カレントアウェアネス
No.183 1994.11.20
CA971
2025年のコレクション形成
Collection Developmentは,アメリカ図書館協会(ALA)によって,「図書館の情報資源を,費用対効果比および利用者とのかかわりで計画,構築,維持するプロセスで」あると定義される。更に,「それぞれの図書館に適切な資料の把握,選択(場合によっては獲得)」だけではなく,「各主題分野や各資料形態における資料予算の配分,コレクション管理(中略)これらの機能を統御する方針と手順の決定および調整をふくむ」と続く。
図書館においてその“コレクション”(現在は蔵書と記されることが多い)は,書誌的機能,資料提供機能,保存機能,象徴的機能(特殊なコレクションがそれを持つ図書館の象徴的役割を果たす)を持つ。21世紀−仮に2025年と設定しよう−のコレクションを展望する際,電子化された情報資源(electronic resources)がこれまでの伝統的なメディアが持ちえなかった特性を生かしていくであろうことは容易に想像される。「同時に複数の人々が」「多様な方法で」利用できることは,その書誌的機能(OPAC等)資料提供機能(全文データベース等)において特にその素晴らしい特性を発揮すると言える。
しかし,電子化された情報資源を図書館の“コレクション”として見る時,“コレクション形成”とは,果して何を意味するのであろうか。学術雑誌のレヴューや出版社のカタログではもちろん「出版」情報を充分網羅しているとは言えず,発達した出版,流通形態がない中で,収集範囲の設定は大変難しい。そして電子化された情報資源が他のどのメディアとも決定的に違う点は,改訂が易しいということであり,しばしば流動的で変化する情報をどのように収集するのか。ますます質・量共に多様化多量化し,必要とする情報へのアプローチがより複雑になるとすれば,資料の選択・入手という側面は,“アクセスの提供”へと移行した方が効率的であるとも言える。情報検索のための利用者教育や,仲介サービス,例えばローカル・インデックスを作成し,遠隔情報に利用者がアクセスしやすくするなども可能だろう。
一方で図書館の役割をrecord definitionと考えることもできる。電子化された情報資源では希薄である情報の固定,保護の責務を図書館が負っていると言いかえることもできよう。即ち,それぞれの図書館の性質,ロケーションに応じて,重要或いは必要と思われる情報資源をローカルDBにダウンロードし,アクセスを提供する。或いは逆に,例えば所属機関の研究情報をライブラリーDBにアップロードして,ネットワークを通じて全国,全世界からその情報へのアクセスを可能にする。図書館は,コレクション形成に受動的にではなく,より能動的に関わってゆくことになり,それらの情報資源の集積は“象徴的機能”を持つと言えるかもしれない。
電子化された情報資源のすぐれた特性を見ることにより再度気付かされる印刷物等これまでのメディアに見られる特性,そしてそれらによってこれまで蓄積されてきたものの大きさを考えてみる時,少なくとも近未来のコレクションは,actualとvirtua1が混じり合ったものとなるであろう。そして利用者は,様々な枠組に分類されるコレクションに対して,より簡便に統一されたアプローチを,今まで以上に必要とすることは間違いない。コレクション形成という作業は図書館サービス全体により密接に関わるようになる。
2025年は決して遠い未来ではない。技術の進歩や政治・経済情勢,教育環境の変化などに伴う利用者ニーズの変容によって,コレクション形成の方針と手順は,何度も再確認・再定義されてゆかねばならない(のかもしれない)。コレクション形成の意味することが,多義,多層になればなる程,それぞれの図書館の使命,特質に沿ったコレクション形成がますます重要になってゆく−そのことを我々は強く認識しなければならないであろう。
井上留津子(いのうえるつこ)
Ref: Buckland, M.K. 図書館サービスの再構築 勁草書房 1994. 129p
Lancaster, F.W. Collection development in the year 2025. Recruiting, Educating and Training Librarians for Collection Development. Greenwood Press, 1994. 245p