CA1701 – 韓国の図書館における電子書籍の提供 / 田中福太郎

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カレントアウェアネス
No.302 2009年12月20日

 

CA1701

 

韓国の図書館における電子書籍の提供

 

1. はじめに

 図書館において、紙媒体資料のみならず、CD-ROMなどのパッケージ系電子資料、電子ジャーナルなどのネットワーク系電子資料が提供されるようになって久しい。

 韓国では、電子書籍を提供・貸出している図書館も多い。 以下では、韓国における電子出版事情(1)を概観した後、図書館での電子書籍の提供(2)の現状について述べる。

 

2. 電子出版事情

 文化体育観光部(3)発行の「2008文化産業白書 : 年次報告書」(2008문화산업백서 : 연차보고서)によると、韓国の電子出版産業の市場規模は、2008年で5,551億ウォンであり、2009年には5,786億ウォンになると推定(4)されている。

 また、韓国ソフトウェア振興院(한국소프트웨어진흥원)の調べ(5)では、ゲーム・デジタル放送・デジタル音楽などを含むデジタルコンテンツ産業全体に占める電子書籍業種の割合は、2007年で約0.5%であり、2008年は0.4%と推定されている。一方、電子書籍業種の市場規模でみると、2008年が473億ウォンであり、2009年は506億ウォンと予想されている。デジタルコンテンツ産業全体に占める割合は依然低いものの、電子書籍業種の市場規模は増加傾向にあるといえよう。

 韓国内の主な電子書籍業者として、これまでブックトピア(북토피아)が主導的な役割を果たしてきた(6)。ところが、2008年に同社は出版社に対する著作権料58億ウォンが支払えなくなり、不渡り危機に陥った(7)。近年では、国内でも指折りの大規模書店である教保文庫(교보문고)が「デジタル教保文庫」を運営するなどして台頭してきている。教保文庫は、このほか、マンション内の「電子図書館」事業(E487参照)にも積極的に進出している。

 「2008文化産業白書 : 年次報告書」によると、電子書籍業者の類型としては、電子書籍コンテンツ制作・流通関連企業が127社と最も多く、ビューワー・パブリッシャー関連技術業者やDRM(デジタル著作権管理)業者等のソリューション企業が45社であった(8)

 電子出版物の発行状況をみると、2008年までの累積数で、電子書籍355,424種、CD/DVDの教育用電子出版物17,919種、学術論文が1,718,137編、電子雑誌およびウェブマガジンが2,369種、オーディオブックが20,872種、電子辞書が471種発行されている(9)

 電子書籍リーダーについては、パソコン、PDAから専用ソフトを用いるのが中心である。電子書籍用の携帯端末は各社が開発していたが、具体的なサービスには至っていなかった(5)。その中で、サムスン電子(삼성전자)が、2009年7月31日に電子書籍用の携帯端末の販売を開始した(10)。この端末では、前述の教保文庫が提供する2,500種のコンテンツが利用できる(11)。今後も、オンライン書店であるイエス24(예스24)とアラジン(알라딘)が共同で法人を設立して専用端末の販売及び電子書籍サービスを開始する予定であるとともに、別のオンライン書店のインターパーク(인터파크)も、専用端末を通じて同様のサービスを開始すると発表している。携帯電話会社も、電子書籍サービスを検討している(12)など、今後の展開が注目される。

 韓国政府の電子出版物政策として、文化観光部(現在の文化体育観光部)では、2004年に電子出版の納本・認証システム(13)を構築したほか、紙の出版物と同様にオンライン電子出版物に対して付加価値税を免税するなどして、電子出版を推進してきた(14)。その結果、2008年までに累計365,220件の電子出版物が認証された。また、韓国電子出版協会に補助金を出し、「優秀u-book制作支援事業」を、毎年行っている(15)

 

3. 図書館での電子書籍の提供と利用の実際

 

3.1. 国立中央図書館

 国立中央図書館では、同館のウェブサイト(16)上の情報によると、所蔵資料をデジタル化したもののほか、民間業者が構築した電子書籍を含むデータベースを購入し、同館内のみならず、韓国複写伝送権協会と著作権契約を締結した公共図書館へもサービスしている。

