カレントアウェアネス
No.170 1993.10.20
CA904
電子メールによるレファレンス・サービス
米国では,図書館サービスにおける電子メールの利用が増加している。ILL,複写,オンライン検索,購入希望図書の受付等がサービスとして提供されているが,最近では特にレファレンス・サービスヘの利用方法が議論されている。ここにその一端を紹介する。
メリーランド大学,ワシントン大学の両医学図書館は,1984年に電子メールによる図書館サービスを開始した。両館はサービスの利点として 1)離れた所から昼夜を問わず,いつでも図書館にアクセスできる,2)レファレンスの問い合わせを印刷でき,記録として保存することができる,という点を,一方,問題点として 1)レファレンス・インタビューができない,2)利用者は結局は資料がある図書館に来なくてはならない,という点を挙げている。現在両館の電子メールサービスにおいて最もよく利用されているのは複写で,メリーランド大学では利用の91%に達する。これに比してレファレンスやオンライン検索の利用は非常に少ない。
ヴァージニア・コモンウェルス大学図書館(総合図書館と医学図書館の2館より成る)は,1990年に電子メールサービスを導入した。レファレンス・サービスも提供されているが,利用は多くない。ただし,医学図書館は,ヴァージニア州の委託により,州内のAIDS情報センター5館および州保健局に対するサービス(AIDSに関するレファレンス,オンライン検索,最新情報の提供,ILL)を行っている。
1992年にフィラデルフィアで行われた非公式の調査(10館対象)でも,電子メールによるレファレンス・サービスを提供しているところは2館しかなく,その場合も利用は少ないという結果になっている。
インディアナ大学図書館員アン・ブリストゥは,電子メールによるレファレンス・サービスについて次のようにアドバイスしている。1)普及させるためには,OPACのメニューの一つとするなど,より大きな電子情報サービスの一部である必要がある。2)コンピュータを業務に不可欠のものとして利用している人々に最も利用される。サービス自体に伝統的なサービスからの転換を促す力はない。3)サービスの説明はできるだけ明瞭かつ簡単にする。4)どのような種類の質問に答えられるかを画面上に明記しておく。5)図書館員がメールボックスをチェックする頻度を明記する。ちなみにインディアナ大学では1日5回,1週間に7日チェックしているが,それを利用者に知らせていなかったところ,回答が遅いという不満が2,3寄せられた。図書館員は不断にメールボックスをチェックして,回答するものと思われていたのかもしれない。6)送られてきたメッセージは適当な職員に割り当てる。また,後できちんと回答されたかどうかチェックする。電子メールの利点の一つは,電話や来館による場合のようにたまたま受けた職員が処理するといった場当りな対処をやめ,各自の専門性を大切にできることである。7)出典を明記してもらう。これはレファレンス・インタビューができないことを補うものである。8)利用者は図書館サービスを全体として見ているから,電子メールによるレファレンス・サービスはドキュメント・デリバリーやデータベース検索など,他の図書館サービスにも影響する。
レファレンス・ライブラリアン同士のコミュニケーションにも電子メールが用いられてきている。レファレンスについての議論の機会を提供し,経験を共有することを目的としたサービスとしてLibRef-Lがある。これは1990年に創設され,BITNET,Internet,またはこれらに接続しているネットワークにアドレスをもつ人は誰でも加入できる。現在加入者は2100を超え,そのほとんどは米国(89%),カナダ(6%)をはじめとする全世界の学術図書館員であるが,最近は公共図書館員などの加入も増加している。
新たな媒体によるレファレンス・サービスの行方が興味深い。
藤巻正人(ふじまきまさと)
Ref: Still, Julie et al. Librarian in a box. RSR 21 (1) 15-18. 1993
Bristow, Ann. Academic reference service over electronic mail. C & RL News 53 (10) 631-637. 1992
Robinson, Kara et al. LibRef-L. Wilson Libr Bull 67 (5) 47-50. 1993