CA689 – Selectionfor Survival―資料収集方針とナショナル・ライブラリー経営の今後(BL)― / 高橋弘

カレントアウェアネス
No.133 1990.09.20


CA689

Selection for Survival
−資料収集方針とナショナル・ライブラリー経営の今後(BL)−

調査研究図書館としての機能を特に重視するナショナル・ライブラリーにとって,選書を含めた資料の収集業務はその運営の根幹をなすとの考えから,英国図書館(BL)では外部の識者を混じえたチームを編成して,現行の収集業務の点検を行うとともに,今後のあるべき姿を明確にする作業を進めていたが,昨1989年にそのまとめを公刊した。このレビューは直訳すれば,“生き残りのための選択”(Selection for Survival)という,英国にしては大仰な標題付きのものである。これは先に1985年に公けにした「資料収集戦略」を引き継ぎ,1987年にまとめていた収集方針を重ねて見直しした結果でもある。

いかなる資料が現在及び将来のBL利用者の利用要求に応えうるものとなろうか。収集に当っての選択はもちろん単純には行えないが,このレビューはきびしい選書・収集の方針と,その実施のための体制を,従来にもましてより鮮明なものにする必要があるとの認識に立って作成したといわれる。

レビューは13章の本文と4つの附録とから構成されるA4判,104ページのもので,その大部分は現行業務の再点検,摘出した問題点,そして勧告から成立っている。既報(CA622)のように,BLは英国出版物の網羅的収集という方針を放棄するのではないかと噂されてきたが,本レビューは放棄することを勧告している。

取扱われた事項のうち,主なものは,○資料収集と保管の役割・意義(レビューの中心テーマ),○現行の資料収集と保管方針における優先順位,長期保存対象資料の選別等についての方針,○納本制度,○資料の廃棄,○資料収集についての外部利用者の意見の聴取,○資料収集の問題点について,事例研究:EC資料,日本語資料(外国語資料のサンプルとして),科学技術資料,○デスクトップ・パブリッシング(DTP等)新しい技術の応用によって生産されるものへの対応,○資料の選択から保管管理までのコスト計算(Life cycle costing),等である。

以上の業務分析結果に基づく勧告の主なものを適宜整理すると次のとおりである。

  1. 資料の選択から受入れを決定するに際しては,収集資料の保管管理が影響を及ぼすであろう財政上の問題に関して,必ずその措置がとられる見通しをつけてから行うべきこと,また,選択から保管管理にかかるコスト計算――Life cycle costing――のメカニズムを図書館経営においても活用すべきこと
  2. 資料収集方針は,受入れの優先順位を含めて公表すること
  3. 資料受入れの明確なガイドラインの設定とその具体化により,納本のコントロールを行うこと(納本されるものすべてを自動的にBLの所蔵資料とすべきではない)
  4. 過去において,受入れるべきではないのに受入れてしまった納本資料は,一部を除き保存の対象から外すこと
  5. 多種多様な資料の受入れと保管に関連して,資料の廃棄方針を確定しこれを実施に移すため,担当員に選別のための時間を与えること
  6. 永久保存すべき資料の保管方針を定めること(保管スペースの有効利用との関連)
  7. 重複資料については保管すべき資料の数を減ずるよう努めること
  8. 書庫の使用に際しては,通常の書庫のほかに,保存を第一義的な目的とする書庫,あるいは廃棄処分の対象となる資料収容のための書庫,のようにはっきり区分を設けること
  9. 保管を担当するスタッフには,永久に保存すべきものとそうでないものの選別のために要する時間を十分に与え,その実施を容易にすること
  10. DTP等,新しい出版形式により出版されるものに対し,その受入・保管の方針を策定すること
  11. 国内の他の納本図書館(copyright libraries)との協議事項は,さらに特定分野の資料の収集・貸出の分担に向けて拡張されるべきこと
  12. BLは収集,保管,廃棄のためのナショナルプランを策定し,これを発展させるため,ナショナル・ライブラリーとしての責務を負う国内外の図書館及び各分野の学術機関との連携を強化すべきこと

これらの勧告から,BLはこれまでの資料収集と保管の方針を継承することは,期待されている調査研究図書館としての機能の発揮を阻むとの認識をもつに至っていることがよみとれよう。このレビューは各国のナショナル・ライブラリーに対して,その“経営”のありかたに何らかのヒントを与えることになるかも知れない。あるいはまた,資料の収集,保管及び貸出の分担を,国をこえて(例えばEC域内で)計画,実施することの意義が強調されるきっかけになるかも知れない。

高橋 弘

Ref. Enright, B., et al. Selection for Survival: A Review of Acquisition and Retention Policies. BL 1989 104p. £12.00