 契約を締結した公共図書館で利用する場合、検索や書誌情報照会はどの端末でも可能だが、全文を閲覧できるのは指定された端末のみである。また、大学図書館や行政資料室では、このサービスは利用できない。

 このように、国立中央図書館が主導し、全国の公共図書館に電子書籍の利用を促進しているのが特徴的である。

 

3.2. ソウル大学校中央図書館

 ソウル大学校中央図書館(17)では、電子書籍の検索は一般資料の蔵書検索(OPAC)画面から可能である。電子書籍のみの絞り込み検索もできるほか、書誌詳細から全文へのリンクも張られている。また、契約会社ごとのサイト(18)もあり、電子情報のページからリンクされている。

 電子書籍の利用について、ログインが必要な業者のコンテンツとそうでないものがある。学外から利用する際には、どの業者のコンテンツでもログインが必要である。閲覧方法についても、一人5冊まで5日間などと、期間が定められているものもあれば、期間を定めず、アクセスする都度ダウンロードして閲覧するものもある。

 

3.3. 大学生を対象としたアンケート調査

 電子書籍がどのように利用されているのか、利用者の側からみるために、ここでは、チャン・ヘラン(장혜란)が行ったアンケート(19)の結果を紹介する。これは2006年10月に、韓国のある大学の学生466名を対象に実施された、電子書籍をどのように利用しているかについてのアンケートである。まず、電子書籍を利用したことがあると回答した学生は136名(29.2%)であった。その経路を複数回答可で尋ねたところ、図書館から借りる:52名(38.2%)、ポータルサイトから購入:33名(24.3%)、電子書籍供給業者から購入:25名(18.4%)、オンライン書店から購入:11名(8.4%)などであった。また、どのような媒体で見るかについて、複数回答で尋ねたところ、パソコンで閲覧:116名(85.3%)、PDA:9名(6.6%)、電子書籍専用リーダー:9名(6.6%)、携帯電話:9名(6.6%)などであった。

 電子書籍の利用にあたっては、図書館経由もしくはインターネットのポータルサイトを経由している学生が多数派であることが分かる。また、閲覧には、パソコンを利用する場合が大半を占めている。

 

3.4. 国民読書実態調査

 文化体育観光部は「国民読書実態調査」を毎年実施している。2008年は、9月から10月にかけて、韓国内の18歳以上の成人男女1,000名と小学校4年生から高校生まで(以下「生徒」)の3,000名を対象とし、読書実態・読書傾向・図書入手経路などについてアンケートを実施している。以下では、電子書籍に関する設問の結果を紹介したい(20)

 まず、電子書籍サイトを利用している者の比率は、成人で4.2%、生徒で14.8%であった。利用していると答えた者にどの媒体で電子書籍を利用するかについて尋ねたところ、成人は、デスクトップパソコンが73.8%で最も高く、次いでノートパソコン9.5%、携帯電話、PDA、電子辞書がそれぞれ4.8%であった。生徒は、デスクトップパソコンが63.6%で最も高く、次いで電子辞書11.7%、携帯電話11.5%であった。

 一方、電子書籍を利用するための手段について、成人は、オンライン書店35.7%、ポータルサイト31.0%、公共機関の電子図書館11.9%、電子書籍専門サイト9.5%、公共図書館の電子図書館7.1%の順であった。生徒は、ポータルサイト36.4%、オンライン書店19.1%、電子書籍専門サイト16.9%、学校の電子図書館8.5%、公共図書館の電子図書館5.4%の順であった。

 以上のように、電子書籍の利用率は、成人より生徒のほうが高かった。利用する媒体は、成人・生徒とも圧倒的にパソコンが多いが、生徒は電子辞書や携帯電話を通じての利用もある。どのような経路で利用するかについては、成人・生徒とも、オンライン書店やポータルサイト経由が多く、公共機関・公共図書館および学校の電子図書館を利用する比率は、高くなかった。

 

