カレントアウェアネス
No.122 1989.10.20
CA622
英国図書館が網羅的収集を放棄?
オブザーバー紙がすっぱ抜いた秘密の内部資料によると,英国図書館(BL)が3世紀以上守ってきた網羅的収集という方針を放棄しようとしている。
英国図書館が著作権法に基づき(ただし著作権の発生と関係なく)出版物を無償で入手できることは,同館に大きなプラスとなると同時にマイナス面ももたらしている。それは納本された資料一冊につき50ポンドの整理費と年1ポンドの管理費を支出しなければならないことである。年間8マイルもの書棚が埋まって行くため,1993年完成予定の新館も10年で満杯になってしまう。その原因は過去10年間に納本が1.5倍になり1988年には6万2千冊に達したことである。
「出版されるほどのものには,何かしらとっておく価値がある」というこれまでの考え方に疑問が呈され,より選択的にならざるを得ないというのである。内部資料は「このまま無制限に資料を受入れて行くと,それにともなう負担の増加が無償納本という特権のメリットをしのいでしまう」といっている。目下のところBLは,納本されたものの内,蔵書に加えるべきでないものを検討中である。ある種のロマンスは,研究用の見本を残して廃棄されることになるだろう。パンフレットも長命のものだけが保存される。地域的な時刻表なども廃棄される。既存の図書の再発行も,新版でない限り保存されない。
資料によっては,保存を他の納本図書館に委ねることも考慮されている。BL以外の5つの納本図書館には,BLのようにすべてが自動的にではなく,そこが要求したもののみ納本されることになっている。BLがconspectusによる蔵書評価法の普及に熱心なのもこの辺に理由があるのかもしれない。
LCが,アメリカで出版されたすべての図書を受け入れて保存しているというのは,アメリカではLCに納本しないと著作権が発生しないというのと同様一つの神話である(1909年の著作権法改正でそのような不合理は改められた)。LCは,高校以下の教科書,ペーパーバック,リプリント,医学書,農学書,修士論文,私家版などは,納本されても殆ど保存しない。年に一千万点をこす受入れ資料の中から,使えるもの百五十万点を残し,残りを邪魔にならないように,よけいな支出を生まないように廃棄するのがセレクション・オフィサーの仕事なのである(LCでは一冊資料を整理すると100ドル以上かかる)。商業出版に耐えるという市場での評価を経ていない私家版が,原則として保存の対象とならないのはアメリカ的考え方からして当然のことといえる。
しかし,アメリカに比べて出版点数の少ないイギリスや日本においては,国立図書館は文字どおり国内出版物の網羅的収集に努めてきたし,それがある程度までは可能であった。出版というよりは記念品の制作配布のような私家版まで収集してきたのである。そして両国においては,今後もそれが可能であると思われていた。その矢先のBLの秘密資料のスクープである。斜陽イギリスの国立図書館は,新館建設をムダ使い呼ばわりされたり,簡略目録法の導入を余儀なくされたりさんざんであるが,経済大国の国立図書館はどこへ行くのだろうか。今後の両者の動向に注目していきたい。
坂本 博
Ref. Observer 1989.7.2
Report on the British Library's policy on the acquisition and retention of material.
British Library News (149) 1, 1989.