カレントアウェアネス
No.133 1990.09.20
CA688
米国図書館振興財団(CLR)の研究助成テーマ−1989年度−
米国図書館振興財団(CLR)は,1956年の設立以来,米国内のみならず国際的にも,調査研究,教育,出版活動への助成を通じて,図書館の発展のために多大な貢献をしてきた。
このCLRの最近5ヶ年の活動は,図書館技術開発よりはむしろ,図書館運営面での調査研究・分析に関するプログラムヘの支援が多い。そして,このプログラムに支援され,関与してきた図書館員,情報管理専門家,文書管理専門家は,年間数千人に及んでいる。
最近の主な研究課題を挙げると,書誌情報の処理機構の整備,情報への平等なアクセスの保障,情報処理経費の節減策,蔵書の充実強化,効果的な図書館協力活動,図書館運営へのニュー・テクノロジーの応用,図書館情報学の研究・教育と図書館サービスとの関連の緊密化,今日のダイナミックな社会環境変化に適応しうる図書館運営の在り方,等が取り上げられた。
これらのプロジェクトの中には,全国逐次刊行物センターの企画のように失敗したものもあれば,書誌サービス発展計画や,システム間リンク計画のように成功した例も多い。
1989年度中に助成を受け,また,目下進行中のプログラムの主なものを具体的に挙げれば,次のとおりである。
(1)企画と管理運営
UCLAのロバート・ヘイズ(Robert Hayes)が中心となって1986年以来研究を続けてきた“大学学術研究分野における図書館情報資源についての長期的戦略プラン”が,1989年末に完結した。これは,図書館サービスの未来を予測する立場からの研究で,その報告書は今年中に刊行される予定。
ミネソタ大学図書館および同大学ハンフリー公共問題研究所が,1987/88年に共同研究した“統合情報センター(IIC)策定のためのモデル設計”が完成した。その主な内容は,情報需要予測,情報処理技術,組織,資金確保とコスト収支,および,法律的,政策的課題の5つのプロジェクトよりなっている。
目下進行中のプログラムとしては,ジョンズ・ホプキンス大学ウエルチ医学図書館学術情報研究所で進めている“知識管理プログラム”がある。これは,ヒト遺伝子等の医学データベースの整備と,それを利用するためのユーザー・インタフェースの改善を主な目的としたプロジェクトで,1992年まで続けられる。
全米科学基金(NSF)が進めているプロジェクトとして,科学技術分野の情報構造と調査能力の関連性を見出すための研究がある。
以上のプロジェクトのほか,1988/89年に助成を受けたものとしては,研究図書館協会の行った“The Automation Inventory 1989年版の拡充”と“逐次刊行物コスト研究及び逐次刊行物の価格上昇抑制のための戦略と実行”がある。また,ハーバード大学の“利用者への電子形態での情報伝達方法の研究”等が対象となった。
(2)図書館資料の保存
米国議会図書館(LC)と全米人文基金(National Endowment for the Humanities)の共催による“全国資料保存計画の発展のための全国会議”を支援した。
ニューヨーク公共図書館で進めている“研究図書館における紙質永久化プログラム”を助成した。
その他,図書無損傷返却ユニットの開発,保存類型学を適用した研究プロジェクトの成果のテスト等のプロジェクトを助成した。
(3)書誌サービス
CLRが最も重要視し,1980年代を通じて支援しているプログラムとして,OCLCなどのネットワーク相互の結合を図る“システム間リンク計画(LSP:本誌CA427,CA428参照)”がある。その目標とするところは,書誌的記録への利用者の平等なアクセスを可能にしようとするものである。
2つ目のCLRがスポンサーとなっているグループとして,書誌サービス研究委員会(BSSC)がある。このBSSCが,LCとの共同事業として行っている実験的な“全米目録協調計画(NCCP:本誌CA523参照)”を支援しているもので,1990年半ば頃までには完成される予定である。その意図するところは,費用,ニーズ,組織機能等と関連づけて,将来の書誌への需要予測と目録作成について考察しようとするものである。
以上のほか,インディアナ大学の“蔵書に対する主題アクセス改善のためのOPACコンピュータ・システムの発展”や,博物館コンピュータ・ネットワークの“芸術品目録作成のためのMARCフォーマット適用研究”,トロント大学の“情報検索システムと利用者との相互作用の研究”等に対し助成が行われた。
(4)情報へのアクセス
従来,図書館は,公共機関的性格をもつ機関として,利用者への平等な情報アクセスの保証を原則としてきた。しかし,最近に至って,その原則が急激に崩れつつある。その理由は,現在,世界的規模で有用な情報の生産が爆発的に増大しており,それへの対応のための費用がとどまることを知らない状況にあるためである。例えば,オンライン・データベース,CD-ROMのような新しい情報形態資料は電子的媒体機器を必要とし,そして,しばしば特別な訓練や,著作権問題,情報コストの上昇,情報構造の急激な変化への対応を余儀無くされている。
このような状況の中で,CLRは,国内的にも国際的にも,平等な情報アクセスを保証しうるような新しい理論の確立を目指して,各種の研究プログラムを助成している。
例えば,全米図書館情報学委員会(NCLIS)が主催する“情報言語に関する会議”への支援や,ウイスコンシン大学マディソン校での“公共図書館で利用可能なレファレンス評価ソフトウエア・システム変換技術の研究”等に対し助成している。
以上のように,図書館管理運営面に資し得るような共同研究を促して多大な成果を挙げているが,このCLRの研究助成テーマを,将来の図書館像を占う材料として,今後とも十分注目していく必要があろう。
中森 強
Ref. Council on Library Resources. Thirty-Third Annual Report. 1989. 66p.