3.5. 大邱・慶北地域の公共図書館・大学図書館での調査

 次に、具体的に図書館におけるサービスの状況を確認するため、チョン・ジンハン(정진한)ほかが行った、韓国南東部に位置する大邱・慶北地域の図書館における電子書籍利用状況調査の結果(21)を紹介する。これは、2007年5月に、アンケートを送付・回収し、さらに電子書籍担当司書にインタビューを行ったものである。アンケートの結果、同地域にある図書館111館のうち、電子書籍を導入しているのは全体の49.54%にあたる55館であり、そのうちの34館に対してインタビュー調査をしている。内訳は4年制大学図書館11館、2年制短大図書館8館、公共図書館15館である。主な質問と集計結果は以下のようなものであった。

 

a. どの業者の電子書籍を導入しているか(複数回答)

 ブックトピア:79.41%、バロブック(바로북):50.00%、教保文庫:20.58%、ヌリメディア(누리미디어):11.76%、韓国学術情報:8.82%、NetLibrary(米国):20.58%、Safari(米国):14.70%

b. 電子書籍蔵書数

 1館あたり平均9,662冊。4年制大学平均8,939冊、2年制短大10,662冊、公共図書館9,659冊。

c. 電子書籍貸出状況

 貸出冊数は1館あたり一日平均8.82冊。4年制大学平均8.86冊、2年制短大5.56冊、公共図書館10.53冊。

 館種別で貸出の多い分野順にみると、4年制大学は1)文学、2)外国語、3)経済、2年制大学は、1)文学、2)子ども、3)経済、公共図書館は、1)文学、2)子ども、3)経済であった。

d. サービス提供方法

 電子書籍提供業者のホームページへのリンクのみ提供が50.00%、所蔵資料と統合検索できるものが50.00%。公共図書館の場合、73.33%がリンクのみ提供。

e. 電子書籍整理状況

 目録作成している64.70%、していない35.29%。

f. 同一の本が冊子体と電子書籍とあった場合の利用者対応

 冊子体を薦める79.41%、電子書籍を薦める2.94%、どちらとも意識しない17.64%。

 

 a.から、韓国内の業者と多数契約していることが分かる。b.から、蔵書数は冊子体よりかなり少ないものの、平均で1万冊近く所蔵していることが分かる。c.から、どの館種も文学分野の利用が多いことが分かる。f.で、同内容のものがあった場合は、圧倒的に冊子体を薦めていることが分かる。

 なお、電子書籍担当司書へのインタビューによると、電子書籍提供にあたっての問題点を改善するため、担当司書らは次のような指摘をしたという。即ち、1)電子書籍への漠然とした不安を解消することが必要、2)出版されたらすぐにコンテンツ追加できるよう電子書籍購入周期を短縮、3)紙媒体発行後電子媒体発行という出版構造の改善、4)電子書籍利用の広報、5)契約上義務的に5冊分購入する必要があるため高単価であり、業者へ改善要望が必要、などである。

 

4. おわりに

 韓国における電子書籍産業は、政府がその発展を推進しているとともに、民間企業の側でも電子書籍を図書館へ積極的に販売することで成長を遂げてきた。しかし、もともと公共図書館の予算は出版点数に対して貧弱であること(22)から、最近は市場拡大のため、個人向けの販売を強化している。

 図書館にとっては、3.5.で見たように、紙の書籍に比べると、電子書籍が活発に利用されているとは言い難いようである。ただ、韓国では、公共図書館への「デジタル資料室」設置を推進するとともに、一部の学校図書館にも「デジタル資料室」の設置を進めた(CA1578参照)結果、インフラは整備されているといえる。3.5.で電子書籍担当司書がインタビューで答えたように、追加周期を短縮してコンテンツの充実を図り、電子書籍利用の広報といった利用活性化策を工夫する等すれば、図書館における電子書籍の利用が伸びる余地は大いにあるように思える。

関西館総務課:田中福太郎(たなか ふくたろう)

 

(1) 2005年の韓国の電子書籍事情についてはE404を、電子書籍事情および図書館への電子書籍導入状況については、以下を参照。
竹井弘樹ほか. 韓国におけるブロードバンド時代の電子ブック市場とハイブリッド図書館事情. 医学図書館. 2006, 53(4), p. 361-367.

