-25, 1997. ALA, 1998. 272p
(13) Delsey, Tom. Functional analysis of the MARC 21 : bibliographic and holdings formats. [http://www.loc.gov/marc/marc-functional-analysis/home.html](last access 2002.10.6)
和中幹雄. AACR2改訂とFRBRをめぐって−目録法の最新動向−. カレントアウェアネス. 2002, (274), p.11-14.
http://current.ndl.go.jp/ca1480