CA690 – 電子新聞で沈黙の世界を破る―BLR&DD/RNIB話す新聞プロジェクト― / 宮代信子

カレントアウェアネス
No.133 1990.09.20

 

CA690

電子新聞で沈黙の世界を破る
−BLR & DD/RNIB話す新聞プロジェクト−

イギリスでは視覚障害者が新聞記事情報を得るには,今迄はボランティアに頼るか,カセットテープ版の週刊ダイジェストを待つかのどちらかであった。Royal National Institute for the Blind(RNIB)は,英国図書館研究開発部(BLR & DD)の助成により,新聞を発行日にしかも本文全文を提供できるという,視覚障害者へのニュース提供の面で重要な変化をもたらす,全く新しい電子新聞を開発した。現在このBLR & DD/RNIBプロジェクトでは,視覚障害者サービスに実績をもつ6つの公共図書館行政体(Devon,Gateshead,Leicestershire,Renfrew,Sheffield,Tameside)を通して,より多くの利用者を対象に,電子新聞システムの実験サービスをまもなく開始する。

視覚障害者は,パソコンと音声合成装置を使うことによって,晴眼者が印刷された新聞を読むのと全く同様に,記事に目を通し,読みたい記事を選択することができる。また,キーワードを使って,ある項目を素早く検索することも可能である。

RNIBが開発したフレキシブル・タイプの読み取り・検索用ソフトウエアでは,音声合成装置のほかに点字ディスプレイも利用することができる。点字ディスプレイは,いかなる情報からも制約されている視聴覚障害者にとって特に有用であろう。さらに,そのソフトウエアはできるだけ簡単に使える様に考えられてあって,キーボードやタイプライターになじみのない視覚障害者でも,2時間以内でこのシステムを学ぶことができた。

ガーディアン紙を使っての実験が6ケ月間実施されることになっている。同紙のコンピュータからとられた記事本文は,テレテキスト(注1)の様に,AirCall Teletext社によってインデペンデント・テレビジョン・ネットワーク(ITV)を通して,発行日の夕方,全国的に送り出される。視覚障害者の家庭では,TVアンテナを通して受信し,端末のハードディスクに別途ファイルとしていれられる。ガーディアン紙の標準的な版の語数は10万語で,送信にはおよそ1時間かかる。この実験計画が成功すれば,3ないし4の全国紙に拡げられるはずである。

このプロジェクトに対して,他のヨーロッパ諸国でもかなりの関心を寄せており,現在,類似の計画が進行している。EEC Concerted Action on Technology and Blindnessは,これらの諸計画を調整するためのプロジェクトを開始し,RNIB技術開発部が担当機関になったということである。

同様の電子新聞はスウェーデンで最初に開発されたが,イギリスのシステムとスウェーデンのそれとは技術的に非常に異なっている。1979年8月22日付の東京新聞は,スウェーデンのエーテボリ・ポステン紙が世界で初めて視覚障害者のための日刊電送点字新聞システムの開発に成功したと報じている。これは,電話回線を利用して視覚障害者の家庭にニュース情報を送り,コンピュータ付の小型端末器からブライユ式点字になって打ち出されるというもので,「これまで6週間にわたってエーテボリ市内の盲人家庭で実験してみた結果は上々」とある。

この記事から10年,日刊電送点字新聞システムは実験から実用化の道を歩んでいるのだろうか。「視覚障害読者のためのコンピュータ利用技術」と題する論文(注2)が,スウェーデンにおける音声合成装置を使ってのシステムを伝えている。これは23才から79才までの視覚障害者29人(男:17人,女:12人)の家庭に,スウェーデンで2番目に大きな日刊新聞を4ケ月間送信し音声合成装置を使って読んでもらうという研究プロジェクトの詳細な報告である。参加者には開始時・中間時点・終了時と3回インタビューをしているが,全体として参加者の反応は極めてよく,合成音声の質も非常に良好と評価された。このシステムではFM電波が送信に使われている。(放送範囲は約25マイル。)日刊新聞が印刷される同じ夜に送信され,参加者の家庭はFM装置によって受信し,ハードディスクに保存される。しかし,次の新聞を受け取ると前の新聞は削除されてしまうので,受け取った日に読まなければならない。各家庭に置かれた機器は50台生産した時のコストに基づいて,およそ1台5,000ドルと見積もられているがまだ一般には入手できない。

一方,日本では電話での新聞朗読サービスも一部で行われているが,まだ直接のアクセスにはいたっていない。厚生省は新たに平成2年度予算に「点字による即時情報ネットワーク事業」を計上した。これは中央に情報センター(日本盲人福祉センターの予定)を置き,視覚障害者にかかわる様々な情報資料をパソコンに入力して,電話回線を使って各県の視覚障害者団体または点字図書館等に送りこむ。そこでは端末に点字ワープロが作動して利用者に点字で情報を提供しようというものである。そして,このシステムで日刊新聞を送ろうと計画している。

このように,音声や点字による新聞記事情報サービスが各国いろいろな方法で試みられており,実用化され普及すれば視覚障害者にとって情報面で大きな進歩となるであろう。しかしながら,イギリスにおいて,自国が開発したテレテキストを利用して,BL,RNIBおよび公共図書館の協力による電子新聞システムが実験に入ろうとしているところに,視覚障害者に対するサービスにおけるイギリスの先進性を見る思いがする。

宮代信子

注1 日本では文字放送と呼ばれている。
2 Hjelmquist, E., et al. Computer oriented technology for blind readers. Journal of Visual Impairment & Blindness. 84, 210-214, 1990. 5
Ref. British Library News (157) 1990. 5/6.
愛盲時報1989. 10. 25; 1990. 1. 25; 1990. 3.26