(2) 韓国の図書館における電子書籍の導入実例報告については、以下を参照。とくに後者は、非来館型電子図書館事情について詳述している。
竹井弘樹. 韓国のネット利用と図書館情報化事情. 情報の科学と技術. 2007, 57(1), p. 26-33.
http://ci.nii.ac.jp/lognavi?name=nels&lang=jp&type=pdf&id=ART0008120649, (参照 2009-11-03).
竹井弘樹. 日韓における電子図書館の違いはなぜ生じているのか―日韓におけるハイブリッド図書館推進事情の比較により考察―. 専門図書館. 2008, 230, p. 20-26.

(3) 「部」は日本の「省」に相当。

(4) 문화체육관광부. “제4장 콘텐츠 산업 부문별 성과 및 전망”. 2008문화산업백서 : 연차보고서. 2009, p. 361-362.

(5) 한국소프트웨어진흥원. 2008년도 국내 디지털콘텐츠산업 시장조사 보고서. 2009, 314p.

(6) 舘野晰. “5 IT大国・韓国の電子出版”. 韓国の出版事情(2008年版). 出版メディアパル. 2008, p. 20-21.

(7) 황세림. 북토피아, 미자급 저작권료 58억 원?. 출판저널. 2009, 398, p. 24-29.

(8) 문화체육관광부. “제4장 콘텐츠 산업 부문별 성과 및 전망”. 2008문화산업백서 : 연차보고서. 2009, p. 361-362.

(9) 문화체육관광부. “제4장 콘텐츠 산업 부문별 성과 및 전망”. 2008문화산업백서 : 연차보고서. 2009, p. 362.

(10) 삼성전자. 삼성전자-교보문고, 전자종이 단말기로 국내 전자책시장 활기 불어 넣어. 2009-07-27.
http://www.samsung.com/sec/news/newsRead.do?news_seq=14177, (参照 2009-11-03).

(11) 구본권. 삼성, 전자책 시장 진입/31일부터 단말기 판매. 한겨레. 2009-07-28, 17面.

(12) 최현미. 전자책의 미래 ‘콘텐츠’에 달렸다. 문화일보. 2009-08-03, 24面.

(13) デジタル化されたデータを電子媒体に収録した出版物(オンラインのみのものも含む)に、EPマークおよびECN番号を付与し、電子出版物の効率的な製作、流通、利用を促進するためのシステム。韓国電子出版協会内の韓国電子出版物認証センターが窓口になっている。

(14) 付加価値税法第12条により、図書・新聞・雑誌等は免税になっている。

(15) 문화체육관광부. “제4장 콘텐츠 산업 부문별 성과 및 전망”. 2008문화산업백서 : 연차보고서. 2009, p. 368-369.

(16) 국립중앙도서관. http://www.nl.go.kr, (参照 2009-11-03).

(17) 서울대학교중앙도서관. http://library.snu.ac.kr, (参照 2009-11-03).

(18) 例えば、以下のようなサイトがある。
BookRail. http://www.bookrail.co.kr/, (参照 2009-11-03).
KSI eBook. http://ebook.kstudy.com/, (参照 2009-11-03).

(19) 장혜란. 대학생의 웹기반 전자책 이용에 관한 연구. 情報管理學會誌. 2006, 23(4), p. 233-256.

(20) 문화체육관광부. 2008년 국민 독서실태 조사. 2008, 490p.

(21) 정진한ほか. 도서관에서의 전자책 관리와 서비스 방안에 관한 연구 –대구 경북지역 도서관을 중심으로-. 정보관리연구. 2007, 38(3), p. 31-58.

(22) 2008年度の図書館1館あたりの年間資料購入費は7,428冊分であり、出版点数41,094冊と比べて18%に過ぎない。
한국도서관협회. 2008한국도서관연감. 2009, 874p.

 


田中福太郎. 韓国の図書館における電子書籍の提供. カレントアウェアネス. 2009, (302), CA1701, p. 8-11.
http://current.ndl.go.jp/ca1701