CA973 – 電子図書館とレファレンス・サービス / 中村規子

カレントアウェアネス
No.183 1994.11.20


CA973

電子図書館とレファレンス・サービス

レファレンスとは図書館資料と利用者を結びつける作業であり,具体的には,利用案内,書誌利用指導,事実調査,他機関の紹介,書誌作成等である。では,21世紀におけるレファレンス・サービスはどのように考えられているのだろうか。ここでは,Libraries and the Future: Essays on the Library in the Twenty-First Centuryに収録の11論文に記されたレファレンス・サービスを中心に報告したい。

まず,レファレンス・サービスを論ずる前提として,「電子図書館」への移行がある。利用者の多くはパーソナル・コンピュータを所有し,オンライン・ネットワークを通じて図書館外部からの検索,閲覧,複写等の利用が可能である。しかし「電子図書館」といっても,印刷形態資料がなくなるというのではない。図書館は電子出版物と印刷物の両方を所蔵することになろう,だが図書館資料に占める印刷物の割合は少なくなるというのが,大方の見方である。こうした状況において資料と利用者を結びつけるサービスとは,どのようなものか。最初に,利用者が図書館員の助けなくして検索できるシステムを作ること,すなわちコンピュータにレファレンス機能をもたせることが述べられている。それは,図書館外部からの検索・利用を想定するのだから,当然のことであろう。

バックランド(Buckland)は『図書館サービスの再構築−電子メディア時代へ向けての提言』において,対面レファレンスの減少,セルフ・サービスの拡大を挙げている。しかし,セルフ・サービスのみですむものではなく,人による案内が依然として必要であるとも述べている。Libraries and the Futureに収録された論文の筆者たちもほぼ同様の意見である。

具体的には,画面上の案内(音声を用いることもある)の一層の充実,キーボード入力のみならず音声による入出力をも可能にすること−これらはある程度,既に実現されているが−さらにExpert systemによって高度なレファレンス・サービス機能をもたせることが挙げられている。ランカスター(Lancaster)は,Expert systemを利用することにより,利用者の質問に関し主題を絞りこむ,検索方法を考える,検索トゥールを指示すること等の機能をもたせる,また繰り返しなされる質問と回答の記録をシステム化する可能性を述べている。

しかし,ランカスターは,熟練した図書館専門職が現在行っているレベルで,利用者の質問の主題を分析する,情報ニーズを理解する,検索方法を考える等の知的作業は,Expert systemに簡単にとってかわられるものではないと言う。Expert systemが専門職の役割にかわりうるとする楽観論は,20年前のコンピュータ医療診断に対する楽観論と同様で,人間の知識,経験,直感に対する過小評価であるとしている。

他に,ダウリン(Dowlin)は画面上等で利用者と積極的にコミュニケートするシステムの提供を強調しながらも,資料について知らない人,コンピュータを持っていない人に対する援助の必要なことを述べている。またヤング(Young)は,機械検索に習熟した利用者と子供のビデオゲームも使えないような利用者とがおり,利用者間の格差が拡大すること,電子形態と印刷形態の資料の両方が混在し,両方の資料の関連等,情報検索が一層複雑になることから,どんなに利用しやすいシステムを作ったとしても,人による案内の必要性は逆に増すと言う。21世紀の大学図書館のイメージとして,スチューデント・アシスタントが初回利用の学生に手とり足とりシステム検索を教える等,きめ細かな案内をする様子を示している。

さらにニーラメガン(Neelameghan)は,システムを案内する上で重要なのは,様々な能力,性格の利用者とインタビューができるという人間的な資質であるとしている。十分なコミュニケーションをもつことにより,利用者がシステムに対する信頼感をもち,自分で検索できるという自信をもつことで,はじめて効果的な情報検索が可能になるのだと言う。

ライン(Line)も,データベースの選択については,Expert systemによる援助が可能だが,質問の主題を分析する作業は専門家の人的援助によらなくてはならないとする。だが,そうした人的援助を提供するのは必ずしも図書館員である必要はないとしている。すなわち,情報サービスが商業ベースで提供されることを前提としており,情報ブローカーによるレファレンス・サービスの可能性を示している。そして図書館もまた公共ベースと商業ベースの両方で運営されるべきだと述べている。サイラー(Seiler),サープラナント(Surprenant)も同様で,情報コンサルティング会社が設立され,我々が現在,家庭医や顧問弁護士をもつように,個人ライブラリアンをもつようになるかもしれないと述べる。

以上のように,電子図書館においては,まずセルフサービスが可能な,レファレンス機能をもったシステムが前提とされるが,こうしたシステムも人間が作るものであり,レファレンス・ライブラリアンも機械サイドやカタロガーとともに関わっていく仕事であろう。さらに,主題についての専門的知識および様々な利用者とコミュニケーションをはかるといった作業には,機械がとってかわることのできない部分がある。21世紀のレファレンス・サービスを考える際,専門知識,インタビュー等の人間的役割のもつ意味を見過ごしてはならない。

なお,前記の筆者たちは,図書館員一般に対し,技術に関する知識およびマネージメントの能力を要求している。レファレンス・ライブラリアンについても,同様であろう。利用に重点を置き,他の図書館,出版者,データベース・ベンダー等と関わりをもって運営を行うであろう21世紀の図書館を想定すると,レファレンス・ライブラリアンには技術に関する知識が必要とされると同時に,マネージメントというきわめて人間的な役割を果たすことが課題になるだろうと考えられる。

中村規子(なかむらのりこ)

Ref: Lancaster, F.W., et al. Libraries and the Future: Essays on the Library in the Twenty-First Century. Haworth Press, 1993. 195p
Reference Librarian (34) (1991)
Buckland, M.K. 図書館サービスの再構築 勁草書房 1994. 129p