CA1292 – 英国納本制度の動向 / 平田紀子

カレントアウェアネス
No.244 1999.12.20


CA1292

英国納本制度の動向

英国の納本制度においては,現在のところ,電子出版物に対する納本規定はない。また,地方出版物の納本状況も概してよいとはいえない。「英国社会の偉大な遺産のひとつ」である,納本制度による「国の出版物アーカイブ」の形成に,このことは今後どのように影響するのだろうか。

英国の納本制度では,「出版日後1か月以内に出版者が出版物の最良のもの1部を英国図書館(British Library: BL)に無償で納本する」ほか,書面で請求があった場合,5つの指定図書館に対しても1部ずつ納本することになっている。現在,この納本制度の対象は印刷物に限られており,非印刷出版物に対する規定はない。この場合,非印刷出版物とは,電子出版物のほか,レコード,映画,カセットテープなどの視聴覚資料,マイクロ形態の資料も含まれる。

1996年1月,BLは,他の納本図書館,さらに英国映画協会と共同で,電子出版物の納本に向けての納本新法への提案書をまとめた。その中では,1)従来のとおりの複数館による収集・保存,2)現在著作権法の中にある納本法の独立,3)今後新しいメディアが出現した場合に,適切な時期に納本対象として指定できるような制度の確立,などを提案している。その後の答申では,印刷物については現行のとおり複数部・無償での納本が適切であるが,非印刷出版物の一部については,部数・代償について考慮すべきであるとしている。これは,1)1部あたりの生産コストが高いものについて,複数部の納本を義務づけることによって,国内での出版を阻害することになってはならない,2)印刷物と異なり,1部を同時に複数の人が利用できる,という理由による。また,非印刷出版物については,保存のためのメディア変換を認めるべきであるとしている。

このような中,ラフバラ大学は,図書館情報委員会(Library and Information Commission,用語解説T19参照)の委嘱による,地方出版物の納本に関する調査プロジェクトの中間報告をまとめた。このプロジェクトは,レスター市・レスターシャー・ラトランドをモデルに,既存の商工業や情報産業のための情報網を利用して,地方出版物の出版状況を把握し,また納本によって入手する方法を確立しようというものである。結論としては,1)BLや納本図書館の目の届かない地方出版物に関しては,地方の有力な図書館等の機関と収集・保存の面で協力すること,2)増大する出版物の量に対応するため,納本図書館間での分野別分担収集を行うこと,3)BLは納本図書館やそれ以外の図書館等の機関との収集・保存についての組織づくりをすること,などが提案されている。

現在,地方出版物の納本をめぐる問題点としては,出版者が多岐にわたっているために,出版者自身が納本の義務があることを知らないこと,そしてそのために,どのような出版物が出版されているか把握することもできないこと,などが挙げられる。その一方で,地方の図書館や情報機関の持つコレクションは「全部ではなくとも,少なくとも一部は」全国レベルで把握されている。このことから,地方出版物を従来の納本図書館がすべて収集するのではなく,より地方・地域の動向を把握しやすい地方の図書館や情報機関と協力することによって,「国の出版物アーカイブ」の充実を図ろうというものである。ただし,そのためには,長期保存するための目録や保存についての最低限の基準が必要になること,全国書誌への掲載をどのように行うかということ,等々,クリアされるべき問題点も多い。

出版物の増大,メディアの多様化は,図書館界にも大きな影響をもたらしつつある。今後の動向が注目される。

平田 紀子(ひらたのりこ)

Ref: Eden, Paul, et al. Legal deposit: local issues in a national context. Libr Rev 48 (6) 271-277, 1999
岡村美保子 イギリス:納本新法への見取り図 図書館研究シリーズ(34)177-188, 1997
Flint, Michael F, et al. イギリス著作権法 木鐸社 1999 245p
Legal Deposit of Publications: response from the British Library.
http://www.bl.uk/information/legal-deposit.html
(last update c1997) (last access 1999. 10. 22)